第18話 少女風情
お姉ちゃんは夕方かかってきた電話をとって少し話してから急いで家を出ていった。
その日お姉ちゃんは帰ってこなかった。
その日の夜、珍しく雨が降った。
今日は昼から雨が降ってる。梅雨だから珍しくもなんともない。
折りたたみ傘も持ってきた。
照彦 高校2年 6月
「サルはさ、最近晴希が佐藤先生にお熱なのはどう思ってるわけよ」
同じクラスの
「別に、なんとも思わねぇよ」
バナナおいしい。
「へー、俺はてっきりサルは晴希のこと好きなんだと思ってたけどな。」
バナナを頬張りながら俺は少し浮かない顔をした。
「え、なんか俺ダメなこと聞いた?」
「いや別に聞いてないけど…」
別にダメじゃない。
「じゃあ、何だよその浮かない顔は」
「好き…とかそういう概念が晴希に向けること自体が何だかな…」
「それは晴希の女性的な部分で失礼じゃないか?」
「女性的な部分感じるか?」
「…」
黙って真輝はそっぽを向いた。
「でも、恋してる晴希は似合わず乙女だがな」
真輝はそんなフォローを入れた。
「まあ、そうだな…」
確かになかなか見ない乙女の晴希だ。
中学入学から晴希を知っているが、あんな晴希を見たことがあるだろうか。
「あんな晴希、俺は知らないや」
「お前ら友達以上だけど恋人未満にもならないからな」
真輝は言った。
俺達は友達以上だ。それは合ってる。
でも俺達はどんな関係だ?
放課後になっても雨は振り続けた。
私は先生を職員室から呼び出して教室に来てもらった。
先生は適当な机に座って私に言った。
「晴希ちゃん、何、話って?」
佐藤先生は私をちゃん付けして呼んだ。
私は机を挟んで立っていた。
言いたいことがある。
だから呼んだんだ。
私は拳を握りしめた。
口が動かない。
「あ…あの…」
「ん?」
「私…」
「どうした…?晴希ちゃん…」
「私…先生が…好き…」
先生は困った顔で言った。
「ありがとう…ね…でもごめん」
知ってたよ。
それでも私は今からダメなことを聞く。
「もし…先生に彼女がいなかったら私のこと振らなかった?」
先生はまた困った顔をして頬を指で掻いた。
「振った…と思うよ…」
申し訳無さそうにそう言った。
「な、何で…?」
私は答えの知ってる質問をした。
「だって…君は生徒で先生は教師だから…」
知ってた。それでも…。
私は1番先生から聞きたくない答えを求めた。だから泣きそうだけど質問を続けた、たぶん最後の質問。
「それだけ…?」
私の言葉を聞いた先生はもっと困った顔をした。
「あまり…先生を困らせないでくれよ…」
それから大きく息を吸って、吐いた。
「先生は大人で…君はまだ子どもだよ…」
私は息を吸い込もうとした。
息が詰まって、苦しくて吐き出そうとする息と一緒に目から涙が溢れた。
その言葉が1番聞きたくなくて、先生から求めた身勝手な言葉。
「…っくう…」
変な声が出て、でもその声を出した声が見られたく無くて両手で顔をおさえた。
「晴希ちゃん…」
先生は席から立って肩に手をかけようとしているのが気配で分かった。
その手を避けるように後ろに下がって半ば叫ぶように言った。
「ごめんなさい…!」
先生にそんな顔をさせてごめんなさい。
「もう…大丈夫です…先生は職員室に戻っても…大丈夫…です…」
「でも…」
先生は私のせいで変な責任を感じてしまった。
「ごめんなさい…先生…私は…もう帰ります…」
床に置いていた鞄をひったくって走って教室を出た。
晴希ちゃん!そんな先生の声が後ろから聞こえたけど、振り切った。
大人になりたい…
そんな思いが頭に残った。
「晴希、まだ教室にいるのか…?」
雨はまだ降ってて。
窓ガラスが冷たく濡れていた。
俺は下駄箱で晴希を待っていた。
別に待ち合わせはしていない。
でも待つ。何かそんな習慣が付いていた。
帰るか…
下駄箱から外に出て、屋根のある範囲で鞄から折りたたみ傘を出した。
傘を開いて雨の中に出る時に、荒い足音がした。
振り向くと晴希だった。
晴希は泣いていた。
俺はあえて触れない。
「晴希、帰るぞ」
いつも通りでいてあげよう。
そんな風に思った。
晴希はしゃくりあげる様に泣きながら、靴を履き替えた。
その後、俺の横に来て。
「傘…忘れちゃった…」
そう言った。
「分かった、俺の傘に入れよ。折りたたみだから狭いけど」
そう言って俺達は雨の中に出て行った。
出てから、たった5歩だけ歩いて晴希は立ち止まった。
そして泣き腫らした目で俺を見つめて言った。
「ホテル…行こっか…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます