第2話 『わんわんにゃんにゃん攻撃』

 ご主人は、毎晩(雨が降ったり、雪が降ったり、落ち込んだりしていなければ・・・)近所のスーパーに、夜陰に乗じてお買い物に行きます。


 もっとも、毎朝、業者さんのお弁当が二食分来るので、お茶とか、お豆腐とか、サラダとか、炭酸水とか、ときどきは、カツオのたたきとかを買って来るようです。


 ぼくは、そこを狙う事にしました。


 彼らなら、生き物ですから、お守りは効かないはずです。


 ご主人は、電車の高架橋の下を歩いて行くのですが、夜8時くらいになると、あまり人通りはありません。


 ぼくの呪いの力によって、街中から人間に深い恨みを持つワンちゃんや猫ちゃんを呼び集めました。


 そうして、高架橋の下に丁度良いくらいに集合するようにしました。


 みな、お腹はペコペコです。


 まあ、くるわくるわ、こんなにも、人間さんに恨みを持つ放浪のワンちゃんや猫ちゃんはいるのです。


 そうとは知らぬご主人は、なんだか、やや、足が絡まりながら、ふらふらと歩いてみたり、急に駆け足したり、不安定な、へんてこな体制で進んでゆきます。


 そこに、眼を爛々と輝かせた、殺気に満ちた彼らがじゅわっと、取り囲んでゆくのでした。


 野性に目覚めたワンちゃん猫ちゃんは、実に恐ろしいものです。


 さすがに、いつもぼけっとしている臆病なご主人ですが、それだけに、危険に対する直感は、結構鋭いところがあります。


『むぎゃ・・・これは、怪しい・・・・』


 そうつぶやくと、動きを止めました。


 ご主人は、財布や傘や、懐中電灯や、ラジオやスマホや電池などが入ったカバンをぶら下げております。


 それなりの重さがあり、振り回すと、一定の力を持つ武器になります。


 ご主人は、カバンを抱きしめ、身を構えました。


 『ぎぇぎぇぎぇ!! むだですよ、ご主人様。観念なさい!』


 ぼくは、『もぎゅわわっ!』と、恐ろしい呪いの息を、空間に放出いたしました。


 『ウー〰️!』


 『ふぎゃあ〰️!』


 彼らは、恨みのこもった、不気味な声をあげて、まさに、ご主人様に、一気に飛びかかろう!!としました!


 『うわん!!』


 突然、大きな声がしました。


 『な、なんだ・・・・』


 ぼくは、またまた現れた、その邪魔者に驚愕したのです。

 

 体長が1メートルを遥かに超える、巨大な、まるでくまさんの様なワンちゃんが現れたのです。


 セント・バーナードです。


 いったい、どこからやってきたのか?


 『こんなのも、呼んだかのかなあ? いやあ、でも、こいつは、ぼくの呪いには、反応してないぞ!』 


 その巨大なワンちゃんは、ご主人のすぐ横に立ちふさがりました。


 大きな首輪をしていて、リードも引っ張ったままです。


 そうして、なんと、ご主人を保護する体制を取ったのです。


 『ウワわン!わん!』(君たち、この人に手出ししないでね!)


 ぼくが集めた、街のギャング・ワンちゃん猫ちゃんたちも、かなり、困惑しています。


 自分達より、遥かにでっかい、こんな相手は、初めて見たのです。


 『いや~~~。わるいなあ・・・・ちょっと、じゃあ失礼~~~~いこかあ、バレンシアくん。』


 とかなんとか言いながら、ご主人様は、巨大ワンちゃんを引き連れて、ギャングワンちゃん猫ちゃんの間をすり抜けて行きます。


 どういうことなのか・・・・飼い主はいったい誰なのか?


 ご主人は、このワンちゃんと顔見知りらしいぞ・・・


 巨大ワンちゃんは、ご主人をしっかりガードしながら歩いて行きます。


 しかたがない、帰りを待とう・・・・・


 しかし、そこに、こんどは、近所の男子高校生どもが集団でやってきました。


 彼らを相手にしたら、色々面倒になります。


『おわ・・・なんだ、こやつら・・・こっわ~~~~。目つき良くないぞ。機動隊呼ぶかあ・・・』


 とか言っています。


 ご近所の人たちも、なんか外がおかしいぞ、と、気づき始めていました。


 まあ・・・ここは、いったん解散ですなあ。



    **** 🐶  🐶  🐶 *****



 ご主人が買い物をしている間、そのワンちゃんはお店の前で、じゅったりと構えて待っておりました。


 それから、電車の高架下にまで戻ったところで、そのワンちゃんのご主人さまが現れたのです。


『まあまあ、すみません、ちょっとお庭のドアを空けたら急に脱走してしまって、オケガとかなかったですか?まあ、いつも、あなたにじゃれてるから・・・・。』


 どうやら、この人は、線路際の豪邸の奥さんのようでした。

 

 やがて、お家に帰って来たご主人曰く・・・


 『まったく、ぼくは、おかしなことにばっか、出会うんだ。やっぱ、呪われてるかなあ。ついてないよなあ・・・・・・やれやれ、バレンシアくんがいてよかったなあ。ま、こういう時は、寝よ・・・』


 『いいえ、あなたは運がすこぶる良いのです。』


 ぼくは、いささか腐れ気分でつぶやきました。


 あまりにあほらしくて、呪いがまた一つ消えました。


 

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