第9話 『同盟』 その4


 さすがに『御飾り様』の怒りに気が付いたご主人さまは、丁重に『廃棄』をしたようです。


 それ以来、転んだりはしていないようです。


 感謝してもらいたいものですな。


 ぼくの今回の計画は、ご主人の周囲で次々に嫌なことを起こし、ついには、精神錯乱から自決に追い込まんとする、恐るべき計画です。


 『まず隗より始めよ』というのは、隗さんが王様に対して自分を売り込む、巧妙な名文句だったようですが、(自分を雇えば、さらに優秀な人材が集まって来るぞ!という。)これは、いささか自分に自信が無ければ、とてもじゃないけど言えないセリフです。


 でも、考えてみれば、今だって人間さんは『履歴書』というものを書いて自分を売り込むわけですし、ぼくたちのような『モノ』たちも、作った人によってセールスされて、それぞれのご主人のところに行くわけです。


 だから、『履歴書』は、いかに自分を売り込めるか、というところが大切なのです。


 もっとも、最近、若い人間さんは、『AIさん』頼りなようですが。 


 まあ、ぼくのような、優秀な時計さんは電波を受信して時刻を調整するので、システムが動いている限りは、またぼく自身が壊れない限りは、きちんと正確な時を刻みます。


 しかも、太陽電池内臓なので、光がある限りは、止まりません。


 まあ、寿命が来て最終的に壊れたら、それはもう、なんでもお終いです。


 人間だって同じです。


 でも、寿命の中で、いささか『不調』になることは、人間にも機械にもありますよね。


 人の社会では、いろいろと、『社会福祉事業』なども行われていますが、専門のお人は別としても『壊れた人は、それでおしまい。まあ、元には戻らないし、あまり役には立たないさ。』という、一般のやや偏った、暗黙の了解事項があるらしく、何となく正しくない恐怖心さえ、抱かせるらしいですな。


 また逆に、『もう、なんでも普通にできるんだろう? してもらわなきゃあ、困るし。』


 と言われて、せっかく、直りかけてるのを、もう一回壊されることも、よくあるようです。


 ぼくたち『機械』さんだって、『こいつ、こんどは、爆発するんじゃない?』とか、言われてしまう事もあります。


 人間さんも機械さんも、維持するには費用が掛かるのです。


 このあたりのさじ加減は、なかなか難しいのです。


 また、壊れた本人も、自分の障害や問題点を理解して受容することが必要なんだとか。


 これは、なかなか人間さんには、苦しいことだとは思いますね。


 自分の自我や、経歴や、功績などを諦めなければならないし、でも、やろうとしても、以前のようにはもう出来ないし、暗黙の怪しい視線を感じながら、耐える必要もあるわけだから。


 ご主人のお話では、中には、『この人、おさぼりさん!』とか思って、正義感から攻撃してくる方もあったとか。


 でもね、ぼくは、『優秀な呪いの時計さん』です。


 人間は、1次元的方向にしか物事を考えないけれど、ぼくは多次元的に考えるのです。


 ある『能力』が壊れても、実はそれは、別の能力の開始なことが多いんです。


 だから、『うつ』で仕事辞めてしまって、おかしな『お話し』を書いて遊んでいるご主人様を、この際、徹底的に壊してしまって、この世ではない『地獄』で、新しい能力を発揮してもらおうというわけなのです。


 そこで、ぼくは、まずは、お庭にたくさんの『蛾』さんを呼び集め、秘かに、玄関のヒサシの下とか、壁とか植木とかに、いっぱい卵を産んでもらったのでした。



 ひひひひひ、ひぇッヒぇっひぇッ!!!




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