第16話 マケイクサ
佐藤先生は言った。
「人と猿は3つ違う所がある、何だと思う?」
その先生は私を当てた。
「あ…人は言葉を喋ります、あと火も使います…それから…」
何も出てこなかった。
教室が静かになった。
「二本足で歩く、道具を使う、だな」
佐藤先生はそうやって私に笑いかけた。
「ちゃんと勉強するよーに」
と言ってまた笑って黒板に何かを書き始めた。
先生が笑うと心がきゅっとなる。
私はたぶん先生のことが好きなんだと思う。
佐藤先生は生物の先生で今年赴任してきた私のクラスの担任。
「サルぅ…佐藤先生がかっこよすぎてツラいぃ…」
昼休み、照彦サルの机の前の席で後ろ向きに椅子に座って私は言った。
バナナを食べている照彦は面白くなさそうな顔で
「うるせぇなぁ…知るかっつの…」
「サル…私の話はしっかり聞いた方が身のためなのよ…」
「なんでお前に命を脅かされているのか分からん」
「とにかくっ佐藤先生を私の人生初の彼氏にしたい!!」
グッと握りこぶしを固めて言った。
「無理だな」
「サル…お前正気か…」
照彦はバナナを食べ終わってバナナの皮を持参していたビニール袋に捨てた。
「晴希、考えてごらんよ…晴希はどちらかというと綺麗な女性の部類に入るのに…」
「確かに私は綺麗だわ」
言われて嬉しい反面、照れるので少しおちゃらける私。
照彦は呆れながら笑って
「とにかく、晴希は彼氏出来てもおかしくないのに出来ないのは女らしくないんだよね、むしろ男勝りでさ」
うっ、実はあんまり言われたくないんだけどな…
私が苦い顔をしたからか照彦は
「分かってるよ、晴希が名前とか性格が少し男っぽいのがコンプレックスなのも」
でもさ、と照彦は続ける。
「そこが晴希のいい所なんだよ」
…っ!
照彦が珍しく私のいいところ言うなんて…!
その時、昼休みの予鈴が鳴った。
照彦は机の中から英語の教科書を出しながら
「はいはい、自分の席に帰った帰った」
と空いた片手でしっしっと手を振った。
私は座っていた椅子を戻して自分の席に向かった。
あ、トイレ行こ。
5分しかないがなんとかなるだろうと教室を出てトイレに行く。
トイレに行く廊下で教室に戻ろうとする違うクラスの女子とすれ違った。
別に、聞き耳をたてた訳では無いけれど。
聞こえた。
「佐藤先生ってプロポーズした彼女がいるんだって…」
私は足を止めて、彼女たちはそのまま歩いていった。
言葉を理解する間に何をするか忘れてしまった。
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