今後は『鎮西八郎』と名乗りなされ

「ほうほう。いよいよおぬいを娶って下さるか。されば早速祝言を……」

 普段は貫禄に満ちた、ナイスミドル三郎忠国氏が小躍りして喜び、たちまち各所に使者を走らせ数日後に祝言を行うと告げた。


 氏は、援軍一〇〇騎強を即座に派遣してくれただけでなく、自ら先頭に立ち駆けつけてくれた。互いに間近で互いの戦いぶりを知り、互いの信頼と絆の強さを確認した。

 お縫さんの覚悟も知った。最早もはや何の懸念も無い。オレは氏やお縫さんと共に、九州に腰を据え地盤を築く覚悟が定まった。


 西原村の館にて、盛大に祝言が執り行われた。

 三郎忠国氏の一族郎党のみならず、旧・宇治衆も挨拶にやって来た。近隣の住民達まで、めいめい採れたての米や野菜を携え、

「新地頭様、おめでとう存じまする」

 と祝いを述べに集まった。オレはそれを全て快く受け入れ、しかし、

「オレは、地頭ではない」

 ――当地は本来の主である阿蘇三郎忠国氏に託すべきである、と宣言したのである。


 氏は大いに喜び、

「さればわしは、阿蘇の館を修復し住まおう。冠者は益城の館に住まわれよ」

 と、言い出した。オレは氏の提案をありがたく受け入れた。


 風呂に入って身を清め、祝言の宴が始まった。花嫁装束のお縫さんは実に美しかった。普段ほとんど化粧っ気がないため、フルメイクだと別人のようである。

(まさに天女ではないか)

 と思ったが、皆も同じ思いらしい。お縫さんを眺めつつ、あちこちから感嘆の溜息が聞こえた。オレはお縫さんとちぎりの盃を交わし、誓いの言葉を交わし合った。たちまち座敷は、盛大な拍手と祝いの言葉に満ちた。


 及川○央と明日花キ○ラがふらりと現れ、オレとお縫さんの間に割って入ってきた。

「何だよこいつら。まさかお縫さんに嫉妬してんのか!?」

 オレは二匹の頭を撫でてやり、馬肉を一片ずつ与えてやった。二匹はそれを美味そうに食べ、満足そうにその場に体を横たえた。お縫さんも二匹の首元を優しく撫でてやると、及川奈○は気持ちよさそうに目を細め、明日花キラ○はお縫さんを軽く威嚇するように、ウウッと小さく唸った。


「いつまでも冠者とお呼び申し上げるのも、アレですな。……今後は『鎮西八郎』と名乗りなされ」

 三郎忠国氏はオレの杯に酒を注ぎつつ、言う。

「それは妙案でござる」

 そばに畏まって座っていた重季さんが賛同し、他の郎党達も頷く。


「それでは鎮西八郎様と白縫姫、及び我らの前途を祝して、大いに唄いましょうぞ」

 宴会部長の平太郎がすかさず立ち上がり、音頭を取った。オレが止める間もなく、たちまち平太郎の唄に合わせて「金太の大冒○」の大合唱が始まった。


 あまりに品のない歌詞に、お縫さんや侍女たちが頬を染め、うつむいている。

(ったく、こいつら……)

 半年以上苦楽を共にした郎党達を中心に、皆楽しそうに唄い盛り上がっている。それに水を指すのもどうかと思い、止む無く放置する。そんな様子を三郎忠国氏が、笑みを湛えつつ眺めている。


(オレはこいつらを、今後も食わせていかにゃならん……)

 無邪気にオレを盛り立ててくれる郎党達や、三郎忠国氏らを眺めつつ、しかし改めて自らの責任の重さを噛みしめるのである。

(差し当たって、カネを何とかせにゃならんわ)

 長旅と館の築造で、懐ろはすっからかんになった。当面の課題は大きい。早急にビジネスを確立し、カネを稼がねばならない。


(どうしたものか……)

 杯をなめつつぼんやり思案していると、紀平治が重季さんを呼びに来て、共に座敷を出ていった。何事かと思っていると、すぐに重季さんが座敷に戻り、

「京より吉次が尋ねて参りましたぞ」

 とオレに告げた。


「おおっ。吉次か!!」

 重季さんに続いて姿を現した少年を見て、オレは膝を打った。

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