これがおなごの歓びなのでございますね
「あっ。八郎様ったら、今、別のおなごの事を考えておられたでしょう!?」
じっとオレの横顔を眺めていたお
「いやいや、左様なことはない」
即座に否定したが、実は図星である。お鶴の事を考えていた。
残念ながら、京を立つ前に終わった恋である。
お鶴にも婚期というものがある。こちらはいつ、勘当が解けて京に戻れるか全く分からない身の上である以上、お鶴に対し、
「待っていてくれ」
とは言えなかった。
さりとて、
「九州まで、オレに付いてこい」
とも言えなかった。前世のように飛行機や新幹線で九州までひとっ飛び……というわけにはいかない。宿泊施設ひとつ無い時代に、女性を伴って旅するというのはほぼ不可能である。その後実際に自ら旅しつつ、それを痛感している。
縁がなかった、これできれいさっぱり終わり……と互いに納得し合った。オレも頭ではそう割り切ったつもりだが、心のどこかにまだお鶴への未練がある。いや、未練たらたらである。
「奥方様はおらぬと伺っておりますが。もしや
「いや、……居ない」
「ウソ!!」
わざと拗ねた表情で、オレの左の胸を人差し指で撫で回す、お雅さん。
あるいは真っ直ぐ伸ばした指の横側で胸の
拗ねた表情にも色気が滲む。何だこのフェロモンだだ漏れ女は。――
終わった恋に未練がましく拘り続けるのは馬鹿げている。イイ女は他にも
オレはふいに、半身をお雅さんの方に向け、左手で彼女の肩を抱き寄せた。そして右手を彼女のおとがいに添え、こちらを向かせると、そっと口づけした。
前世、オトナの動画サイトによる
そして背中から脇の下を回り胸元に到達すると、意外にふくよかな柔らかき膨らみを優しくアレコレする。
彼女はたちまち、甘い吐息を漏らし始めた。
オレの連続攻撃は止まらない。目の前の浜辺に打ち寄せる、穏やかながらも力強い波のリズムに乗せて、多彩な手技を次々と繰り出す。
彼女の吐息に小さな喘ぎ声が混じり始めた。うなじを少し後ろに反らしつつ微かな声を発する。
(今宵こそ、純情オトコは卒業や)
丸い月が、真正面からふたりを煌々と照らしている。
オレの手がお雅さんの着物の裾に割って入り、先程とは逆に、彼女の柔々とした内腿を撫で始めた。
我に返ったお雅さんが、はっとその手を抑える。
「八郎様は、寝所にてお待ち下さいまし。
なるほど。確かにこんな場所で、最後までアレやコレや致すわけにはいかない。
オレは縁側から外に出ると、井戸端に行き素っ裸になって水をかぶった。それから手拭いで体を拭き上げ、服を着けて座敷に戻ると、既に膳が片付けられお雅さんの姿も見えなかった。
そのままオレにあてがわれた寝所に移動する。
用意されていた寝間着に着替え、布団を被りうとうとしていると、四半刻ほど経ってお雅さんが部屋に忍んで来た。彼女も寝巻着姿である。
そっと、布団に入ってきた。
体が冷たい。彼女の首筋辺りからほのかに漂っていたオンナの匂いも、ほとんど消えていた。どうやら彼女も行水を済ませて来たらしい。
オレは彼女をきつく抱きしめ、オレの体温で彼女を温めた。それから改めて口吻する。
愛ある連続攻撃再開の、火蓋が切られた。オレの
「嬉しゅうございます。嬉しゅうございます。……これがおなごの歓びなのでございますね」
彼女は寝間着の袖を噛んで喘ぎ声を堪えつつ、時折感嘆の言葉を漏らした。
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