者共、行くぞ!!

 何もかもが、カンペキではないか。――

 九州征服を目論むオレにとって、ベストな拠点。そして梅雨をしのげそうな、大きな洞窟まで在るという。

 オレはキエンギに感謝す……る前に、夢に出てきたお鶴に感謝することにした。


 日々、ひたすら山道を歩く。足も随分と慣れた。


 ある時突然、微かに妙な匂いが漂ってきた。

「おい。誰かふてえ屁ぇこいただろ!?」

 郎党の誰かが言い、どっと笑いが興った。誰ぞ誰ぞ、と皆半笑いで犯人探しが始まる。


「ははぁ。さては殿でござるか」

「いやいや……」

 キエンギも笑いつつ、

「これは阿蘇の山の匂いでございます」

 と応えた。


「あっ。これは硫黄の匂いなのか」

 オレも、ハタと気付く。オレを含め全員関西の人間なので、温泉にあまり馴染みがない。硫黄泉の匂いなど知らない者ばかりである。


「されば、もう阿蘇のすぐそばに辿り着いたということか……」

「左様ですな」


「そう言えば、由布の湯は硫黄の匂いがしなかったな。何故、阿蘇の湯は硫黄臭いのか?」

「それはう分かりませぬ。ひとくちに湯といえども、様々でございます」

「そういうものなのか……」


 オレは前世の、修学旅行を思い出した。阿蘇にも泊まった。そういえば旅館の風呂は、確かに強烈な硫黄臭がした。男子全員フリ○ンで大浴場を泳いだ記憶が、もう何十年も前の事のように思えて懐かしい。


「そろそろ阿蘇の山も見えてくる頃でございましょう」

 はたしてキエンギの言う通り、暫く進むと木々の間から阿蘇山が見え隠れし始めた。皆、足を止め、しばしその勇姿に見入る。


 ……と、その時、周囲の様子に気を配っていたキエンギが、

「これはひと雨きそうですな」

 とオレに促した。


「それはマズいな。どこか雨をしのげそうな場所があるか?」

「う~む……。多少、遠うございます。急ぎましょうぞ」

 一行に指示し、山道を早足で進み始めた。しかし山の天候は急変する。程なく小雨がしとしとと降り出した。


 とうとう、ひと月近くかけて準備した雨具の出番が、やって来た。全員が荷駄車から傘を手に取り、頭に乗せる。

「わははは。これは便利ですな」

 何とも異様な、謎の秘密結社のような集団が出来上がった。


 頭がピラミッド状態の一行六七人は、小雨の中を大騒ぎしながら突き進んだ。半刻ばかし行くと、キエンギの示す洞窟が見えたので、全員で駆け込む。

「ほう。意外に広いな」

 天然の横穴である。この辺りには、鍾乳洞のみならずこのような洞窟が幾つか点在するという。


 オレ達は雨の中、手分けして薪を拾い集め、洞窟の入り口に焚き火を熾した。濡れた薪に火を点けるのは苦労したが、傘の補修用に油壺を幾つかストックしておいたのが幸いした。じわじわと弱々しかった炎も次第に勢いを増す。

 寒くはないため、暖を取る程の火力は要らない。荷駄車から米と野菜を下ろし、焚き火で夕飯の粥を作り腹を満たした。


「まあ、おそらく明朝には雨も止みましょう」

 というキエンギの言葉通り、翌朝陽の昇る頃には雨も止んだ。


「者共、行くぞ!!」

 オレは声を張り上げ、全員に号令した。普段は大人しい及川○央と明日花キ○ラが、なぜかオレの掛け声に続いて、

「アォ~っ!!」

 と力強く吠えた。


「目的地は近い。あと数日、気張れ!!」

 強い木漏れ日の射す中、八郎為朝様御一行は意気揚々と、輝かしい前途を確かに見据えつつ歩み始めた。

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