第2話 ガニメデの破壊兵器
「最悪だ……。この世の終わりだ」
博士がその言葉を呟くのも今月に入って三回目だった。
「どうやってもシミュレーションが破綻する。ガニメデの破壊兵器に地球は破壊されてしまう……」
ガニメデからの破壊兵器が地球にやってきたのは半年前のことだった。
カマキリの様な外見をしたその破壊兵器から射出されるビームによって、地球は甚大な被害を受けた。
世界各国の軍隊総動員によってなんとか倒したものの、その一体の破壊兵器に地球の六分の一が破壊されるという有様だった。
そして、地球人がホッとするのも束の間、新たな情報が入ってきた。
それはガニメデには既に新たな破壊兵器が十体完成間近という情報だった。
「一体ですらあれだけの被害を被ったのにそれが十体とは…。」
その情報が入ってからはずっと博士と助手はその破壊兵器に対抗する為のシミュレーションを行ってきた。
「やはり現有戦力に差があり過ぎる」博士はうなだれる。手元の机にあるコーヒーはすっかり冷めている。
「もう一度世界戦略会議を行いますか?」助手は提案した。
「いや、無駄だ。あいつらには根本的な問題がある。人になんとかしろと言うだけで問題解決の具体論を語り合うことができない。それに未だに各国の利権を頭から離すことができない。国どころか星の危機だというのに!」博士は机をドンと叩く。
「各国の首脳を変えさせますか?」
「いや、今更変えても無駄だろう。根本的な体質はそう簡単に変わる訳ではない」
「自然災害を利用する方法は?」
「それも難しい。火山や台風はコントロールできれば強力だが、破壊兵器のAIだって馬鹿ではない。コントロールできない力は避けられたらお終いだ」
「ウィルスプログラムによって破壊兵器を乗っ取るのは?」
「それも非現実的だ。まず向こうのプログラム言語自体が分からん。その解析から始めんといかん。時間さえあれば破壊兵器の壊れた検体からもっと分析が出来るかもしれんがいかんせん時間がない。十体の破壊兵器が地球に来るのは既にもうあと一ヶ月後だ」
「結局、新兵器が出来ることが望みですかねえ」
「そうだな。各国が利害関係を乗り越えて新たな対抗兵器を造ることができれば或いは。しかし後一ヶ月しかないが……」
近年の地球の軍事技術は国同士の戦いというよりも対テロへの技術開発が中心になっていた。その為、より大きなマクロな兵器よりも、より小さく高性能なミクロな兵器の開発にシフトチェンジしていた。
それが今になって仇となり、マクロな兵器の開発は進んではいなかった。
「では『あれ』を使いますか?」
「……。」博士は押し黙った。「……いやあれは最後の最後の手段だ。できれば使いたくない」
博士は顔を引き上げた。
「軍事技術者と科学者同士を引き合わせてみよう。何か新しい物が生まれるかもしれん。そして私達は私達でシミュレーションを繰り返そう。見逃している手があるかもしれん」
そして一ヶ月後がやってきた。
地球の上空に現れる十個の黒い影。
その黒い影が月明かりに照らされてカマキリの様なその姿を現した時、地球上の人間達は終わりを悟った。
しかしその時、破壊兵器の更に上空に赤く煌々と光る物体が現れた。
それは真っ赤に燃える生命体だった。
その生命体はガニメデの破壊兵器に燃える球を投げつけた。すると超高熱の炎に焼かれ破壊兵器は燃えだした。
反撃のビームを出す破壊兵器だが、ビームは燃える生命体をすり抜けるだけでなんのダメージを与えられない。
生命体は次々に破壊兵器を攻撃し、とうとう全ての破壊兵器を逆に破壊してしまった。
呆気に取られる地球人達。しかし現実を認識すると狂喜に打ち震え拍手喝采するのであった。
が、燃える生命体はそこで止まらなかった。
次は地球の地表めがけ、燃える球を投げつけていった。
「これは酷い、この世の終わりだ」
助手は宇宙船の窓から地球を眺め呟いた。
地球の表面は火の海になっていた。比喩でなく本当に。
「仕方ない。あの生命体『グレン』は体中の熱エネルギーを全て排出するまで消えることはない。だから出したくはなかったのだ」
「私も見るのは初めてですがここまでのものだとは思いませんでしたよ」
「また一からやり直しだな。長い道のりだ。しかし仕方ない。地球を支配するのは私達エウロパ星人なのだから」
そう言うと博士は八本の手足の内一つを使い、コーヒーに角砂糖入れた。
了
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