第5話 記憶売買システム
羽鳥ヒロトは鬱々とした日々を過ごしていた。
それは長年付き合ってきた彼女、神野サオリに振られたからだ。
忘れよう忘れようとしても、外を歩く度、食事に行く度、家に帰る度に、彼女のことを思い出してしまう。
楽しかった記憶と共に、それがもうないのだという絶望感が羽鳥を支配する。
こんなことになるなら恋愛なんてしなければよかった。
食欲不振も長く続き痩せてしまい、職場でも心配されるようになってしまった。
いい加減こんな生活を続けるわけにはいかない。
羽鳥は神野サオリとの記憶を売ってしまうことにした。
羽島は医務室で医師から話を聞いていた。
「羽島さん、いいですか、確認です。忘れたい記憶、あなたの場合は付き合っていた相手、神野サオリさんですね。神野サオリさんに関して反応する記憶の神経細胞ネットワークをコピーして、それからレーザーでそれらを焼き切ります。なので手術が終わるともう二度とその記憶を戻すことはできません。よろしいですか?」
「構わないです。もう決めましたから」
羽島は手術室に移動した。
羽島は病室のベッドで目を覚ました。久々のスッキリした目覚め。
「ああー、よく寝た」
自分が記憶消去の手術をしたことは覚えている。何に関しての記憶を消したのか分からないが、こんなスッキリした気持ちになるなら消して構わない記憶だったんだろう。
手術費用は消した記憶プロセスを売ることで賄うことになる。
人が消したい記憶なんて買う人がいるのか疑問だが、どんな記憶であれ買う人はいるらしい。
そして羽島は彼女と出会う前の生活に戻っていった。
「ヒロト、やっぱり、ヒロトよね」
羽島は街中で一人の女性に話しかけられた。
「私あれから時間がたって気付いたんだけど、やっぱりヒロトといる自分が本当の自分だって気付いたの」
「……申し訳ないですけど人違いだと思いますよ」
羽島は必死に記憶を探ったが、目の前の人物に対し思い当たる節は全くなかった。
「……。そう、そういうことなのね。ごめんなさい」
女性はうつむき、去っていった。
なんなんだろう。こっちの名前を知っていたのは気持ち悪いが。
その後、神野サオリは別の男性と出会い付き合うこととなった。
その男性とは共有できる過去があったので、本当の自分でいることができたのだった。
了
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