#2 魔人の遺産


粘液魔すらいむを打ち倒し、山川やまかわを占領した三眼狼さぶろうは新たな統治者に成った。


それは、大和やまとから「三眼狼さんがんろう、山川を統治しませんか?」と提案された事が始まりだ。


「前にも言っていたな。統治するならお前でも良いんじゃないか? なんで俺なんだ。俺は魔人だぞ」


その疑問に「確かに人間の統治が好ましいんですが……現実的ではありません。魔法使いが居なくなった今、魔導士だけで全域を統治する事は出来ません。そこで、人間に友好的な魔人と同盟を結びたい――という訳なんですが、分かってくれましたか?」


「それが、俺か?」


「そうです。貴方は彼女から人権を奪いませんでした。それが貴方を信用する理由です」


「本当に良いのか?」


「はい」


「分かった。引き受けよう」


「ありがとうごさいます。ただ、一つだけ注意点があります」


「なんだ?」


「人権を軽んじた際、俺たちは貴方の敵に有り得ます。加えて、これは魔導士の総意ではありません。魔人を差別する者は前時代から今も存在し続けていますから」


「そんな事か」


「はい、そんな事です」


「注意しておく」


「お願いします」


三眼狼さぶろうと大和に確認したい事がある私は「二人とも、ちょっと良いか?」と聞いた。


「なんだ?」「なんですか?」


返答を聞き、言える準備は整ったが、受け入れられるか不安だ。


それでも黙っていた方が後々大きな問題に発展するだろうから、今、言わないと。


「すぅーはぁー」と深呼吸した俺は二人に「俺の中に粘液魔すらいむの子供がいるかもしれない」と告白した。


三眼狼さぶろうからは「どういうことだ?」そう聞かれ、大和からは「あれに襲われたのですか?」と聞かれた。


頷き、大和の問いに答えたら。


三眼狼さぶろうが不機嫌な表情になった。


自分の魔女が他所の魔人に手を出された、と知れば不機嫌に成るのは当然かもしれない。


イライラしている三眼狼さぶろうには触れたくないが、この子を守るためには、言わないと……。


「もし、妊娠していたとしたら……産んで良い?」


ドキドキと鳴く心臓を聞きながら答えを待つ。


「なんで、産みたいんだ。それはお前を襲った子供だぞ」


三眼狼さぶろうの言葉からは敵意を感じた。


その敵意は当然だろう。


でも、俺は「父親が誰であろうと母親は俺だ」そう答えた。


母親だから、俺の子供だから、それが俺の気持ちだ。


「好きにしろ」


投げやりな答えから不満を感じたが拒絶はされなかった。


それが嬉しかった。


でも、三眼狼さぶろうには嫌な思いをさせる事に成る。


それでも俺は子供が大切だ。


気に入らないと言わんばかりに俺の前から立ち去る三眼狼さぶろうの後を追った大和は「まだ、妊娠したと決まった訳では……」と気遣っていたが「分かっている!」と三眼狼さぶろうは語気を荒げていた。


二人の姿を見送りながら、罪悪感を抱きながらも、子供が増える可能性に嬉しさを感じていた。


【おわり】

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