なんだなんだ? 祭りか!?
翌朝。――
殷賑の地、博多の空高く陽が昇った頃、突如鐘や太鼓の
「なんだなんだ? 祭りか!?」
やがてそれは、陽気な音曲へと変化した。聴いたことのない、その軽妙な調子は、何一つ遮る物無きまっ平らな博多の地に広く広く響いた。何事かと誰もが訝しがり、音曲の鳴る方へと足を向ける。
そこには幾流もの
――臨時開店!! 鎮西八郎の見世。
と書かれた幟を見て、なるほど
「さあさあ。餅でも喰いながら、数々のオモシロ商品を見て行ってくれ。珍しい、便利な品々が
一際大柄な武士と、その郎党が声を張り上げつつ、集まって来た野次馬に紅白の丸餅を配る。ほうほう、と皆は受け取った餅を齧りつつ、ずらりと並んだ品々に目をやる。
「これなるは、京にて飛ぶように売れし品々ぞ。様々な工夫が為されており、どれもこれも便利じゃぞ。さあさあ、
デッキブラシやたわし等々、数々のヒット商品が並ぶ。
「これはツルハシ、そしてこれはシャベルじゃ。荒れ地の硬い土を崩したり、穴を掘るのに使う」
吉次がそれらを手に持ちつつ、酷い蝦夷訛りで人々に説明する。
一刻も経つ頃には、噂を聞きつけてますます人が集まり、どの商品の前にも黒山の
「さてさて、これは唐天竺にも無い、至極の一品ぞ。ぐうたら寝てばかりでネズミを獲らぬネコに代わりて、こやつがネズミを捕えてくれる。このバネを跳ね上げ、ここに餌を挟みて一晩蔵に放っておけば、翌朝には丸々と肥え太りたる憎きネズミがまんまと引っかかっておる。面白かろう!? さあさあ、二個三個と買うて行かれよ。数に限りがあるゆえ、早い者勝ちぞ~」
吉次はツルハシやシャベルを売り捌きつつ、巧みな話術を交えながらネズミ捕りを紹介する八郎を横目に眺め、密かに舌を巻いた。
(何をやるにも、達者な御仁じゃ……)
当世の
(されど八郎様は……)
吉次は昨日来の、八郎の行動を思わざるを得ない。
「吉次よ」
八郎様は、郎党達へ様々な采配を行う合間に、吉次に語りかけるのである。
「商売とは、とことん積極的にやった方がええ。まず、人を集める。それから商品に興味を持たせる。ほんで、欲しい……買おう、という意欲を促す」
この三つが商売のコツである、と言う。ただ商品を並べ、客を待つだけではダメだ……と。
今にして、その全てに合点がいった。河原者を集めて盛大に音曲をかき鳴らし、人々の興味をそそる。集まってきた人々に餅を配り、歓待する。巧みな話術で面白おかしく商品を説明し、興味を持たせる。早う買わんと売り切れるぞ、と購買意欲を喚起する。……
驚くべきは、唐人共の言葉を解する者まで探し出してきた事である。
博多祇園の地に立ち並ぶ寺院に郎党を走らせ、
「礼を尽くすから一日だけ手伝え」
と、唐語に明るい僧侶を雇ったのである。この地には宋の商売人が、多数到来し貿易が行われている。彼らをも集め、唐語で商品を説明し、大陸にさえ品々を売ろうというのが八郎様のねらいである。何とも気宇壮大な話ではないか。
(これじゃ。
わざわざ九州まで、八郎様を追いかけて来て正解じゃった……と吉次は痛感した。
日が傾く頃には、何と大型荷駄車一〇台分もあった大量の商品が、全て売り切れた。
「上出来やな。皆、よう頑張った」
八郎様は、額の汗を拭いつつ破顔した。吉次達一行は、あらためてその成果に感心しきりである。あれだけの商品を半日で捌くとは、誰しも想像していなかった。
「再度言うが、俺達は九州征服を目指す」
宿へ戻り一息ついた後、八郎様は全員を前にして口を開いた。
「そのためには、ゼニも大いに必要である。ゆえに当面、このように商売にも力を入れる。……吉次よ」
八郎様は吉次に目を向け、
「お前に商売を任せる。あらためて商売の体制を整えるから、お前はこの地に見世を構えろ。我々は阿蘇で品々を生産し運搬するから、お前はここでそれを売りまくれ。大陸の商人共にもどんどん売れ」
と言った。吉次は、その期待と責任の重さを噛み締めつつ、
「承知仕りました」
と酷い蝦夷訛りで応えつつ、頭を下げた。
(なるほど……)
と唸りつつ、一行の中で一際大きく頷いたのが、立野兄弟の兄、勘太である。
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