第17話 つらくてからい
サル…なんで起きないのよ…
事故が起きてから初めての夜が明けた。
特に外傷は無い。でも、意識は戻ってなかった。
夜が明けた病院の外を見るとタバコを吸う人が一人いた。
照彦はあの時も静かに居てくれた。
お願いだから…照彦…
あの時みたいに私のそばに居続けてよ…
高校2年、6月
佐藤先生は昼休みを屋上で過ごす。
理由は簡単。
私は階段を上がって静かに屋上のドアを開けた。
先生がいた。屋上の柵に腕を乗せて体を預けていた。
私は静かに先生に近づく。
「先生、校内は禁煙ですよ?」
「んおっ!?」
先生はよほど驚いたのか変な声を出してくわえていたタバコを落とした。
「誰?!って晴希ちゃんか…」
先生は振り向いてそう言うと困ったように頭を掻いた。
「先生、タバコ吸ってるとこ見られたら怒られちゃいますよ?」
私は少しいたずら顔で笑う。
屋上は風が強い。
もうすぐ梅雨も来るかという時期に湿気た風が吹く。
「晴希ちゃん…内緒ね…?」
顔の前で先生は手を合わせた。
「何か奢ってくれます?」
「う…まぁいいよ…その代わり内緒にしておいてね…」
先生は困った顔で笑った。
私は先生の隣に同じように柵に腕を乗せた。
「じゃ、ジュースで」
「ずいぶん安上がりだな」
先生は笑った。
「ところでさ、先生って彼女居たんだ?」
先生はこっちを向いた。少し驚いていたようだった。
「え」
「噂、かなり広がってるよ?」
「早いな…女子の噂は…」
先生は少し遠くを見て言った。
「しかもプロポーズもしたんでしょ?」
「え、それも広がってんのか…」
「不用意に話しちゃダメだよ、せーんせ」
分かったよ、と先生は変わらず遠くを見て言った。
「ってことは先生、結婚するんだ?」
先生と同じ遠くを私も見た。
「どうかな…」
先生は私の質問に曖昧に返した。
「え?」
私は思わず外から先生に目を向けた。
「先生な、彼女にプロポーズしたけど返事待ちなんだ」
「え」
「1ヶ月くらい経ってる、もしかしたらダメかもしれない」
やばい、この気まずい感じはとにかくやばい。
私はふふっと笑う演技をした。
「フラれたら、先生。私と結婚してよ」
先生は笑った。
「別にそれでもいいな」
「どうよ、元気でた?」
先生は笑ったまま
「ありがとな、生徒に助けられちゃったわ」
先生はもたれていた柵から離れて大きく伸びた。
「ありがとな、晴希。先生、職員室に戻るわ」
そう言って屋上から先生は出ていった。
生徒…だもんね…
先生と生徒、何とかしてこの壁を壊せないか、午後の授業の間そんなことを考えていた。
どう考えても無理だ。
やっぱり無理だ。
学校が終わった。
帰る準備をしていると背中をぽんっと叩かれた。
照彦だった。
「飯、食いにいこーぜ」
「ごめん、いいや。そんな気分じゃない。」
照彦は私の肩を掴んで
「俺の奢りな、寿司。食べに行こ。」
そう言って私に背を向けた。
ぱっと振り返って
「バイトの給料が入ったんだよ」
寿司屋に行く道中、サルはバナナを食べていた。
どんだけ好きなんだよ。
回転寿司屋のテーブル席で照彦の向かいに私は座った。
照彦が2人分のお茶を入れる。
私も箸を2人分出した。
私がサーモンを取ると照彦がワサビをこんもり乗っけた。
「ちょっとサル」
「ん?」
「なにしてんのよ」
「ワサビ、鼻に来るぞ。」
意味が分からない。
こんなにしたら食えないじゃんか。
私が箸でワサビを取ろうとした時、気づいた。
「これ辛いよね」
「そりゃな」
いつもの照彦ならバカ笑いしてるんじゃないかな。
でもしないのは…
私は照彦の向かいの席から離れて、照彦の隣に座った。
そしてワサビまみれのサーモンを口に入れた。
「からい…」
「だろーな」
「めにしみる…」
「そうだな」
「照彦の服で拭いていい?」
「いーよ」
私は顔を照彦の服に押し付けて。
目からでるワサビの涙を拭いた。
「サルぅ…からい…」
「…辛いな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます