魔女の営み

ネミ

魔女の営み

本編

本編

俺に近づく者たちはみんな家名を見ている。


そんな中で、ただ一人、俺自身を見てくれた女が居た。


その女――咲夜さくやと今日、繋がり結ばれる。


しなやかな黒色の長髪を持つ咲夜は顔つきや体格は幼く見えるが大人と言える年齢だ。


咲夜の身体を侮辱する者も居るが身体だけ大人な者たちよりずっと魅力的に思える。


そんな彼女と過ごす初めての夜、俺は咲夜に成り彼女は隼人はやとに成った。


…………。


俺の目前に水色の瞳と金色の短髪を持つ優男が居た。


その男は何度も鏡の前で見た事があった。


「何が起ったんだ!?」


「入れ替わったのよ、私と貴方が……」


繋がる時、咲夜は自身の秘部を触媒に魂を入れ替える魔術を用いていたらしい。


「なぜ!?」


「私が魔術を使ったから」


「なぜ、そんな事を!」


「貴方の身体が欲しかったからに決まっているじゃない」


「俺の身体?」


「ええ、恵まれた魔法の継承者である貴方の身体が欲しかったんです」


「それで、こんな事を……」


「ええ、思ったよりも簡単で拍子抜けでしたが」


「どういう事だ」


「そのままの意味ですよ。『家の名を見られ、誰も俺を見てくれない』『俺が欲しいんじゃない、能力が欲しいだけだ』なんて言っていた貴方は容易に陥落できました」


「君も、そうなのか……」


「そんなの、当たり前じゃないですか。自己中で被害妄想に振り回されて孤立した末に他者が悪いという貴方を誰かが好きに成ると本気で信じていたんですか?」


「…………」信じていた。


絶望する俺を嘲笑う男は咲夜か、それとも俺自身――隼人か。


「これでも感謝しているんですよ。孤児の私と結婚してくれるって、言ってくれた事。これはお礼です。せめて気持ちよくしてあげますね」


微笑んだ男が腰を動かし始めた。


強引に動かされた身体は悲鳴を上げる。


この痛みは咲夜の身体から発せられている。


その身体も今は俺の身体だ。


許しがたい裏切りに復讐したい――その思いから抵抗するも組み伏せられた身体は動かない。


女の身体とはこれ程までに、か弱いのか?


苦しい、痛い、早く、解放されたい。


弱気になった心は助けを求め、受動的に成った末、抵抗を諦め、行為を受け入れた。


以前の一身を弄び、俺の魂を凌辱した咲夜は、意識を失った俺の前から姿を消していた。


ホテルに残されたのは咲夜の服と俺の財布だけだった。


この身体では実家――山田やまだ家には帰れない。


財布を握りしめた俺は脱ぎ捨てられた花子の服を着てラブなホテルを後にした。


俺が咲夜――否、隼人の消息を知ったのは数日後だった。


隼人は魔法を用い従魔じゅうまの封印を解除し、魔王城まおうじょうを襲撃した。


魔法の管理者である魔王まおうの死は魔人を魔法の楔から解き放ち、自由を与えた。


魔法により保たれた平和は崩壊し、魔人の反攻が始まった。


今の俺に何が出来る?


魔法を失い、家名を失い、行き場の無くなった俺に何が出来るというんだ。


【区切り】


魔法秩序の崩壊は魔人の反攻を許した。


街中で人々が魔物に襲われる光景を見ながらも身を隠し逃れる自身の弱さを実感する。


今の俺には何も出来ない。


そんな俺の前に熊の様な魔人が一体、現れた。


『魔人を支配した人間に復讐を』それが魔人の内心か。


殺さず、甚振いたり弄ぶ。


魔人を道具として扱ってきた人々には当然の報い――なんだろう。


必死に逃げる俺へ「ちゃんと逃げないと捕まっちまうぞ」と煽る魔人は楽しそうだ。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……ッ」


「ガッ――ドシャ!」


つまずき転んだ俺にゆっくりと歩み寄る魔人は「あ~あ、転んじゃった」と残念な内心をこぼす。


這ってでも、逃げようと試みた俺は足を掴まれて「追いかけっこは終わりだ」と告げられた。


死にたくない――そう思った時、背中から轟音が聞こえた。


恐る恐る振り返ると、そこには見覚えのある魔人が佇んでいた。


人間の様な体格で狼の様な顔の額に第三の目を持つ魔人。


それは俺の従魔じゅうまだった、三眼狼さぶろうだった。


その足元には俺を弄んでいた熊の様な魔人が微動だにせず転がっている。


助けてくれたのか?


