第31話 白襷隊
旅順第三次総攻撃 序盤戦 白襷隊
源太郎の指揮する満州軍は現在沙河の対岸でロシア軍と対峙している。
唯一減太郎にとってこの時期よかったことは、冬将軍が来て戦闘が始まらないために日本から送られてくる弾薬が蓄積できることであった。
しかしこれはロシア軍にとっても同じである。時間が経過すればするほどロシア軍もシベリア鉄道を使って補給が十分に行えるのである。
しかしとにかく戦闘が今すぐにこちらで発生しない以上、源太郎は遠く旅順に入って現状を把握して場合によっては乃木の手助けをしようと思ったのである。
同じ時期、旅順の第3軍は弾薬の補給もそうであるが度重なる突撃の連続で死傷者が多すぎて兵士そのものの補給も必要になっていた。
そこで日本国内に予備に置いていた猛将 大迫尚敏率いる第7師団(旭川)を旅順に送ることになったである。
ちなみに現太郎と大迫は西南戦争を共に戦った旧知の仲である。
この「日本最強」とうたわれた第7師団は本来は満州平原に送られる予定であったが旅順の膠着状態が長く続くので天皇の裁可を仰いで第3軍に編成された。
その時の兵士は満州に行くか旅順に行くかで自分たちの生存率が変わってくるので旅順行きと決まった瞬間に部隊内は鎮痛な雰囲気になったと言われている
ここで旅順市内を取り巻く山の名前を復習しておく。旅順は屏風のように東西に広がる山並みの南側に位置している、以下東側から順番に山の名前と要塞を挙げていく。
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東
小弧山
大弧山 (海軍の黒井砲台がある)
東鶏冠山南保塁
東鶏冠山北保塁
一戸保塁
盤竜山 背後に望台
二龍山
松樹山
この辺りに旅順に抜ける鉄道と道路が通る
小案子山
椅子山
大案子山
203高地
西
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これを見てわかるように、陸軍は盤竜山の背後の望台を主目標とし、海軍の要請は一番西にある203高地である。
第三次総攻撃は11月の26日に各師団から希望者を集めた3100名で組織された「白襷隊」による松樹山の第4砲台の攻撃で始まった。白襷隊には到着したばかりで無傷であった第7師団の衛生兵も含まれていた。
「白襷隊」の名称は夜間攻撃で敵味方を識別できるようにとの配慮であったがこれがロシア側の探照灯に反射して光り、却って安易な目標物と化したのであった。
またこの部隊の指揮官は将官から一人死んでもらうという意味から戊辰戦争時の賊軍であった彦根出身の中村覚少将が選ばれることになった。
中村覚少将率いる「白襷隊」は水師営から松樹山北西麓に進軍を開始した。
26日21時、敵堡塁まじかの第一線散兵濠に突入したが、地雷の爆発により潰乱し、味方識別のために掛けていた白襷に向けてロシア軍は機銃掃射を行い短時間で大損害を受けた。
後続部隊もまた同様で、機銃掃射の嵐に遭遇して支隊長・中村覚少将も敵弾に負傷した。彼らは戦わずしてたった「移動するだけ」で殺戮されたのである。
6時間という短時間による死傷者のあまりの多さに11月27日2時、退却の余儀なきに至って白襷隊の奮戦は失敗に終わった。
常に日本軍の総攻撃は26日に始まるということをロシア軍は予想していたので機関銃の待ち構えていた中に目立つ衣装を着て飛び込んだような結果に終わった。
このあたりに第三軍の参謀の知恵のなさが伺われる。簡単に兵が消耗するはずである。
乃木はわずかに期待していた白襷隊の壊滅の報告を聞き長い間逡巡していた決断を下した。
11月27日未明、旅順総攻撃の主目標を海軍の要請する203高地に定めたのであった。
考えようによっては白襷隊の3100名の尊い命を持ってようやく乃木に決断させたのである。大きな代償であった。
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