ホク hoku【星】
仕事帰りにスーパーに寄った。
12月まだ上旬だというのに、スーパーは外も中も、クリスマス仕様となっていた。
一段と季節が進み、寒さに深みが増した。
私は、うどんが食べたくなった。なんだか、のどが痛む。アルミ鍋にうどんがセットされているものを選んだ。みかんも少し買い、風邪だといけないので、スポーツドリンクとプリン、ヨーグルトも買っておいた。
風邪薬は市販のものが家に残っていたことを思い出した。
アパートに着いて、電気を付ける。まだ夕方浅い時間でも、この部屋は暗くなる。なぜなら、南向きに大きめの出窓1つしかないからだ。
寒いので、エアコンも付けた。
買ってきたものを冷蔵庫にしまう。
時間は5時前と少し早いが、湯舟にお湯をはり、お風呂に先に入ってしまうことにした。
ジャージとトレーナーのような感じの部屋着を用意した。
私はお風呂が今まであまり好きとは思えなかったけれど、一人暮らしになって、少しその温かみがわかるようになり、好きになりかけている。
風呂から上がり、着替えてソファーに座りテレビを付けた。
引っ越してきてから最初に買ったのは、この二人かけのソファーだった。大きめのが欲しかったから。
この部屋にはロフトが付いていて、そこをベット代わりにできたので、部屋はより広く使えた。
でも、いざ一人になるとロフトに上がって眠ることがとても寂しく感じた。生活感のあるものの側で眠りたかった。
だから、私の寝床はずっとこの赤いソファーになっていた。
毛布と上布団をロフトから下に投げて、それをかぶって眠りにつく。
テレビはつけっぱなしの日も多かったし、最初の頃は、浴室もトイレも部屋の電気も、全ての電気を付けたまま眠っていた。
私は小学1年で母が夜逃げしてしまってから、夜、祖母も自分の家に帰り、父がまだ仕事から帰らないその間、同じように、家の中の全ての電気をつけて、自分の部屋のベットで寝ていた。部屋のドアも全開で。
父は帰ってくると、真っ先に私がいるか、確認しに来た。そして家の中の余分な電気を1つずつ消していった。私の部屋の電気を消し、ドアを閉めようとした時、私は、
「閉めないで」
と言った。
「ごめん。まだ起きていたんだな。」
そう言ってドアを開けたまま父は部屋から離れた。
【お父さん、行かないで。】今度は心の中でそう思いが溢れて、涙が流れた。
何度も何度も、私は涙を流しながら、育っていった。その寂しさに慣れて、感覚が鈍るまで。
そんなことを、鍋焼うどんを食べながら、テレビを見ながら、思い出していた。
「いつでも、電話くれていいから。」
岸本さんは、喫茶店でコーヒーを飲みながら、あの日、私にそう言った。
いつでも電話していいひとがいる。その安心感ははかりしれないものだった。
私はやはり、風邪をひいていたようで、みかんと風邪薬も飲んで、早々と毛布にくるまり、テレビを見ていた。
風邪薬が眠りを誘ったのか、私に眠りは訪れ、深い眠りに落ちていった。
その日も電気を全開にして。
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