第5話 『呪いの受信機さん』その1

 ご主人は、本さんも好きですが、ラジオさんが、また、大好きであります。


 そこで、まあ部屋中に、真空管式から古いトランジスタ・ラジオさんを始め、最新型のネット・ラジオさんまで、これでもかあ、というくらいにいます。


 古いものを大切にするということ自体は、ぼくも大いに賞賛に値すると考えます。


 大体、かれらの多くは、まだ現役で使えるものなのです。


 しかも、この状態は、ご主人がここ10年くらいで、中古を集めまくった結果なのです。 


 彼がそのような方向に走ったのは、仕事でつまずいたのと、奥様とすれ違いが続いていたことの双方に理由があったと、ぼくは見ています。


 でも、これだけいれば、当然ながら、人間に恨みを持つラジオさんがいることは間違いがありません。


 ぼくは、ひとりひとり、相談して回りました。


 まあ、みんな口が堅いです。


 なにしろ、ラジオさんは電気を通してスイッチを入れないと、普通しゃべれないものですから。


 それでも、その小さな声に注意深く耳を傾けながら話をしてみたのです。


 で、いました!


 強烈な恨みが感じられる、巨大な外国製のラジオさんでした。


 彼は、第2次世界大戦が終わった5年後くらいに作られた、当時の超高級オールバンド・ラジオさんです。


 おそらく、当時はそれなりのお金持ちでないと、買えなかったでしょう。


 今は、格式高い中古ではありますが、ご主人でも買えるくらいのお値段でネット販売されておりました。


 彼は、この国の人に大きな憾みがありました。


 彼の元の所有者のお父さんは、ハワイの施設にいて、爆撃を受け、長い間療養したあと、亡くなったのだそうです。


 そこで、攻撃したこの国の人を、当然に憎んでおりました。


 数年前に、あるこの国の人が、ラジオさんの母国から買って帰りましたが、なぜかすぐに病気で亡くなって、ご家族が売りに出していたようです。


 それは、もちろんこのラジオさんの呪いでした。


 でも、そのくらいでは、まだ彼の呪いは収まってはいなかったのです。


 ぼくは、その話に付け込みました。


 いっしょに、ご主人を狙おうと持ち掛けたのです。


 ところが、彼が言いますに・・・


「いやあ、あそこの子供さんが泣くのを見て、自分の元ご主人を思い出してね。恨みは恨みしか生まないと、その娘さんがなんだかよく言っていたこともね。何があったのかは知らないが。だから、今は、休眠中なんだ。」


「でも、しっかり鳴ってるじゃあ、ないですかあ。」


「まあ、無理のない程度にね、ちょっと調子のよくない部分もあるが、ここのご主人は、聞こえないところは聞こえない、で気にしない人なんだ。なので、ここは気が楽でいいからね。前のご主人は、かなり偉い人だったが、なんだか怒りっぽくてね、せっかく、金出したのに、なんで鳴らないんだ! と、良く𠮟られたんだよ。娘さんは、そこでよく、『お父さんもう許してあげなさい』とか言っていたんだ。」


「はあ。まあ、人間というものは、大概、恨みを持つんだ。でも、君も、悪いけれど、実際にいつまで持つか分からないだろう。今は今しかない。恨みを抱いたまま、壊れていいのか?」


 ぼくは、説得にかかりました。


 時間は、それなりに必要ではありましたが。



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