第23話 ADULT
「佑輝って何…?」
沙耶は怯えた顔で僕を見た。
「沙耶これは…」
「沙耶ちゃん」
僕が喋るより先に楓が声を発した。
楓は繋いだ手を沙耶に見せるように上に挙げると
「久しぶりだね、私の佑輝がどうかした?」
僕は背筋が凍った。
沙耶は知らない。寂しさを消し合う為だけのごっこ遊びの事を。
「ちょっと待って…何?ヒナ兄が…え?佑輝って…」
楓はあの目をした。
ハイライトのない淀よどんだ目。
沙耶の目から中に潜り込むような、不気味で意味なく人を抉えぐるような目だった。
「沙耶ちゃん、ここにいるのは佑輝」
僕は止めた。
「楓…やめろよ…」
沙耶はショルダーバッグのベルトを強く強く握りしめたまま黙って、固まった。
楓はくるっと振り返って僕の手を引きずるようにその場から離れた。
「楓っ…おいっ!」
少し移動して僕は手を振りほどいた。
「何…?」
楓はあの目のまま僕を睨むように見て
「だって…あなたは佑輝でしょう…?」
僕は目を背けた。
「そうだけど…」
楓はため息をついた。
「帰りましょ…」
楓はそう言って僕の顔を見た。
楓の目はとても妖艶で、どことなくギラギラとしていた。
俺は理解した。
たぶん抱かれるな…
*************
「ただいま…」
「お、沙耶!可愛い服は見つかった…どうした?」
お姉ちゃんは私の顔を見て声色を変えた。
「ごめん、お姉ちゃん…ちょっと一人にしといて…」
「あ…うん…」
私は自室に戻った。
部屋に入ってそのままベッドに身を投げる。
ヒナ兄が何を考えているか分からない。
楓ちゃんの言っている意味も分からなかった。
佑輝兄ちゃんがヒナ兄…
頭がぐらんとした、考えることを明らかに拒否している。
何というか、気持ちが悪い。
大事なことのように思えるから何度も考えようとする。
でも、やはり考えることを拒否した。
そんなことを頭の中で繰り返す内に、睡魔の坂を転がっていた。
ただいま。
その声で目が覚める。
ヒナ兄の声だ。
起き上がった時に気づいた。
私は何故か泣いていた様だった。
階段を上がる音が聞こえて、私の部屋の前を通ろうとしていた。
私は自室の襖を開けた。
ヒナ兄と話をしておかなくては…
ちょうど開けた時、ヒナ兄が目の前を通った。
「ど、どうした…?沙耶…」
そう言うヒナ兄の言葉に反応するより、早く頭に情報が入ってきた。
「い、いや…ヒナ兄…おかえり…」
私は話したかったことを言うのをやめて入ってきた情報の処理に努めた。
それは香り。
私の家のボディーソープの香りじゃ無かった。
ヒナ兄が部屋に行くのを見ながら、私は唇を噛んでいた。
何故そうしたのかは分からない。
けど一つの思考がくっきりと分かるように頭を埋めた。
ヒナ兄を盗られた…
唇を噛んだまま私は初めてかもしれない嫉妬と切なさを感じていた。
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