オレ達と共に居て欲しい
陽が落ちた。
オレ達はひとまず、洞窟に移動することにした。負傷者二名も、荷駄車に乗せ洞窟へ運んだ。
洞窟の前には、既に指示通り、なかなか立派な竹垣が完成していた。
あれほど茂っていた草薮もキレイに刈り取られている。その前に火を焚き、食事の準備が始まっていた。オレとキエンギは野郎共に獲物を渡し、調理させる。
「さて。貴女方はどうする……」
オレはお
つまり、宿の話である。今から集落へ出向き、民家の戸を叩いて回るのも骨である。いやそれ以前に、再び先程の連中に襲われるリスクがある。
「こちらの軒先を一晩お貸し下さいまし。いや、おなごと思うて格別のお構いは無用にございます」
毅然とした表情で、しかし丁寧に頭を下げつつ、お縫さんは言った。先程の様子といい、余程肝の据わった姫君のようである。よく見れば、まさに昨晩夢に見た美女ではないか。
まあ、軒先さえも無い洞窟ではあるが、状況が状況なのでやむを得ない。お縫さん一行を一晩泊めることにした。傍らで会話に耳を傾けていた重季さんは、すぐに手の空いている連中を一〇人ばかし連れ竹藪へと向かうと、暫くして大量の竹を抱えて戻って来た。それらを蔓で結わえ、手際よく即席の衝立を拵えた。
ほう、なかなか気が利くやないかい。――
オレは何も、荒くれ者集団を形成するつもりはない。必要とあらば荒仕事も出来る、機能的集団の構築をイメージしている。気の利く実務担当者が育ちつつあるのは喜ばしい事である。
ともあれ、漸く夕飯の支度が整った。火を囲んで少々遅めの食事が始まった。
「さて……」
オレはお縫さんに、改めて来訪の目的を尋ねた。
「それは先程も申し上げました通り、貴方様をお迎えに参りました次第でございます」
「ほう。それはつまり、父六条判官為義あたりから依頼を受けた……という事ですか?」
「いえ……」
お縫さんが言うには、昨晩、可愛らしくも美しい「天女」が夢に現れ、
――そなたの人生の伴侶となる御仁が、隣の西原村の洞窟にて難渋しておられます。直ちにお迎えに向いなさいまし。
と、お縫に告げたらしい。
何となく、その「お告げ」を無視してはならない気がして、翌朝父の阿蘇三郎忠国に話をした。すると驚いたことに父も、
――姫君の人生の伴侶となる御仁を、直ちにお助け下さいまし。さすれば貴方様のご武運も大いに開けることでしょう。
という「天女のお告げ」を夢に見た……というのである。
「これぞまさに天啓であろう」
と二人して判断し、早速わたくしがこちらへ向かったのでございます……とお縫さんは言う。で、
「何もかも、天女のお告げ通りでございました。八郎冠者の出で立ちも、武芸のお手前も。……それから御一行の人数も」
「不思議な話やなあ」
「畏れながら」
お縫さんはちょっと顔を赤らめ、
「お告げによれば、八郎冠者こそがわたくしの……」
と言うと、この、男勝りの肝の据わった女性が下を向きモジモジし始めた。
あははは。カワイイ。――
「その天女とやらは、色白小顔で切れ長の目、長く綺麗な黒髪。まだあどけなさの残る、歳の頃一五の娘……といった感じではないか?」
「左様でございました」
なるほど。やっぱお鶴か。――
お鶴は、別れた後もオレを遠くから見守っていて、オレを導いてくれるのか。
「父、三郎忠国が申しております。八郎冠者御一行を我が館にお招き致します、と。是非お越し下さいまし」
「ほう。それは大層ありがたい話ですな。されば、梅雨の間だけでもご厄介になりますか。その後はこの地に館を築きます」
「なるほど。それでは明日早速、我が益城の館へ向かいましょう」
夜も更けてきたので、お縫さんとその侍女達は、衝立の向こうへと引っ込んだ。
オレはゴロリと地べたに寝転がると、隣のキエンギへと声をかけた。
「お前さんは、今後どうする?」
「既に足の傷も癒えましたし、梅雨が明けたらお
「お前さんはオレ達一行にとって、もはや不可欠の人材だ。出来ることなら今後も、オレ達と共に居て欲しい」
「それは有り難きお言葉でございますな。されば……」
「おう、頼む」
「されば、改めましてよろしゅうお頼み申します」
「ただ困ったことに、皆、お前さんの名前を間違って憶えてやがる」
「わははは。良うございます。名など幾らでも改めましょうぞ」
「よし。お前さんは今後、『キエンギ』改め『八丁礫の紀平治』や。よろしく頼む」
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