そう考えていたら「怪我はないか?」そう聞かれた。


「ない――と思う」


「そうか」と言った三眼狼さぶろうから手を差し伸べられた。


※さぶろう=三眼狼さんがんろうのあだ名


本当に俺を助けてくれたのか?


そう疑いながらも恐る恐る手を乗せた俺は勢いよく立ち上がらせられた。


【区切り】


「なんで俺を助けたんだ? お前はもう……自由なんだろ?」


そう言った俺に――。


「魔法が無くとも貴方は俺のご主人様です」と言った。


信じて良いのか? そう考えていたら……。


膝を曲げしゃがんだ三眼狼さぶろうは掴んでいた俺の手の甲へ口先を当てた。


それは忠義を示す行為。


だから、信じて良いんだよな。


俺はそう思った。


…………。


数時間後、俺の前に咲夜さくやが現れた。


俺をこんな状況に追い込んだ張本人が……。


「三日ぶりかな?」


「咲夜……」


「元気そうですね」


「おかげさまでな」


「それにしても貴方は変わりませんね」


「は?」


三眼狼さんがんろうが忠義から貴方を助けたと本気で信じているんですか?」


「どういうことだ?」


「彼が貴方を助けたのは貴方が魔女だからですよ」


「魔女?」


「はい。魔女は魔人の子供、否、魔物を産めるんです。三眼狼さんがんろうは貴方の身体を欲しているだけですよ」


衝撃的な言葉を耳にした俺は三眼狼さぶろうへ聞いた「本当なのか!?」


「違います! 俺は貴方を――」


否定する三眼狼さぶろうの言葉に被せて「彼の何を信じられますか?」


俺は「…………」何も言えなかった。


「信じてください! 俺は……」と懇願する三眼狼さぶろう


「ふふふふふ」と笑い、この状況を楽しんでいるかのような咲夜が気に入らない俺は――。


「そんなのどっちでも良い」そう宣言した。


昔から変わらない。


俺自身ではなく俺が持つ何かを欲している者しか居ないのは。


だから、もう期待しなければ良いんだ。


期待するから、こうやって疑い迷ってしまう。


期待しなければ……。


三眼狼さぶろうが俺を魔女として欲し、守ってくれるなら俺は生き延びられる。だから関係ない」


これは精一杯の強がりかも知れない。


でも、こうしないと俺は耐えられそうもない。


「ふふふふふ、そうですか。それなら、その狼と子作りに励んでいてください」と言い残し、咲夜は立ち去った。


【区切り】


魔王城、城下町から離れ、森へ移動する三眼狼さぶろうに大人しくついて行った。


それは、三眼狼さぶろうが語る忠義を信じてるからじゃない。


俺は生きる為に三眼狼さぶろうの嫁に成らないといけない。


俺に子作りを迫らない三眼狼さぶろうへ「子を作らないのか?」と言って交尾を促したのは三眼狼さぶろうに『お前は魔獣を産む道具だ』と言わせたかったからだ。


裏切られるより、初めから分かっていた方が良い。


何故なら、結末は変わらないんだから――。


それでも三眼狼さぶろうは忠義を否定しなかった。


「貴方が望むなら……」そう言って俺と交尾した三眼狼さぶろうの表情は悲しそうに見えた。


…………。


交尾してから半年ほどで生まれた我が子は人の様な姿ではなく狼の様な赤子だった。


疑問を抱いていた俺は、魔物――否『魔人の子供は魔獣になる』と狼鬼から教わった。


人の母乳で良いのかな? と考えながらも他に与えるものがなく、母乳を飲ませながら育てた赤子は健やかに成長していった。


成長する我が子――史郎しろうを可愛がっている俺は史郎を兵士として産んだ事に後悔していた。


『魔人の子供は生殖能力が乏しく、子孫を残す事が出来ない』と三眼狼さぶろうから教わった。


同時に『魔人が魔女に子供を産ませるのは便利な道具として用いる為だ』とも教わった。


自我を持ち成長する生き物に分類できそうな魔物を道具として事は抵抗がある。


そう思うのは俺が魔人を道具の様に用いていた魔法社会が気に入らなかったからなのか。


それとも俺が史郎を生んだから――なのか。


