Dr.Yamada file.3【 UFOが降ってきた日 】

 その日、人類は驚きを持って迎えた。

 天空から無数のUFOが地球に向って降ってきたのだ。銀色に輝く円盤がいきなり現れて地上に着陸していった。それは各国の軍事レーダー網にも引っ掛からず、突然出現したステルス型のUFOだった。

 その数、おおよそ10万機、直径50センチほどの超小型UFOである。町外れにある小高い丘の上に集結していたが、今のところ動きもなく、なぜ、こんなにも大量のUFOが舞い降りてきたのか、まったくもって謎である。


 この非常事態に、世界的なUFO研究家として知られるDr.ヤマダが召喚された。

 彼は民間組織『UFO倶楽部』の主催者で、数多くの著書があり、TVのUFO特番では必ずコメンティーターとして出演する有名人なのだ。

 ユニークなキャラクターで知られる彼は、UFO研究の第一人者として宇宙人とコンタクトをとる方法を熟知していると思われている人物である。

 時々、NASA(アメリカ航空宇宙局)にも呼ばれているという噂もあり、ひょろりと痩せた肢体からは常人ならざるオーラを放っていた。


 近隣住民が避難した丘の上で、Dr.ヤマダとそのスタッフはマスコミのカメラが見守る中、人類初の未知との遭遇イベントを粛々と始めた。日が沈んだ暗闇に篝火を焚き、シンセサイザーが創りだす幻想的な音楽を流しながら、無数のUFOの前でDr.ヤマダは大声で意味不明な言葉を発している。

 スタッフの説明によると、宇宙人の言語で『いらっしゃいませ。地球人はお友達だよ。仲良くしましょう』と言っているそうだ。

 Dr.ヤマダは全身を銀色ラメの衣装に身を包み、ライトが点滅する帽子を被っている。しかも大げさな振りを付けて喋っているものだから、さながらボードビリアンのコントを見ているようで、これが有事だという緊張感すらなかった。


 TV中継を観ていた世界中の人々はDr.ヤマダのパフォーマンスに爆笑しながらも、何が起こるか分からない展開にドキドキしていた。

 ――だが、UFOから反応が全くない。

 小一時間、コンタクトを取り続けるが微動だにしない、ついに業を煮やしたDr.ヤマダは太鼓や銅鑼を叩いてドンチャン騒ぎを始めた。

 すると突然、夜空に巨大UFOが出現した。

 これは小型UFOの母船だろうか? 旋回しながら円盤の底から青白い光線を発した。すると、小型UFOの中央部がパカッと口を開いて、中から閃光を放つ小さな球体がいっぱい飛び出してきて、一目散に空へ向って上っていった。

 何が始まるのだろうか? TVの前で人々はかたずを呑んで見守っている。


 なんと驚くなかれ、夜空をスクリーンにして、宇宙のイリュージョンが始まった。

 閃光を放つ球体は色彩を変化させながら、七色の虹を夜空に架けた。次に揺れるカーテンのように光り輝くオーロラを創った。

 その幻想的な美しさに、思わず息を呑む。TVの前の人々は慌てて屋外に飛び出し夜空を見上げた。

 まだまだ続く宇宙のイリュージョン。次々に繰り出される閃光のマジックに世界中が時間を忘れた。終盤にはディズニーやジブリのアニメキャラまで精密な立体画像で描き出して、アニメファンたちを歓喜させた。

 どうやらUFOは地球の電波を受信しながら、地球人がどんな演出を喜ぶか、リサーチしていたようだ。なかなかサービス精神旺盛で気の利く宇宙人だと感心させられる。

 そろそろ首が痛くなる(夜空を見上げ過ぎた)二時間を経過した頃、母船のUFOからアナウンスが流れた。


『地球の皆さん、宇宙のイリュージョンをご覧くださりありがとう! さて観覧料は、この惑星の化石燃料三年分でございます』


 化石燃料って、石油や石炭や天然ガスのことか!? 人類の生活に欠かせない化石燃料を三年分も搾取されたら、地球は資源不足で滅亡してしまうじゃないか!!

 勝手に、宇宙からやって来てイリュージョンを観せたくせに……いきなり観覧料をよこせだと? このやり方は勝手に電波を流して聴収料を請求する、某国営放送と同じだと人々は思った。

 その時、母船に向って一人の男が大声を張り上げ抗議した。

「アンタたち! 地球には著作権という法律があるんだ。有名アニメを無許可で使ったら、立派な犯罪なんぞぉー!!」

「ディズニーやジブリのパテント料を舐めんなっ!!」

 みんなイリュージョンに見惚れて、その存在すら忘れていたDr.ヤマダが良いことを言った、まさに正論だ。

 母船はしばらく沈黙していたが、


『そういう法律が地球にあると知らなかった。銀河連合憲章に、その惑星の法律を遵守するという規則がある。謝罪して、観覧料は無料とする。迷惑をかけて申し訳ない。ならば我々は引き揚げるとしよう』


 母船は閃光を放つ小さな球体を小型UFOに戻し回収を始めた。


 飛んでいた謎の球体をDr.ヤマダは虫取り網で捕まえた。それは黄金虫くらいの昆虫で、透明な体の中に発光体があり、いろんな色に変化していた。

《この虫を調教して芸をさせていたんだな。まるで蚤のサーカスじゃないか》

 撤収して、宇宙へ旅立とうとする瞬間、Dr.ヤマダが叫んだ。

「おーい、俺も連れていってくれ! 宇宙に旅立ちたいんだ!」

 その叫び声に母船が空中で停止した。

『我々と共に宇宙を旅したいというか?』

「そうだ! 俺も宇宙船の乗組員になりたい」

『自分の星に二度と帰れないかもしれないが、それでもよいのだな?』

「構わない。銀河の果てをこの目で見たいんだ」

『君のパフォーマンスはユニークだった。では特別に許可しよう』

 UFOの底から光の柱が放射され、その中にDr.ヤマダが吸い込まれていった。そしてTVを観ていた人々が瞬きをした瞬間、巨大UFOはTVの画面から突然消えていた。


 UFOが降ってきた日、地球から一人の男が宇宙へと旅立った。

 その後、その男がどうなったか知るよしもない。果てしない銀河の果てを彷徨っているのかもしれない。そして、いつの日にか宇宙から舞い降りたDr.ヤマダが人類と宇宙人との架け橋となることだろう。


 See you again!




                 ― End ―

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