第27話:父の脳梗塞が見える、連絡しなきゃ

 その後、子供達は、めいめい、自分達の好きな事をしていた。肇君が、双眼鏡を持って来て、岸の方を眺めていると、「私にも見せてと、子供達が、わーすごい、近くに見える」と、大はしゃぎとなった。そうして、すっかり暗くなると、子供達は、疲れていたのか、早めに、ベッドに入って、寝始めた。おかあさんも、うとうとしていた。そして、あたりは、しーんと静まりかえり、波の音だけの世界になった。


 すると、以前経験した放射線治療の時に感じた、予知能力の様なものが蘇った。しかし、今、海の上で、何も出来ない。どうしようかと、思った時、突然、「奥さんが、何かあったの」と叫んだ。その時、ぼーっとしていた様で、船の舵に倒れかかった。


 奥さんが舵をまっすぐ保ち、どうしたの言い、塚田守の顔を叩くと、「我に返って、塚田守が、父が死んじゃう」と言った。「脳梗塞で死んじゃう、早く、救急車を呼んでくれ」と言った。奥さんが、落ち着いてと言うと、「わかるんだ、俺にはわかるんだ、もう少しで、父親の頭の血管が詰まって、死んじゃう」と言った。


 でも、「海の上では、何もできない」と言った。そうだと言い、町の灯りが見えたナザレの町に、全速力で、船を走らせ、「早くしないと間に合わなくなると叫んだ」。すぐ船を止め、アンカーで固定し、海に飛び込んで、町に向かって全力で泳いだ。


 15分位で、着いて、港の交番に行って、急ぎだと言い、電話を借りた。塚田一郎の家に電話すると、奥さんが出て、夜遅くに、誰というと、塚田守ですと言い、お父さんを見て、「脳梗塞でやばい、救急車を呼べ」と言った。少しして、廊下を走る音がして、「大変、救急車を呼ばなくちゃと」言って、電話を切った。


 その後、交番のおまわりさんに、お礼を言い、立ち去ると、おまわりさんが、不思議そうに、塚田守の顔をみた。船に戻って、全速力で、リスボンに着いたのは、2013年8月11日の夜中の12時半、家に帰って、日本の父の家に電話をかけても、誰も出ない。4時間後に、塚田守に、電話が入った。


 父の塚田一郎が、脳梗塞で病院に運ばれて、すんでの所で助かったと言い、守さんの、お陰だよと、言い、ところで「何で、わかったの」、それも、ポルトガルにいたのにと、不思議そうに言うと、実はと、事の顛末を説明すると、「嘘だ、そんな事って、あるはずない」と言ったが、「真実は、そうなんだよ」と告げた。


 「まーどっちにしろ、命は助かって、良かった」と言い、後は、リハビリで、どれだけ回復するかだと言った。

「ともかく、ありがとうね」と、母が言った。そうして、数日後、また電話があり、回復が早く、多少、手足に不自由は残ってるが、杖を使い、歩けると言い、もしかして、退院までに、記憶も完全に戻るかも知れないと言った。


 3週間後、2013年9月1日また、母から電話が入って、記憶も戻ったと言い、「それが不思議なんだよ、激しい頭痛に襲われた時、誰か、聞き覚えのある声で、頑張れ、死ぬんじゃない」と、叫ぶ声が、聞こえたと思った。


そしたら「廊下を走る音がして、家内に、何か言われた」と言い、奥さんが、「すぐ救急車を呼んでくれ、ぎりぎりの所で助かったようなんだと、意味不明の事を言いだした」と、話してくれた。まー、「どんな不思議な事であれ、お父さんの命が助かったのは、本当にありがたい」と言った。

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