第16話 『悩み事相談』 その3

 ようやく、ご主人が寝室に引っ込んでくれたので、ぼくは、幽霊さんと二人きりになれました。


 あたりは、もう地震の後の様な感じに、なっています。


 『で、何を聞いてほしんですか?』


 ぼくは、もう少し優しくして上げれば、いいのになあ、と、自分でも思いながら、ややつっけんどんに言いました。


 それから、さすがに、付け加えました。


 恨まれたら、大事(おおごと)ですから。


 『ああ、さっきは、助けてもらって、ありがとうございました。』


 幽霊さんは、気を取り直したように、ぼつぼつと、話しだしました。


 『はい。じつは・・・・・』


 突然、周囲の風景が変わり始めたのです。


 『むう・・・これは、なかなかの妖気・・・・意外と、現世への執着が強いな。』

 

 こいつは、十分に気を付けてかからないと、このまま、異世界に連れて行かれる可能性があります。


 でかパンダちゃんも、眼を半分くらい開けて、身体を低く沈めて、最警戒姿勢をとっています。


 『あたくし、この会社に勤めておりました。』


 そこは、なかなか大きな会社の、オフィスのようです。


 ざわざわとした音が聞こえてきました。


 たくさんの人が、忙しそうに動き回っています。


 電話のベルも、あちこちで鳴っています。


 『はい。『馬場ヤガー昆虫食品』です。』


 元気いっぱい電話に出ているのは、この幽霊さんの在りし日の姿です。


 いまは、真っ青で、うつ向いたままの、またく血の気のない顔をしておまりすが、この『幻想』の中では、薄あかいほっぺの、元気いっぱいの娘さんです。


 『はい。お世話になりまあす。はい!あ、『営業部長』ですね。少々お待ちください。』


 内線ボタンを押して、電話を転送しているようです。


 『あ、部長・・・『ガンバレ・ガンバレ製菓』の社長様からです。はい。』


 受話器を置いた彼女は、パソコンに向かいました。


 『あたくしは、このように、たいへん、元気でした・・・ほんの、少し前の事です。』


 『はあ・・・少し前、ですか。』


 『はい、まだ2か月くらいしか経っておりません。』


 『そうなんですか・・・』


 そうして、それから、恐ろしく冷たい空気が押し寄せてきたのです。


 部屋中が、凍り付いてしまうようでした。


 『ぎぃ・・・・』


 寒さが大好きな、でかパンダちゃんが小さな声を上げました。


 こいつがしゃべるのは、久しぶりです。


 しかし、ぼくは『呪いの時計さん』です。


 あまり寒いと、動きにくくなります。


 バリバリバリ・・・・・


 うわわわわ・・・・窓ガラスが、凍り始めました。


 『うあ・・・! な、なんと!』


 これは、おそろしく、危険な状態になってきました。


 

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