リコ lico【若葉】

岡田くんと再会し、お昼に食事をしてから、もうすぐ4年の月日が流れる。あの日、熱い想いを打ち明けられ、私は一瞬、先輩とのできごとがまだ自分の身に起きていない頃に戻れそうな錯覚におちいった。久しぶりに少しワクワクしている自分がいた。夜、携帯にかかってくる岡田くんからの電話には出たし、夕食に誘われたら、出かけていた。ただ、お互いの仕事の休みが合わず、丸1日会える日というのがなかなかやってこなかった。そうしているうちに、土曜にお互いが休みの日が重なった。岡田くんが、「両親は海外旅行中で、家には誰もいない。お昼に一緒にお好み焼きでも作らないか?」と提案してきた。私は楽しそうだと思い、了解した。


朝の10時頃、岡田くんの家を訪れた。岡田くんの実家は、私の実家から歩いて25分のところにあった。

私は自転車で行くことにした。何だか自転車に乗るのは久しぶりだった。


私たちは近くのスーパーで、食材と飲み物を買った。


「岡田くん、ビールほしいんじゃないの?」


と、尋ねると


「昼間っから酒飲むのはちょっと。」


と言って、ウーロン茶やジュース類を選んでいた。


帰ってから、野菜をきざむのは私、粉を調合するのは岡田くんと、係りを決めて共同作業をした。

私の包丁の扱い方を見て、岡田くんは


「由季は料理してるんだね。すごく慣れているもの。」


と私に言った。私は、


「高校生になってから始めたの。うちは、母が居なくて父と二人だったから、作って父親と一緒に食べてた。」


と答えた。

しばらく間があってから岡田くんは


「お母さん、病気か何かで?」


と、尋ねてきた。

私は頭を左右横に振って、


「ううん。違うの。

私が小学生のときに好きな男の人ができたみたいで、私と父を捨てて夜逃げしちゃった。」


私は顔を上げて岡田くんを見て微笑んだ。


「え、それからは?1度も会っていないの?」


岡田くんも私を見て、そう聞いた。


「うん。

だって、どこにいるのかも全然わからないもの。」


私は困ったような顔をした。岡田くんは私を見つめたまま、


「随分な目に合った、というか、すごい体験してるんだな。俺だったら荒れてるよ。」


そう言ってうつむいて、また作業に入った。


「私も荒れましたよ。」


私はにっ、と笑って見せた。岡田くんはとっさに顔を上げ、


「うそだろっ。」


と驚いた。


「ほんとよ。寂しくて、気が半分狂っていたの。

その時に出会った先輩がいて..」


私は、はっとした。普通にあのことを話しそうになっている自分に驚いていた。


「先輩?

いい人だったの?」


岡田くんは調合しながら、普通に聞き返してきた。何も気づいていないようだった。


「どうかな..ふつうなんじゃない。」


私はすごく適当に答えると、岡田くんは


「なんだ、それ。」


と言って笑った。

いつの間にかお好み焼きの下準備は終わった。

あとはホットプレートで焼きながら食べた。交代で焼きながら、私たちはうまいうまい、と言ってたくさん食べた。冷たい飲み物もおいしかった。


食事が終わり、洗い物やテーブルふきなんかも全て終わった。

私たちは食卓から離れてソファーでくつろいだ。

少し沈黙が続き、それをそっと打ち破るように岡田くんが尋ねてきた。


「由季。

抱いていいか?」


私は言葉ではなく、首を縦にふった。


「俺の部屋2階にあるからゆっくりしてて。俺、シャワー先にしてくるから。」


私は、またうなずき、2階に上がった。彼の部屋だけはドアが開きっぱなしだったので、すぐにわかった。岡田くんには3つ歳上のお姉さんがいて、最近、結婚して家を出たと最近聞いていた。岡田くんの部屋は初めてだけれど、【木】という印象が強かった。家具が木製のものだったし、カーテンは明るい緑色で、木々の絵が描かれていた。ベットシーツは紺色だった。落ち着く空間だと、感じた。私は床に座り、岡田くんを待った。

私は不安もあったけれど、岡田くんになら、自分の身体を安心してゆだねられる気もしていた。


岡田くんが部屋に入って来て、


「良かったら、由季も入る?」


と勧められ、私はシャワーを借りることにした。シャワーに入っている間、岡田くん今、どんな心境なんだろう、と考えていた。


部屋に戻ると岡田くんはベットに腰をかけて座っていた。


「ここにおいでよ。」


岡田くんは自分の隣をポンポンとたたいた。


「うん。」


私は返事をして横へ行った。

岡田くんに抱き締められた時、私はチクチクと身体に痛みを感じたが我慢していた。

唇を重ねられても、唇も同じように痛い。私は少しのけぞったが、それを岡田くんは私が感じたと思ったようで、積極的に首筋や胸などに唇をはわせ、頭をなでたりしていた。私の身体中の感覚器が過敏症を起こしているようだった。さわられても唇をはわせられても、チクチクと痛む。私は我慢できず、また身体がのけぞった。のけぞる時に声がもれて、岡田くんは勘違いをして興奮していった。

岡田くんの指が、中に入ってくる。


..痛いの。


私の声はとても小さくなっていた。

岡田くんには届いていないようで、岡田くんは中に入ってこようとした。

私は痛すぎて、


「無理なの。」


はっきりとそう言って、


「痛くて..」


とだけ言うと、涙がとまらなくなった。

岡田くんはすぐに動作を止め、私を抱き寄せた。抱き寄せられても痛むことが悲しかった。


「とりあえず、服を着よう。」


岡田くんはそう言った。二人は落ち着きを取り戻し、岡田くんは私にこう言った。


「性的なことで、何か昔嫌なことがあった?」


私はうなずき、


「中学時代の先輩におそわれそうになった。」


とうつむきながら、答えた。


「ひどいな。そいつ誰?」


と聞いてきたが、私は頭をふり、


「関わらないほうがいい。ありがとう。」


と、答えた。

時間はもう夕方近かった。


「送るよ。」


岡田くんはそう言って立ち上がった。私も立ち上がり、家の近くまで自転車で送ってもらった。


「また電話するからね。」


岡田くんはそう普通に言って帰って行った。


私は自分の部屋に戻ると異様に疲れていて、その日はそのまま朝まで眠ってしまっていた。


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