阿蘇の方へ向かいなさいまし
一〇日強の間に、大量の真竹が四角錐の傘の骨組みに化けた。
糸を太めに撚ったものを使用し、きっちり竹同士を結わえ付けてある。再検討の結果、傘には
国府へ買い出しに行っていた一二人の郎党達も、三台の荷駄車に和紙や油を満載し戻って来た。早速村人達の力を借りて油紙を製造し、最後の作業である傘張りに着手した。
幸い天候にも恵まれ、作業はスムーズに進捗した。発注した強弓を受け取るべく、再度別府に向かった重季さん一行が戻り次第、いつでもこの地を
「どうだ。国府では何か良い情報を得られたか?」
オレは、与次郎と弥平をつかまえ、尋ねた。
「残念ながら、特にござらなんだ」
弥平が言う。
「年寄り達が言うには、この地は五月(旧暦)に入る頃には梅雨が本格化するようでございまする。その前に辿り着ける地となると、この由布からせいぜい二〇里余りに限られましょうな」
と、与次郎。
「そうだな。オレもその距離が限界だと思う」
「されば筑紫方面のいずれかでしょう」
「うん。やはりそれが第一候補か……。されどあちらの勢力図が判然としない。九州の先進地帯たる太宰府に近い分、地の利はある。しかし逆に言えば、後々敵対するであろう勢力も強力なのではなかろうか」
「なるほど……」
与次郎は暫く考え込み、
「筑紫になるべく近く、されど大勢力の少き空白地帯を狙うべし、と……」
「そういう事だ。お前はなかなか賢いな」
「恐れ入りまする」
与次郎は照れつつ頭を掻いた。オレは今後、こういう男を人材として育てていかなければならない。九州征服を当面の目標と掲げた以上、人材育成は喫緊の課題である。
「筑紫からは離れておりますが……」
弥平が口を開いた。この男は武芸も達者だが、単なる
「手前は日向と豊後の境にある、高千穂はいかがなものかと思うておりまする。さしたる勢力もおらず、日向、豊後、肥後、そして筑後や肥前へと通じる要衝であるとか。
「そうだな。高千穂も検討の余地がある」
オレは頷いた。
及川奈○と明日花キラ○を連れて近隣の山野に分け入り、タヌキやイノシシを狩る。また付き従う郎党に命じ、野草を集める。夕飯の調達である。
逃げるタヌキにマイケ○・ジョーダンで矢を射掛けつつ、ひたすら移動先について考え続ける。
(情報が少な過ぎる……)
わずか半径一〇〇kmのエリアすら、大した情報が得られない。高度情報化社会に生まれたオレとしては、非常に歯痒い。しかしいずこを選ぶかによって、今後の我々の命運が大きく左右されるのである。
一刻ばかしかけて八頭の獲物を仕留め、野営地に戻る。露天風呂に入り汗を流しつつ、
(やはり福岡県方面か。久留米付近なんかはどうやろか)
と考えるが、元々関西人であるオレは九州の地理に詳しくない。さりとて詳細な地形図があるわけでもない。
(結局、情報不足のまま、とにかく決断するしかないんやろな)
ぼんやりと考え込んでいるうち、いつの間にか辺りは真っ暗になっていた。
もうこんな時間か、と風呂から出ると、いつものように集落の娘達が食事の支度を整えてくれていた。
「八郎冠者、夕餉の準備が整っております。もう皆様お待ちでございますよ」
お
「先に食い始めておけ」
と伝えてあるが、毎晩律儀にオレの着座を待っているのである。
「皆、今日もお疲れさん。さあ、食ってくれ」
と音頭を取ると、やっと箸を付け始めた。可愛い奴らである。オレはこいつらを養っていかねばならない。責任は極めて重い。
「さあ、八郎冠者もお召し上がり下さいまし」
お美以がオレに、碗と箸を持たせてくれた。
「そして今宵は、
童顔の癖に妙に色っぽい流し目で、オレの顔を横から見上げる。
「うむ……。却下だ」
「まあっ。つれない御方!!」
ぷうっ、とお美以は頬を膨らます。オレは指でお美以の頬を
早々に飯を食い終わると、ごろりと横に寝転がった。頭を使ったせいか、騒がしい中、オレはたちまち
お鶴がオレの背を押しつつ、
「阿蘇の方へ向かいなさいまし」
と言うのである。
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