番外編
#1 嘘つきな魔女
魔物を統べた法の原典、それは
なぜ、隼人は魔法を壊したのか。
彼は真っ当な魔法使いであった筈なのに。
多くの魔法使いは彼の行動を予期できなかった。
それが魔法社会が崩壊した最大の要因……。
【数日前……】
私には使命がある。
いつ得たのか、どこで得たのか、誰かから与えられたのか、分からないけど、私には使命がある。
魔法は魔人を痛めつけ、反抗を許さない。
魔法は人々が守り、守られる法律とは違う。
姿を変えられ、力を制限され、自身が自身でなくなってしまう。
意識と現実の差異、その苦痛から逃れる為に魔法使いへ従う。
それが魔法使いのやり方。
それは悪だ。
魔法使いは自らの正義を語る
魔人は超常的な力で社会を脅かす危険な存在だ、と。
危険を退ける事は悪ではない、と。
『仕方がない』と、彼ら彼女らは語る。
それこそ、悪の自覚だ。
私は罰の執行者でも代行者でもない。
私に出来る事は魔法から魔人を解放する事だけ。
その為に私は彼に近づいた。
…………。
山田家の若き後継者――その肩書は人々を引き付ける。
彼の下に集まった女性は皆、その肩書を欲し、彼を誘惑する。
それを彼は嫌悪していた。
だから、私は彼自身を欲した。
渇いた心を潤し、私という甘い蜜を飲ませた。
彼は私に弱みを見せた。
想定外な事は一つ、魔人を虐げない彼に私が惹かれてしまった事。
彼から身体を名を地位を奪う私は、彼から生涯の愛を得られない。
私はそれに苦しみを抱いてしまった。
私は彼に罪悪感を抱いてしまう。
魔人を解放する正義のために、悪が苦しむのは間違っていない。
正義の為に悪が苦しむのは真っ当な社会なんだから。
彼は真っ黒では無かった。
善か悪か、二極化していた私は、矛盾を抱え苦しむ彼を知ってから、彼と似た苦しみに苛まれた。
それでも私は使命を果たしたい。
だから、私は……。
彼と身体を重ね、愛し合う、その時、決行した。
こんな形で彼と結ばれたくなかった。
愛し、愛されたかった。
でも、それは叶わない。
きっと私は恨まれる。
でも、もし、彼が私を恨まなかったら。
そんな事を考える私は、彼は私を見捨てないんじゃないか――なんて期待してしまう。
そんな願望、叶わない――否、叶ってはいけない。
貴方を裏切る私は恨まれなくちゃいけない。
だから、私は彼を突き放さないといけない。
何時までも側に居たい、貴方を支えたい、その気持ちを偽って……。
【おわり】
悪と対峙した時、己は正義になります。
ですが、正義だから悪ではない――とは限りません。
それに気づいた彼女は自身が予定する悪行を許せなくなりました。
悪と戦う正義として……。
だから彼女は自ら悪に成ろうとしました。
彼女は英雄な悪者に成りました。
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