叶うなら、史郎が戦わぬ事を望む。


【区切り】


数か月前まで人間が支配していた町々は今、魔人まじんに支配されている。


俺たちは他の魔人から逃れる為に人里から離れた場所で生活している。


俺や乳離れした史郎しろうに食料を与える為に日々、森で狩りや山菜集めなどを行っている三眼狼さぶろうには感謝している。


支配している魔女を生かし、我が子を育てるのは当然の事なのかも知れないが感謝する気持ちは忘れたくない。


依存している事を実感する為に。


そんなある日、一人の男が俺と史郎の前に現れた。


物珍しい銀髪は短く切られ、整えている事が一目で分かる。


自身が低いからか高く感じるが身長は男の平均程度か。


人里を離れてから人間と出会う事は一度もなかった。


銀髪の男は私ではなく怯え、威嚇する史郎を見ている。


男の視線に気付いて史郎を守る様に抱きかかえた俺は男を睨みながら「何の用だ?」と尋ねた。


「魔物を殺しに来た」


「…………」


史郎を抱きかかえる手に力が入る。


刀の刃先を見せつけながら「差し出さねば、君ごと、切る事に成る」と言われた。


人間を殺したくない、とでも言いたげに男から脅された。


それなら殺さなければ良いのに。


そう思おうとも男には魔獣を殺す理由があるんだろう。


どんな理由が有ろうとも、我が子を殺させはしない。


だから「いやだ」と断った。


「そうか」と残念そうに言った男から距離を取りたくて少しずつ後ずさった。


その時「逃げろ!」と叫ぶ三眼狼さぶろうの声が聞こえた。


三眼狼さぶろうの叫びに従って、振り向き、走り出した俺は背後から戦っている? 音を耳にした。


気には成るが振り向かず全力で走った。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


音が聞こえなくなり振り向いたら男は見えなくなっていた。


「ふぅー……」


少し、安心したのか、身体の疲れを実感した俺は少し休もうと木の陰に腰を下ろした。


抱きかかえている史郎を撫でながら、三眼狼さぶろうは大丈夫だろうか……と考えていたら、目前から足音が聞こえた。


史郎から目線を上げた目前に一人の女が立っていた。


長い赤髪の女は人々を魅了する整った体系だ。


男の仲間かもしれない――そう思ったが疲れた身体は直ぐに立ち上がってくれない。


焦りながらも逃げる手段を考えていたら。


「魔力解放――変身」女は呪文を唱えだした。


身体から噴き出した黒い煙が服や鋭い短刀を形成した。


殺される――そう思った時「安喜あき! 逃げろ!」と叫ぶ男の声が聞こえた。


声が聞こえた直後、三眼狼さぶろうが跳躍し、女に殴りかかっていた。


回避する為に俺の側から離れた女を睨む三眼狼さぶろうは俺たちの盾に成ろうと俺の前から動かなかった。


駆け寄ってきた銀髪の男が見せつける様に刀を鞘へ納めた後「休戦しよう」と言い出した。


主様ぬしさま!?」と驚いた女に銀髪の男は「彼らは俺たちの獲物ではない」と断言した。


不満げだが、主人と思われる男に逆らわず、女は短刀から手を離した。


手放された短刀は黒い煙に戻り、吸い込まれる様に女の身体へ帰っていった。


【区切り】


魔導士、それは魔女の魔を導く者、男しか居ないと言われている。


「勘違いで襲ってしまい、申し訳ありません」そう言った銀髪の男は魔女から『主様ぬしさま』と呼ばれていたから魔導士なんだろう。


それで、魔導士から『安喜あき』と呼ばれていたと思われる女は魔力を溜める器、魔女なんだろう。


「ごめんね。恐がらせちゃったよね」と魔女からも謝られた俺は、何と返して良いものか悩んでいたら。


「俺たちを殺さないのか?」と三眼狼さぶろうが魔導士に問いかけた。


「旧時代の権力者たちは『魔人や魔獣を殲滅しろ』と求めて来るが俺個人としては全ての魔人を相手にしたくありません。そんな事をすれば魔人に団結されて魔導士が殲滅されかねませんから」


