第4話 仕方ねえな
「ということで、どうしたものか途方に暮れております」
ピジャは自分の把握している事件のあらましを語り、その処置をどうすればいいか分からない旨を訴えた。
「ダモクレスの剣だな」
話を聞き終えたガズハはポツリとつぶやく。その言葉を聞いて、ピジャは顔を歪ませた。
「今は身に染みております」
「父上。そのダモクレスの剣とは何なのですか?」
「ああ。お前には話したことなかったっけ。異国の戒めさ」
「王の地位に憧れる家臣ダモクレスを玉座に座らせてみると頭上に細い糸で剣が吊ってあったという、王の地位がいかに危ういものかを示した話と伺いました」
「そうそう。よく覚えてんな。ドゥボロー」
「なんでも星の世界を旅されるシンハ様から聞かれた話とか。寓意に富んだ話で心に残りました」
ふわああと大きな声でロダンが欠伸をする。
「これは失礼。しかし、事件の話は良く分かりませんなあ。まあ、そのビジャールとかいうのが犯人でいいのでは? 凶器もそいつの持ち物のようですし。いずれにせよガズハ様には関わりないこと、頭を悩ませることもないでしょう」
だから言わんこっちゃないという表情でピジャを眺めやる。
「警句を軽んじて掴んだ地位だ。自分で何とかするのが筋です。ガズハ様もそれでなんとかという剣の話を持ち出したんでしょう?」
「まあ、それだけじゃないんだがな。俺に関わりがないというのには同意。ちょっとした退屈しのぎにはなったよ。ピジャ。まあ自分で頑張りな」
ピジャが口を開く前にハンノが反応する。
「父上。お気持ちは分かりますが、父上のお言葉とも思えません。先日、公平な裁きは統治の基本とおっしゃいました」
「まあ、そうなんだけど、その責任はこちらの方が今は担っているわけだ」
あまり喜怒哀楽を表さないハンノが珍しく不満をにじませた声を出す。
「人が一人死んでおります。その者の無念は正しく晴らさねば。また罪を着せやすい者にそれを被せるのはいかがかと」
握りこぶしを作って力説するハンノを見てガズハはやべーぞと思った。そういや、ハンノは無実の罪を着せられた経験もあるんだった。それ以外にも色々あって神経をすり減らしてきたんだよな。最近は落ち着いてきたと思ったがそんなに簡単に心の傷は癒せんか。
「だけど、俺が正しい答えを知ってるわけじゃないんだから、そこまで俺につっかからなくてもいいと思うぞ」
「そうかもしれませんが……」
ハンノは不満そうだ。
険悪な雰囲気を和らげるようにドゥボローが控えめに口を挟む。
「まずは周辺から解決してはいかがでしょうか?」
「なんだよ、周辺って?」
「事件の犯人を割り出すのはまず脇に置いておいて、巻き込まれた形のガルコーン様とパラド様の名誉を先に回復されては?」
「まあ、そうだな。で、何かいいアイデアでもあんの?」
「それは私めごときの浅慮をお尋ねになるよりも、もとより陛下も思いつかれておいででしょう?」
ガズハへの陛下という呼び掛けにビジャはあえて反応せず、ガズハの言葉を待つ。
「まあ、パラドは放っておいてもいんじゃないか。魔術の研究以外に興味ないし、他人の無責任な噂なんぞ歯牙にもかけないだろ。ただ、ガルコーンには迷惑な話だよな。立派な営業妨害だし。そうだなあ」
しばらく間をおいて、ガズハは再び口を開く。
「それじゃ、こうしよう。まず、今日の所はビジャにはお引き取り願おう。その上で、俺らでもう一度今の話を考えてみよう。疑問がでたら、明日、ロダンとドゥボローにちょっと現地まで行ってもらって確認するついでに、ガルコーンの噂の火消しをする。それでいいだろ?」
誰からも異議が上がらないことを確認して、ガズハはビジャに行った。
「今日の所はお引き取りを。2日後にまた来てもらえたら、何らかの話はできるかも。悪いがロダン、玄関までビジャ殿を見送ってやってくれ」
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