かかれ~っ!!

「こちらは河内源氏の、八郎為朝っちゅう男だ。知っとるけ?」

「知らぬ」

「音に聞こえし八幡太郎義家、及び対馬守義親が末裔ぞ」

 オレは宇治衆の頭目をぎろりと睨みつける。


「この九州の山の中じゃぁ知らんかもやけど、若干一二歳ながら既に崇徳院様のお招きを受け、武芸第一の誉れを頂戴しておる」

「ほう。……多少は出来る男のようだな。まあ所詮しょせん、京育ちの小童こわっぱであろうがの」

 頭目は小馬鹿にするかのように言うと、一歩足を踏み出し、太刀の鯉口を切った。


 なるほど。やる気か。――

 オレもわずかに間合いを縮めると、すらりと太刀を抜き、例のごとく某徳川将軍テレビドラマよろしくつかを半回転させる。それから八相……ならぬバッティングフォームをとる。


 周囲の空気が、停止した。

 じっと神経を研ぎ澄ますと、この空間を満たしている空気が目に見えるのである。


 相手方宇治衆は、以前のおっさんボスに率いられた腰抜け集団ほどではないが、やはり気勢はいまいちである。しかし数を頼み、

 ――我らの方が優勢だ。

 と楽観しているのが分かる。


 対するオレの郎党達は、数こそ相手方の半数ながら、士気が非常に高い。

 ――合図あらば、いつでも行きましょうぞ。

 という迫力を、背後や両翼からひしひしと感じるのである。気勢は完全に、数に劣る我々の方が押していた。


 相手方の頭目も、敏感にそれを感じ取ったらしい。

 おっさんボスとは大違いで、デキる男のようである。自分の方が劣勢とみるや、それを跳ね返すべく、先に動いた。

 停止した空気が、一瞬にして竜巻の如く暴れた。頭目が抜刀するなり、オレに突進し切りかかって来たのである。


 オレはその空気の乱れを頬に感じた瞬間、太刀をフルスイングした。

 途端、太刀の先の方に鈍い手応えを感じた。頭目が呻き声を発し、どさりと地に倒れた。

 当然である。体格に勝るオレの方が、ずっとリーチが長い。腕も長ければ太刀も長大なのである。相手が飛び込んで来る瞬間さえしっかり捉えれば、負けようがない。


 オレはすかさず、地にうめく頭目を飛び越えて前へと進み、頭目の傍らにいた二人を太刀ではたいた。呆然と立ちすくんでいた二人は、太刀を構える間もなくオレに倒された。

「わっ!!」

 と宇治衆がどよめき、浮足立った。


 オレは左手を上げ、

「かかれ~っ!!」

 と郎党達に合図する。待ってましたとばかり、郎党達は一斉に太刀を抜くと、大声を張り上げつつ宇治衆に飛びかかった。


 たちまち激しい乱戦となった。

 オレにとっては事実上の初陣である。すぐに前列から一歩二歩下がり、長身を活かして冷静に状況を俯瞰する。


 やはり、士気に勝る我々の方が優勢である。相手方宇治衆は完全に受けに回ってしまい、旗色が悪い。かつ、後方集団は浮足立っており、ジリジリと後ろに下がり早くも逃げの体勢である。

 こりゃ後方を崩せば、相手方は簡単に総崩れになるんちゃうか!?――


「紀平治っ」

 オレはキエンギ改め「八丁礫の紀平治」に、小声で耳打ちした。

 はっ、と紀平治は返事するや駆け出し、すぐそばの木にするすると登った。そして樹上より敵後方に向かい、次々と石礫を浴びせ始めた。


 ――うわっ!!

 敵後方より悲鳴が上がり、これに宇治衆全体が動揺した。もはや勝負は決した。退路を絶たれたと勘違いした宇治衆は、後方から順に陣形が崩れ、前列も完全に逃げ腰となった。

 オレは太刀持ちからマイ○ル・ジョーダンを受け取り、素早く矢をつがえると少し上方に向けて次々と連射した。それらは敵後方に雨の如く降り注いだ。


 敵の混乱に拍車がかかった。宇治衆は早々に頭目を倒された挙げ句、前列はおろか後方さえも崩され、ただただひたすら逃げ惑うのみとなった。ダメ押しとばかり、オレが及川奈○と明日花キラ○の背を軽く叩く。二匹はたちまち雄叫びを上げつつ飛び出し、逃げる宇治衆を追い回し始めた。


「おい、深追いするな。全員、戻れ」

 完全勝利を確認したオレは、早々に鉾を収めるべく号令をかけた。

「今日は大事な日ぞ。早速だが作業にかかる。心せよ」


 紀平治他数人に命じ、後方に待機させた人夫達を呼びに遣った。すっかり敵の去った台地に、たちまち次々と大量の資材が運び込まれた。

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