「ふむ……」と納得した様子の三眼狼さぶろうは「俺たちをどうする気だ?」と問いかけた。


『基本的に魔人は他の魔人と共同で領地を統治する事は無く状況によっては争う事も有った』と昔の文献に書かれていたらしい。


魔導士が力を持ち魔人の殲滅を掲げたら、魔人はいがみ合いを辞めて連合を結成する可能性がある。


人々へ害意を持たない魔人を敵に回さない努力は必要だと彼は考えているんだろう。


それを理解した上で三眼狼さぶろうは『どうする気か?』を聞いたんだ。


魔導士の彼の答えは「可能なら山川やまかわの奪還に協力して欲しいのです」だった。


山川、それは此処から一番近い町の名前。


山川を支配する魔人は竜の様な魔人まじんらしい。


魔人と言われているが、全てが人の様な特徴とは限らない。


由来は人々が最初に観測した魔人から来ているらしい。


「俺たちに利が無い」そう言った三眼狼さぶろうは彼から報酬を引き出すつもりなんだろう。


「奪還した際、山川の統治を貴方たちに任せたい――と俺は考えています」と彼から提案された。


「正気か?」と口にする程、提案に驚いた三眼狼さぶろうの気持ちは分かる。


魔人との敵対を避ける事と領地を与える事は等しくない。


魔導士が領地を統治しても良いはずだ。


それなのに彼は三眼狼さぶろうに統治を任せようとしている。


「俺は魔人だぞ」そう言った三眼狼さぶろうと同様の事を内心に抱いた。


三眼狼さぶろうは魔人だ。


今、山川を統治している魔人と異なり三眼狼さぶろうが人々を苦しめないとは限らない。


それを確信する程、彼は三眼狼さぶろうの事を知らない筈だ。


それとも俺の知らない所で三眼狼さぶろうの事を知ったのか。


「魔人である事と人々を苦しめる事は異なります」と彼は語りだした。


「貴方は彼女を力で支配ている様には見えません。二人の間に生まれたと思われる、その魔獣を必死に守ろうとしていた彼女は貴方が助けに来た時、安心していました。貴方の支配から逃れたい。そう思っているなら少なからず躊躇すると思います。彼女は迷わず貴方を選んだ様に見えました。それが貴方を信用する理由です」


