武勇比類なし、

男の色気に溢れ、目も眩むようじゃ

 兄、上総御曹司が関東へ戻り、二ヶ月が過ぎた。

 オレは随分と当世の環境に慣れ、日々の生活を楽しめるようになった。


 朝早く起床する。時計は当然無いが、室内に朝日が射し込むので自然と目が覚める。実に健康的な生活である。

 外に出て顔を洗うと、弓の稽古をする。

 自分で言うのもアレだが、既にかなりの腕前である。強弓を扱えるため、稽古場のまとの距離程度であればまず狙いを外さない。兄弟や郎党達との勝負では、常に負け無しである。


 半刻(一時間)ばかし稽古をすると、郎党数人と共に馬に乗って洛外へ出掛ける。野っ原で馬を早駆けさせつつ、弓を射る稽古をするのである。

 当世の小柄な馬を乗りこなすのは、前世で自転車を乗り回していた感覚が多少役に立っているっぽい。オレが初日からあっさり馬に乗れたのは、そのせいではないだろうか。


 また遠距離のまとを狙うのは、長年やってきたバスケのシュートのセンスが役立っている気がする。カンにまかせて馬上弓を斜め上に向け矢を放つと、矢は放物線軌道を描いて的を目指す。軌道を脳内に描きつつきっちり的を射抜くのは、まさに熟練の技であり年長者の方が巧みだが、オレはバスケをやっていたせいか誰よりも腕が良い。


 狩りも、楽しい。

 三日にあけず、郎党数人を連れて狩りに赴く。これもまた馬術や弓術の稽古のうちである。

 イノシシやウサギ、時にはオオカミを仕留める。やかた内では肉を消費し切れず、残りは下男下女が街中まちなかで売った。


「六条判官様が八男、八郎様の仕留めたイノシシぞ」

 と触れ込むと、飛ぶように売れるそうである。オレの名が、いわゆるブランドになりつつある。ただし近場の山野さんやでは、次第にイノシシを見かけなくなった。狩り過ぎてしまったらしい。


 最近は剣術の稽古も始めた。

 当世――どうやらやはり平安時代らしいが――は、まだ剣術が大して普及していないようである。そのため防具がない。また木刀はあっても竹刀がない。

 そこで父、六条判官ほうがん為義に提案し、オレの考案した防具と竹刀モドキを職人に作らせた。それらを用いて郎党達と、剣術まがいの稽古を積んだ。


 中学、高校と体育館でバスケをやっていると、その片隅で練習していたのが剣道部である。オレ達は顧問不在の時、コソっと彼らに竹刀を借りて遊んでいた。そういう経験が今頃、意外なところで役立った。


 朝から夕方まで、そのように稽古と称して遊びと大差ない事ばかりやっている。

 晴れの日も雨の日も学校に通わされ退屈な授業を受けつつ、万年補欠のバスケを続ける前世の日々よりは、余程楽しい。大学受験も無くなり、実にお気楽である。


 ちなみにオレは前世の体格のまま、一一歳のガキ八郎君として転生したわけだが、呆れたことに、なお成長期真っ盛りであるらしい。前世ではほぼ身長の伸びが止まっていたのに、転生後じわじわと伸び始めている。一体オレの身長はどこまで伸びるのか。……


 下半身のは、前世で既にオトナのモノになっていた。転生後もそのまま、ガキにはご立派過ぎるモノが付いていた(笑)わけだが、不思議とオトコとして溜まる筈のものが溜まらない。つまり第二次性徴期前……ということになるらしい。


 しかし先日、井戸端で水を被って汗を流し、手拭いでゴシゴシ体を拭っていた時のこと。――

 お竹という名の二十歳はたちそこらの下女が、突如、素っ裸のオレに後ろから抱きついてきた。


「おい。何すんねん!!」

 思わず前世の関西弁丸出しで、咎める。

 彼女はオレの顔を下から覗き込み、悪戯いたずらっぽくしかしヤラシい表情を浮かべつつ、

「し~っ」

 と唇に人差し指を当てた。


 それからオレの胸板を後ろから両手でまさぐり、さらにはもっと下の……オレのをモニョモニョと触り始めたのである。


「あっ!!」

 たちまち強烈な感覚が下腹部から脳を貫き、オレの相棒は「さぁ頑張るぞぉ」状態と化した。とほぼ同時に、つまりその、何というか……恥ずかしながら、いともあっさり「暴発ボウハツ」した。

 要するに八郎オレ君一一歳が、とうとう精通を迎えたということらしい。


 お竹は、自らが現行犯の癖して、

「あらぁ♪」

 と目を丸くし、ヤラシい視線をオレに投げかけた。急いで手桶で「茫然自失」状態の相棒に水をかけ、ヤラシい手付きで暴発の残滓ざんしを洗い流すと、オレの手から手拭いを奪い取ってヤラシい手付きで下半身を拭き上げ、ヤラシい手付きでオレに下帯を履かせた。

 そしてヤラシい流し目をオレに投げかけると、あたかも悪戯っ子が逃げるような足取りでたちまち畑の方へ立ち去ってしまった。


「八郎様は、もはや完全にオトナの体をしておられる。子種こだねもお出しなさるとぞ。果てる時のご表情は、一一歳とは思えぬおのこの色気に溢れ、目も眩むようじゃ」

 という情報が、陽が落ちるのを待たずしてやかた中の女性全員に知れ渡った。猛烈に恥ずかしかった。


 オレは断言する。当世には絶対、どこかに高性能サーバーが存在し、メール一斉配信サービスが稼働しているに違いない。

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