鎮西八郎、

皆、静かにせい!!

 オレ達八郎為朝様御一行は、無事、目的地たる阿蘇山南西の地に到着した。ぎりぎり、梅雨入り前に間に合った……というべきタイミングである。


 皆で手分けして周囲の地形を調べて回り、館を構えるのに好都合な土地を選んだ。周囲より一〇mばかし高い、台地である。

 平成の世であれば、開発業者が大喜びで重機を持ち込み、「ナントカが丘団地」を造成するに違いない。宅地分譲の広告を出せば、定年前後の夫婦がこぞって申し込むだろう。


「土地の持ち主は誰ぞ?」

 と付近の住民達に確認して回ったが、おそらく誰の土地でもない、と皆口々に言う。

「良い土地ではないか。なにゆえ、誰も手を付けないのか」

「そりゃもう、見ての通り、たいそうな荒れようでございます。タヌキが多いので田畑を荒らすでしょうし、たまにオオカミの遠吠えも聞きます。地元の者は誰も近づきませぬ」


 なるほど。――

 郎党達とも話し合い、そこを切り拓き館を築くことにした。


 良い時代である。土地を得るのに、カネを出す必要がない。

(やっぱっちゅうのは、何かおかしいよなあ……)

 前世を振り返り、そう思わざるを得ない。土地なんてものは本来、誰のものでもない。強いて言えば、そこに住む者達の公共財である。


 当世のように、空き地であれば誰もが好きに占有してよい筈である。そして占有者が亡くなれば、占有権は自然消滅する。土地占有に絡み利害の干渉が発生すれば、関係者同士の話し合いにより解決を試みる。

 それで良いではないか。何故、国家が全ての土地を登記させ管理し、固定資産税や相続税、取得税を徴収するのか。


 いや、まあ徴収は良い。しかしなぜ、それを国家が大威張りで懐ろに入れるのか。本来は公共財なのだから、そこから生まれた利益は所有者たる住民に分配されるべきではないか。――


 土地の登記、管理は、あくまで住民達のために為されるべきである。徴税のため、つまり国家が住民達から利益を横取りするため……というのは筋が通らない。

 今更ながら前世の、いわゆるインチキシステムが透けて見えた。


 それはともかく。――

 オレ達は手分けして近隣農家を回り、米と野菜を少しずつ買い上げた。と同時に、

「暇な時には、鎌を持って手伝いに来てくれ。夕飯を振る舞ってやる」

 と声を掛けて回った。最初はオレ達を、盗賊ではないかと警戒していた住民達も、

 ――友好的な御方々だぞ。なんでも河内源氏の面々で、おん大将は上方で評判の武芸達者らしい。

 と噂するに至った。そして相変わらず、

 ――御大将の八郎冠者は、逞しい大男なのに、まだわこうて可愛らしい♪

 と女達が騒ぎ始めた。


「またもや、冠者がおなご共を独り占めでございますか……」

 郎党達がボヤく。


 五月(旧暦)に入り、オレ達は足の治ったキエンギに案内され、くだんの洞窟を検分した。

 ここもまた、天然の横穴である。天井こそ低めで、所々オレが頭をぶつけそうな高さだが、幅も奥行きもかなり広い。奥の方は、一体どこまで続いているのか見当もつかない。


 比較的風通しも良く、湿度は外気とほとんど変わらない。確かにひと月程度であれば、どうにか雨をしのぎ生活出来そうである。

 近隣農家から少しずつ買い集めた食糧を、洞窟に運び込む。また郎党達を総動員して、薪や山菜を集めて洞窟の奥に運び入れた。そうして準備を進めるうち、いよいよ本格的に雨が降り出した。


「来ましたな。間にうて幸いでした」

 洞窟内より土砂降りの夜の空を眺めつつ、重季さんが口を開いたまさにその時。――

 突如、及川○央と明日花キ○ラが外に向かってひと吠えしたのである。


 二匹はすっくと立ち上がり、耳をそばだて鼻をひくつかせ、じっと洞窟の外を睨みつつ気配を探る。


「皆、静かにせい!!」

 オレはすぐに立ち上がり、マイ○ル・ジョーダンを持って来いと合図すると、洞窟の入り口付近に移動した。幾人かは素早く機転を利かせ、静かに奥へ移動し己れの弓や刀を掴んだ。


 及川奈○と明日花キラ○が、即座にオレの傍らに走り寄り、目の前の草薮を睨み低い唸り声を上げる。確かに、ただならぬ気配を感じる。

 マ○ケル・ジョーダンを構えようとするオレの手を、

「こちらが良うございましょう」

 さっと横にやって来たキエンギが小声で制し、素早く袂から石礫を取り出すと草薮に向かって投げつけた。途端、

 ――ぐわっ!!

 と、人の絶叫が聞こえた。


 キエンギは続けて二発ばかし、石礫を草薮に投げつける。再び絶叫が辺りに響いた。……と同時に、これ以上隠れていられないと観念したのか、不審者連中がわらわらと一斉に草薮から飛び出し、洞窟前に姿を現した。

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