オンナにして頂きとうございます
「弓のお手前も見事でしたが、指南の腕も見事でござった」
備後守
「恐れ多うございまする」
と、備後守に返杯した。
オレの指導法が極めて合理的だった、と備後守は言うのである。矢の軌道に対しどうスタンスを決め、どう弓を構えるか。そういった指導法は、当世においては画期的らしい。そのあたりをしきりに褒められた。
息子二人も、云々と頷く。彼らはオレと歳が近いこともあり、すぐに打ち解けた。
オレの隣りには、ひとりの女性が座っていた。歳の頃は
「醜女ゆえ、婚期が遅れておりましてのう……」
備後守は嘆くが、色白の男前である彼によく似た、細面の美女である。
「
彼女は名乗った。その切れ長の目は、先日別れたお鶴を彷彿させる。当世の美女基準的にはアレなのかもしれないが、色気に満ち溢れ、オレ的にはまさにどストライク美女である。
「さあ、どうぞ」
オレに微笑みつつ、酒を注いでくれる。所作が綺麗で、実に色っぽい。おまけにオレに近づく度、微かに高価そうな香の匂いが漂った。オレは彼女の色気にすっかり当てられてしまった。
胸の鼓動が高まり、緊張する。オトコたる本能を揺さぶられる。
オレをにこやかに眺めつつ談笑していた備後守は、手元の料理を平らげると、
「明日は
と、早々に立ち去ってしまった。
程なく兄弟二人も、
「明日もまた、弓の稽古をお頼み申しまする。冠者はどうぞごゆるりと」
と席を立った。我が源氏ヶ館では皆、夜半まで飲み明かすのが常であったが、当家では事情が異なるらしい。
困った事に藤太さんまでもが、
「郎党の方々のお世話がございますゆえ……」
と、オレの郎党達と共に席を立つ。
結局オレと、それからお
(うわ、どないしてくれるねん。……間がもたん)
内心、大いに慌てるオレ。――
お雅さんは、そんなオレの密かな動揺をよそに、
「少々寒うございますが、こちらへどうぞ」
と、オレを縁側へと
彼女は雨戸をひとつ、開けた。
眼前には砂浜が広がっており、瀬戸内の穏やかな波が打ち寄せていた。海の上には丸い月が浮かんでいる。
上々の夜景である。前世であれば、ちょっとしたリゾートホテルでなければ味わえない景色だろう。
オレが縁側に腰を下ろすと、お雅さんは
「お酒の
彼女も自らの盃を取り上げたので、オレは彼女に酒を注いでやった。彼女はそれを色っぽい所作で飲み干し、そしてオレの肩にしなだれ掛かるのである。恥ずかしながら未だ
「八郎様は一二歳とお聞きしておりますけれど……
オレの肩に頬を寄せつつ、オレの顔を下から覗き込む。
「斯様に大きな殿方には、初めてお会いしました」
「そうですか」
「元服はお済みだそうですね。もう……おなごもご存じ?」
妖艶な笑みと共に、核心的なコトを尋ねてきた。
「さあ、どうでしょう……」
オレはちょっと赤くなり、視線をわずかに逸らしつつそう応える。
「うふふふ。
彼女は大胆にも、オレの左胸に顔を
ヤバい。――
たちまちオレの下腹部の
「
「いやいや。お綺麗なのに……ご謙遜を」
「謙遜ではございませぬ」
彼女は突如、顔を上げ、オレを見つめる。
暫くオレの目を見つめた後、わずかに頬を染め目尻に色気を漂わせると、再びオレの胸に顔を
「今宵八郎様に、
と小声で呟いた。
香の匂いに混じり、彼女の妖艶な肌の匂いが、オレの鼻腔をそろりとくすぐる。
身も心も彼女の色気に蕩けてしまい、耐え難い程の、オトコの本能の昂ぶりを感じた。
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