ようお越しなさった
平成っ子たるオレには、山道がしんどい。堺に滞在中、一応の履物対策はしたが、それでも足が痛む。
一行からは特に不平不満を聞かないが、決してラクではない筈である。まさか逃げ出す者はいないだろうが、余計な不平不満を溜め込ませないようにすべきだろう。
そう考えたオレは、
「のんびり行こう」
と歩速を落とさせた。かつ、前世の某テレビ番組にあやかり、順番に「すべ○ない話」をさせて一行を盛り上げた。
バカ騒ぎをしつつ、山道を往く。
陽が傾いてくると早めに野営の準備を始める。薪を拾い集めて篝火を焚き、狩をして夕食の肉とするのである。多少の野菜と米は出発前に調達しているので、荷駄車から下ろして数人がかりで調理した。
狩りの際、別府の職人に作らせた弓を試してみたが、意外に出来が良い。オレはこの弓に、バスケの神様にあやかって「マイ○ル・ジョーダン」と名付けた。
足の痛みを別にすれば、道中は意外と楽しかった。野営の準備中、川へ水汲みに向かった郎党が、
「湯が湧き出ている」
と言うので行ってみると、驚いた事に、川の傍らに温泉が沸いていた。
「ツルハシとシャベルを持って来い」
と命じ、簡単に周囲を掘って浴槽を作った。皆、順番にツルハシやシャベルで浴槽を掘り広げ、順次入浴する。湯は最初こそ泥だらけだったが、豊富な湯量のお陰で次第に水が澄んできた。ヤロー共全員、バカ騒ぎしつつ自然の温泉を楽しんだ。
九州のこの季節は雨が少ない。幸い、ずっと好天に恵まれた。ただし早くもヤブ蚊が飛び交っているのには閉口した。
数日、山道を歩き続けていると、いよいよ目指す尾張権守家遠の屋敷が見えてきた。
「着きましたぞ。あれでござる」
重季さんが屋敷を指差す。あまり大きくはない。なるほど源氏ヶ館などとは異なり、六六人で押しかけたら迷惑する規模である。
(どないしよ……)
しばし腕組みし思案していると、突如背後よりオオカミの鳴き声が聞こえた。
慌てて身構えると、何とオオカミは弱々しい足取りながらも真っ直ぐオレの方に駆け寄り、はあはあと荒い息をしながら、
「ク~ン、ク~ン」
とオレの足に纏わり付いて甘えるのである。
よく見れば、先日オロチに襲われているところを助けてやった二匹である。オロチの肉を食べて命を繋ぎ、回復を待って一行を追いかけてきたのだろう。
「これはまた……。驚きましたな。冠者はおなごのみならず、オオカミにもおモテになるようで」
郎党達が破顔する。オレは二匹を飼う事に決め、それぞれの首に麻紐を巻き付けリードの代わりとした。
名前も付けてやった。細めの方が「及川奈○」、多少体格の良い方が「明日花キラ○」である。そう宣言すると、郎党達は妙な顔をしていた。
ともあれ。――
オレは郎党達をその場に待機させ、荷駄車の人夫は駄賃を渡して返した。それから重季さんをはじめとする先日の三名を伴い、屋敷の門を叩く。
「ようお越しなさった」
屋敷の主、家遠氏が片膝をつき、出迎えてくれた。
年配の小柄な男である。丁寧な物腰とは裏腹に、オレ達を歓迎していない様子が表情にありありと見えた。おまけにオオカミ二匹をあたかも犬のように従えているオレを見て、気味悪がっている。
足を洗わせてもらい、座敷に上がる。
「ご覧の通り、当屋敷は
「……」
「六六人も逗留なさるのは、
と、敷地内のはずれにある、ボロボロに朽ち果てた長屋を指差す。
「あれなる長屋をどうにか直して、住もうて頂くしかありませぬ」
「なるほど……。お心遣い、ありがとうございます」
なにしろこちらは突然押し掛けているわけで、贅沢は言えない。家遠氏が迷惑がるのも当然である。オレは素直に礼を言い、郎党達と長屋を確認した。
「うわ……。酷いものでございますな」
それはまさに廃屋であり、あちこち雨漏りだらけ、壁も穴だらけである。蜘蛛の巣にまみれ、埃も酷い。
「まあしかし、これを何とかせんとしゃあないやろ……」
家遠氏から金槌と釘を借り、早速長屋の補修に取り掛かった。
人数だけは多いので、幸い一刻程でどうにか人の住める状態にはなった。しかし大人数で住むには狹過ぎた。また布団もないため、やむを得ず稲藁を持ち込んだが、これも量が全然足りない。
結局、屋敷外で野営することとし、雨の日のみこの長屋で凌ぐことにした。
オレも皆に付き合い、毎日野営した。家遠氏に準備してもらった部屋は、雨の日のみ使用するつもりである。風呂は、ほんの二〇〇mばかし離れた場所に湯が湧き出ていたので、皆で入浴出来るよう手を入れた。
(長期逗留は無理やな。次の行き先を考えんと……)
及川○央と明日花キ○ラの頭を撫でつつ、オレは思案した。
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