サシで勝負しないか?

 その数、ざっと我々の二倍程だろうか。

 草薮から次々と武装した連中が飛び出し、洞窟の入り口付近にずらりと展開する。中にはちらほらと、甲冑を着込んだ者も目に付く。


 当世においていかに諸芸に秀でていようと、こちとら所詮しょせん、中身は平和ボケ平成人である。突然直面した初の実戦に、足が震えた。


 中央三列目付近のいかつい顔のおっさんが、オレ達に向かって声を張り上げた。

「お前達は何者ぞ!? 盗賊か?」

 どうやらそのおっさんがボスらしい。


 ん!?――

 よくよく見れば、オレ以上にビビっている様子である。


(そうか。そういう事か……)

 そりゃもう、相手側からすれば、入念に準備した上での作戦行動である。雨の中草薮に隠れ、今か今かとタイミングを見計らいつつ、大いに緊張していたに違いない。

 で、いざ草薮を飛び出してみれば、現れた棟梁ボスたるオレは巨大な弓を携えた大男。おまけにどういう訳か、両脇にオオカミなんぞ従えているのである。ビビって当然だろう。


(オレ以上に、相手の方がビビっとるんや)

 一瞬にしてそう気付いたオレは、幸いだっだと言う他ない。お蔭ですうっと冷静になれた。へそにグっと力を入れると、怖じ気はあっさり収まった。


「武士たる者、まずはおのれの名を名乗るのが礼儀……の筈だよなあ!?」

 オレはわざと、傍らの重季さんに問いかけた。

 謹直な重季さんは、

「いかにも……。その通りでござる」

 とクソ真面目に頷く。


「ってぇ事は、こ奴らは武士ではあるまい。ならず者集団か……」

 敢えて素っとぼけてそう呟くと、途端に相手側のおっさんボスが激昂した。

「何を無礼な!! 我らは神世より代々この地を治むる、阿蘇一族の者である。近頃怪しげな者共が数十名、この地に居着いておると聞き、こうして出向いて参った。全員、早々に立ち去れい!!」

 がなりたてるように言う。しかしオレがおっさんボスをひと睨みし、その両脇で及川○央と明日花キ○ラが低く唸ると、次第におっさんボスの声に震えが混じり始めた。


「なるほど。それはご苦労な事ですな。我々は近々、この地に館を構える予定ですので、よろしく♪」

 オレはふてぶてしい笑顔で、そう応える。

「何をたわけた事をっ!! 許さぬ」

「許さぬも何も、持ち主のおらぬ空き地に館を建てるのに、誰の許可が要る?」

 あははは。初めて気付いたけれど、オレってちょっと口喧嘩が巧いかも。――


「うぬぬぬっ、無礼な!! 者共かか……」

「ちょっと待て!!」

 オレは突如大声を張り上げ、おっさんボスを一喝した。


「皆ブルブル震えとるやないかい。おまけに甲冑を着込んでいる奴なんざ、びしょ濡れで重そうで可哀想やぞ。ここはひとつ、オレとアンタとサシで勝負しないか?」

「なっ、何をっ!!」


「ただしこのオレは、畏れ多くも崇徳院様より武勇第一のほまれを賜り、上方においては少々名の知れし男ぞ。どうだ」

 おっさんボスをギロリとひと睨みし、

「……やるか? ……それともサシ勝負から逃げるか!?」

 と、言い放つ。


 真っ暗な空から強い雨が降りつける中、オレの気迫が周囲の空間を支配した。


 オレは背中に、郎党達の、

 ――ご指示あらば、いつでも行きますぞ。

 という熱気をひしひしと感じた。

 他方、目の前の相手方は完全に萎縮していた。おっさんボスは気合い負けしてブルブル震え、その家来達は彼以上に震え上がっていた。オレは目の前の集団を、ゆっくりとひと睨みする。


 オレとおっさんボスとの距離は、三m程であろうか。距離が近過ぎ弓は使えない。オレはマ○ケル・ジョーダンを重季さんに預けると、一歩前へ足を踏み出し、太刀の鯉口を切った。

 そしておっさんボスの目をしっかと睨みつけつつ、無言で彼を手招きする。挑発である。

 一対一の勝負であれば、オレは誰にも絶対に、負けない!!――


「……」

 おっさんボスは、敵ながら哀れ、蛇に睨まれたカエル状態である。前に出ようとしない彼に対し、

 ――なぜ、動かない!?

 と、彼の家来達が反感や不信感を抱くさまが、ありありと感じられた。


「さあ、出て来いっ!!」

 鋭く声を飛ばす。しかし彼は動かない。いや、動けない。


 しかしその膠着状態も、すぐに破られた。相手側の最前列右手に殺気を感じ取る。それは次第に強くなり、突如、血気にはやる若者が一人、抜刀するやオレに飛びかかって来たのである。


 オレは咄嗟に体を捻ると右足を鋭く横向きに払い、そいつに回し蹴りを食らわせた。男は一m近く飛び、左肩から地面にどさりと倒れた。すかさず及川奈○と明日花キラ○が、鋭く咆哮するや男に飛びかかった。

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