ちなみにわたくしめが一番危のうございまする

「これは……一体何事でござるか!?」

 重季さん一行三人は、別府から戻るなり目を丸くした。


 オレの指示でマイ○ル・ジョーダン(特注の強弓)を発注しに行き、八日がかりで漸く由布に帰り着くと、野営地が宴会場と化しているのである。

 何故か若い娘達が混じっている。それも一〇や二〇の数ではない。三人が驚くのも当然である。


「ああ。何だかんだで……いつもの通りだ」

 オレが笑うと、三人も釣られて吹き出した。

「なるほど。確かにいつもの通りでございますなあ」


「報告は後で良いから、まず風呂に行ってこい。早う行かんと飯がうなるぞ」

「ははは……。承知」

 それを聞いて周囲の娘達が数人、立ち上がった。


「八郎様も、ご一緒にもう一度入浴されてはいかが!?」

 と言い出したのは、オレの傍らに居た雪絵という女である。家遠氏の郎党の孫らしい。

「せやなあ……」

 立ち上がり露天風呂へ向かうと、雪絵も懐からたすきを取り出して肩にかけつつ、オレ達の後に従う。


 露天風呂へ向かう二〇〇mばかしの間、ほうぼうの藪の奥から男女の忍び笑いやアヤシげな嬌声が漏れ聞こえた。何をしているのか知らないが、皆、よろしくやっているらしい。


「最初は、村の者は皆、八郎様御一行を警戒申し上げていたのです」

 雪絵が言う。見るからに聡い女で、娘達のリーダー格のようである。


「天狗様のように大きな殿方が、六〇人もの猛者を引き連れて突如やって来た、というではございませぬか。皆、不安でございました」

「まあ、そうだろうな。……おまけにオオカミまで居る」

 オレの傍らを黙々と歩く、及川奈○と明日花キラ○を指差す。


「左様でございます。でも八郎様をよくよく見れば、まだ幼き顔をなされた色白の偉丈夫ではございませぬか。それが真っ赤に日焼けされて精悍な出で立ちで、それでいて折り目正しゅうて優しゅうて……。おなごは皆、きゃぁ~~~~♪、でございまする」

「あははは」

 謙虚さがウリのオレとしては、苦笑するのみである。


「さすがは冠者。どこへ行こうとおなごに騒がれまするな」

 重季さんが感心したように言う。

「なんのなんの」

 と口を挟んだのは、彼のすぐ後ろを歩く、お絹という娘である。


「重季様も、なかなかの男前ではございませぬか。既に幾人かのおなごが、重季様を狙っておりまする。充分お気をつけ下さいまし。……あっ、ちなみにわたくしめが一番危のうございまする」

 ふふふと笑いながら、そう言うのである。


 まあ、お絹の言う通りかもしれない。

 彼の本名は、須藤九郎重季。――

 歳は今年一七歳である。八郎君とは五つ違いで、八郎君の中身の人――オレ――の一つ下。八郎君の乳母の息子なので、つまり乳兄弟とでも呼ぶべきか。


 幼い頃から一緒に育てられ、幼少時より八郎君の世話役となり今に至る。真面目で穏やかな性格である。この一年、オレに付き従ううち、次第に実務能力を身に着けてきた。オレの手ほどきで弓もそこそこ扱えるようになったが、将というより能吏向きかもしれない。此度の旅では実務面で随分とオレをたすけている。

 京育ちで物腰柔らかく、端正な顔立ち。まさにモテるタイプなのではないか。――


 露天風呂に着いた。

 オレは手桶で湯をかぶると、ざんぶと浴槽に飛び込んだ。その飛沫を浴びた娘達が黄色い声を上げ、及川○央と明日花キ○ラがキャンキャンと鳴いた。

 重季さんら三人は、娘達によって体を洗われ垢を落とされている。


「弓の発注は、抜かりなく行いましてございます。完成まで、やはりひと月はかかるとのことで、頃合いを見てもう一度、別府に向かいまする」

「ありがとう。ご苦労でした」


「いえ恐縮でござ……うひゃっ」

 重季さんの口調がおカタいので、娘の一人が体を洗ってやりつつ彼の裸体にイタズラしたらしい。突然、彼は敏感なところを攻められ奇声を上げた。あははは。


 雪絵が膝を折ってオレの後ろにしゃがみ、オレの肩を揉み始める。他の三人は、次第に娘達のアヤシげなイタズラに攻め上げられ、悲鳴を上げ始めた。

「あらあら。何とも逞しい……(はぁと)」

 お絹の、驚いたような声がする。誰の何が、どうなっているのやら。――

 と同時に重季さんが勢い良く立ち上がり、慌てたように湯をかぶるとオレの横に逃げてきた。


「冠者。我らはこの後、いずこへ向かいまするか」

「別府の街で、何か良い情報でも仕入れて来たか!?」

「半日のみ、色々と聞き込んで参りましたが、あいにく良い話はございませぬ」

「そうか……。皆には既に伝えたが、依るべき伝手が無くとも独力で拠点を築けば良いのではないか……と考えているところだ」


「なるほど。……されば、地の利を考えると、やはり筑紫(福岡県)が良……あひぃっ」

 雪絵と並び、しゃがんで重季さんの肩を揉んでいたお絹が、重季さんの胸に手を伸ばし先っちょを撫で回していた。

「うふふふ。可愛い殿方でございますこと……」


 負けじと雪絵も、オレの胸を妖しい手つきで撫で回し始めるのである。

「さて。八郎様はいつ、私を抱いて下さるのでございましょう!?」


 いや、知らんがな。――

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