おなごと思うて舐めておるのかっ!?

 寄せ手の数は、一〇人。

 しかし道の両脇には、背丈程もある草薮が続いていて見晴らしが悪い。他にも人数が潜んでいるかもしれず、油断は禁物である。

 ……だが、オレは突然、笑った。


 わざと派手に高笑いを浴びせた。意表を突かれた一〇人の目は全て、オレの一挙手一投足に注がれた。

「ほらみろ。やはりお前らは、ならず者集団だったじゃねえか!!」

「何だと!?」

「おなご集団を多人数で襲う奴ぁ、ならず者に決まっとるやろ。ちゃうか?」

「こっ、この野郎っ!!」


「誰にこうて偉そうな口きいとんねん。お前らのような連中は、古今東西……」

 オレはギロリと連中を睨みつけると、左手親指で太刀の鯉口を切り、右足を半歩前へ踏み出す。

「即座に叩っ斬るが『きち』……だよなあ」

 スラリと太刀を抜き、

 ――許っさんっ!!

 と呟きつつ、某徳川将軍テレビドラマの決めポーズを真似してつかを半回転させた。


 即ち刀身の峰の方を、寄せ手に向けた。ちなみにこれはガキの頃、友人達とさんざん練習を積んだである。

 剣先を相手に向け、中段に構える。そこからさらに、八相はっそう……というより野球のバッティングフォームに近い構えに変え、相手を誘う。


 案の定、それにつられた集団の者達が口々に、

 ――行け、行け~っ。

 と、最前面でオレと対峙している男に促す。男はつい、勢いで、抜刀するや否やオレの方へ不用意に飛び込んで来た。


 この時代、剣術と呼べるような流儀はだ見当たらない。大半がいわゆる喧嘩剣法である。男の飛び込みもまさにそれで、勢いのあまり上半身が完全に浮いていた。オレは誰よりも長いリーチを活かし、バッティングフォームから一閃、男の胴にフルスイングを浴びせた。


 鈍い音がし、男は絶叫と共に地面に転がった。


「き、貴様っ」

 すかさず次の男が全く同じように飛び込んで来たので、これもテニスのバックショットの要領で、鋭く身を捻りつつ胴を叩いた。そいつもまた、人と思えぬ奇声を発し地面に転がり、のたうち回る。


 さすがに連中も、ここに至り漸く冷静になったようである。二人が太刀を中段に構え、剣先をオレに向けつつ慎重に間合いを詰めて来た。

 しかしオレも、京にて半年間、喧嘩剣法をとことん研究した。戦い方はしっかと心得ている。

 オレは突然、ふっ、と二人から目線を逸した。


「……!?」

 つられて何事かと一瞬油断した右側の男を、これまたホームラン打法でぶっ叩いた。わっ、と男が絶叫し、左側の男に倒れかかる。それ避けようとそいつが体勢を崩した隙をのがさず、オレは素早く一歩前に踏み込み袈裟懸けに斬った。……いや、力任せに刀身で叩いた。


 たちまち四人の男が倒れ、寄せ手の誰もが顔色を変え怯んだその時、突如彼らの背後から男の絶叫が聞こえた。

「敵に易々やすやすと背を向けるとは……。おなごと思うて舐めておるのかっ!?」

 女性の凛とした声が辺りに響きわたる。見れば、先程の美女が仁王立ちで薙刀を構えていた。その足元には二人の男が転がり、呻き声を上げていた。


(おおっ。カッコええ)

 寄せ手にしてみれば、前後から挟まれた格好となり、しかも一挙に六人が倒され四名が残るのみである。たちまち動揺し、

「引けっ。引け~っ!!」

 と一人が叫ぶなり、地に転がりのたうち回っている六人を放置して逃げ出した。


 後方に控えていたキエンギが、及川奈○と明日花キラ○を伴い、

「お見事でございました」

 と、オレに駆け寄る。オレは、ふっ、と肩の力を抜き、太刀を鞘に収めた。


「大丈夫ですか。怪我は!?」

 仁王立ちの美女に声をかけつつ、歩み寄る。美女は、

「お陰様で」

 と返答し、薙刀を侍女に預けると、斬られた二人の郎党のもとにしゃがみ込み介抱し始めた。


 キエンギが鋭く口笛を吹いた。程なくオレの郎党達が、何事でござるかと駆けつけて来た。

「いや、こちらの女性達が、昨夜の連中に襲われていた。たった今、追い払ったところだ」

「左様でございましたか」

 郎党達はたちまち、倒れている連中を荒縄で縛り、六人共木立に括り付ける。そして美女の郎党二人の手当てを行う。


「ありがとうございます。わたくしは阿蘇本家筋の三郎忠国が長女、ぬいと申します」

「ほう」

 なるほど。だから敵対する分家筋の連中に襲われたんか。――


「して、貴方様は河内源氏の八郎冠者でございますね」

「そうだが……」

「やはりそうでございますか。……貴方様をお迎えに参りましてございます」


 え!?――

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