第5話 テンプレと魔術理論

「おいおい、それは流石に理不尽が過ぎないか?」


 取り敢えず口を挟む。


「新人風情がなにほざいてんだよ、ああ!?」


「こちとらC級パーティだ、舐めた口きいてると──」


 そう言うと、おもむろに剣士風の男が殴りかかってきた。


 筋骨隆々の大男の拳だ、少しは手を抜いているようだが、まともに食らえば骨の一本や二本逝ってしまってもおかしくは無い。


「危ないっ!」


 エルが駆け寄ってくるがしかし、間に合わない。このまま俺は為す術もなく殴られ──。


「なんてね」


 キイイイイン!!


「なっ!?」


 なんてことは無かった。俺の顔面を狙った男の拳は、三十センチ程手前で仄かに光る魔術式に阻まれている。


『魔術式防壁『アイアス』、第一防壁の自動展開を確認。展開率は5.5パーセントです』


「詠唱も無しにどうやって⋯⋯」


 もちろんリリの声など聞こえないため、何が起こったか分からず呆然とする剣士。いいマヌケ顔だ。


「──よし、この際こいつらには講義に付き合ってもらうとするか」


『あー調子乗り始めましたねこれは⋯⋯』


 魔王による魔術講義、始まります。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「魔術とはすなわち術式、詠唱、儀式などにより魔力に指向性を持たせ、神秘を発現させることを指す」


 バチリ、と俺の体から蒼い魔力が滲み出す。魔術行使の予兆を示す、魔力の発露。


「特によく用いられるのは詠唱。ことで魔術式を構築し世界のシステムに干渉、『本来はそこで起きないハズの現象』を起こすことが出来る」


「さっきから何をごちゃごちゃ⋯⋯!」


 今度は男が蹴ってきた。だがそれもあえなく防壁に阻まれる。


「くそっ、ふざけた格好しやがって!こいつ魔術師か!」


 どうも剣士もどきのような格好をしていたため勘違いさせたみたいだ。すまんね。


「そしてこの詠唱を応用することで、魔術の発動速度、精度、その他諸々を工夫できる」


「おい、ゼル!こいつに魔術をぶち込んでやれ!!」


「いいぜ⋯⋯!」


 少し後ろから見ていた魔術師然とした男が、杖を掲げ詠唱を始める。


「──『我が願いに応え、大地の富を以て貫け、ソイルスパイク』!」


 その言葉と共に、俺の前の地面から土で出来た大きいトゲが何本かせり出し、一斉に襲いかかってきた。が、それすらも防壁に防がれあえなく破壊された。


「なに!?」


「だが、詠唱を工夫せずとも出来ることがある。例えば、こんなふうに──『我が願いに応え、大地の富を以て貫け──土の棘ソイルスパイク』」


 その詠唱は先程相手の魔術師が用いたものと同じもの。だが現出したのは人の大きさ程もある棘であり、それが数十本も「夜明けの狼」の周りを囲んだ。


「これはッ·····」


「込める魔力の割合をちょっと弄ればこんなふうに威力、向き、速度、展開位置なんかを詠唱を変えずに調整出来る」


「ふざけるな!魔力だけでこんな細かい調整ができるわけが無い!」


「そ、そうだ!何かしらの魔道具でも使ってるんだろ!」


「使ってない。今のはリリの補助も介在してない」


「くそっ·····おいゼル!もっと威力の高いやつをアイツにぶちかませ!」


「ああ·····!」


 ゼルと呼ばれた魔術師の杖にさらに魔力が込められようとしたその時だった。


「────そこまでです」


 その声と共にパン、という甲高い手拍子が一つ鳴り響き、皆の動きが止まった。



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魔王サマは不敵に笑う 楸(ひさぎ) @riku3106

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