長々と理由を聞かされた三眼狼さぶろうは「本当に良いのか?」と確認した。


「良いです。……ただし、人々を無用に苦しめたなら、俺は魔導士として貴方を殺さなくていけません。そんな未来は望みませんが……」


彼の言葉を何処まで信じるべきか分からない。


でも、史郎しろうを守るためには協力した方が良いだろう。


魔導士の機嫌を損ねるのは危険だ。


魔人を敵に回しかねないが、それは今のままでも起こりうる事だ。


魔人は魔人を警戒しているんだから。


【区切り】


銀髪の魔導士、大和やまとと魔女、安喜あきに襲撃されて実感した。


俺は三眼狼さぶろうに守られているんだって事が。


魔人が眷属を産ませる魔女を守るのは当然かもしれない。


でも、三眼狼さぶろうが守り切れなかった時、どうなるか。


それを体験して自衛できない無力さが悔しかった。


まだ、魔法があった頃、俺は優れた魔法の保有者で、従魔じゅうまを使えた事から、そんな無力さを感じなかった。


魔法がなくなり、初めて魔人に襲われた時にも感じた事を再認識させられた。


その時は必死に逃げていた。


魔人から、死から。


でも今は違う。


今は逃げられない。


史郎を置いて逃げたくない。


だから力が欲しい。


俺と同じく魔女の安喜は魔人と戦う力を持っている。


それが羨ましいから、思い切って大和に相談した。


「安喜の様に魔人と戦える力が欲しい」と。


「それがどういう事か分かって言っているのですか?」そう聞かれた。


俺は「そういう行為、するんでしょ。分かってる」そう言った。


恥ずかしくて思わず濁してしまった俺に「それを三眼狼さんがんろうは認めているのですか?」などと言い真面目に向き合ってくれる大和は良い人だと思う。


そう言えば……「言ってない」


「俺はしても良い……です、が実態はどうあれ、いまの貴女は三眼狼さんがんろうの所有物です。主の許可なくその様な行為は避けるべきです」


それが大和の答えだった。


「許されたら、してくれる?」そう聞いたら「その時は」と言質を得た。


…………。


三眼狼さぶろうに「俺は史郎を守る力が欲しい。だから魔導士に導かれたい」そう告げた。


「!? ……本気で言っているのか?」驚かれたけど、落ち着いて理由を聞かれた俺は「本気だ」と答えたら「何をするのか分かっているのか?」そう聞かれた。


「分かってる。似たような行為は何度かしているから大丈夫」そう答えた。


一回目は隼人はやと咲夜さくやと、二回目は三眼狼さぶろうと、大和とする事に成れば三回目だ。


俺の言葉を聞き「……」と何も言わず少し考えた三眼狼さぶろうは「貴方の身体をどう使おうと貴方の勝手です。好きにしてください」と雑に許してくれた。


その返答から、拗ねているのか? と思ったがそれは俺の願望なのかも知れない。


…………。


許しを得たと伝え大和から行う日時を伝えられた俺は清んだ泉で身体を洗い行為に備えた。


今回は後ろ向きなではない。


前向きな気持ちだから、大和に少しでも喜んでもらいたい。


それは恋愛感情では無いだろう。


普段、一緒に寝ている三眼狼さぶろうに行う日時を伝えたら「寝室は使うな」と言われたから良さそうな場所を探す羽目になった。


他の男に寝室を荒らされたくない三眼狼さぶろうの気持ちは分かるから責める気持ちは無いが少し面倒だった。


待ち合わせ場所に来た大和と行為が始まった。


成れた手つきでその気にさせてくる大和は女なれしていた。


安喜あきの魔を導いているんだから、当然か……。


そんな事も考えながら身体を預けた。


魔導士の種は常人のそれと異なるらしい。


『子供は生まず、魔を導く』らしい。


それを出された後、おへその下あたりに手の平を当てた。


数秒後、離された手の場所に紋様が印されていた。


これが魔導印まどういん


印された紋様は安喜とは違う形をしている。


魔導印の質は行為の質に左右されるらしい。


魔女の快楽、種の質、行う環境などが影響するらしい。


らしい、の知識は昔、文献を読んで知ったものだから、正しいかは分からないが。


「怠くありませんか? 痛みはありませんか?」などと大和は気遣ってくれたが三回目だからか、大和が上手だったのか、行為に挑む俺の気持ちが前向きだったからか、今までより充実していた。


だから、素直に「大丈夫」と答えた後「気持ち良かった」と感想を言ったら「そうですか」と少し照れられた。


褒められ慣れていないのかな? そう思った俺は自信ありげな大和とは異なる一面がかわいく、愛らしく思えた。


【区切り】


俺の身体に魔導印まどういんが有っても、その力の使い方を知らなければ、俺の望みは叶わない。


「どう学べば良いんだ?」と大和やまとへ尋ねたら「魔導印の使い方は安喜あきから教わってください」と言われた。


俺と同じ魔女――。


彼女は俺の先輩に当たるんだろうが、どんな接し方をすれば良いか分からない。


『力が欲しい』と思うあまり、俺が大和と肌をこすり合わせた事を彼女がどう思うかなど、考えてなかった。


もし、彼女が大和に恋愛感情を抱いてたら、俺は思い人と関係を持った女だ。


そんな俺を彼女は気に入らないだろう。


俺がそう思うのは、咲夜に恋をしていた頃、咲夜を誰にも渡したくなかったからだ。


『魔女は魔導士に導かれるものだ』という魔導社会の常識と『魔導士を愛した魔女の気持ち』は別物だ。


人の心は『倫理に基づき理性で制御しているだけ』だとしたら俺は彼女を傷つけながらも、教えを乞おうとしている。


必要な事だから、大和から言われたから、そんな理由できっと教えてくれると思う。


彼女は悪戯好きで楽しい事を好むけど、三眼狼さぶろうを魔人だからと拒絶しない人だから。


だから、俺から頼まないといけない。


この痛みは俺が背負うものだと思うから。


彼女に「魔導印の使い方を教えてください」と言った。


【区切り】


安喜先生から「魔は霊的な存在だってのは知ってる?」と言われた俺は「はい」と答えた。


先生と呼ぶのは教わる気持ちを俺が持つために自ら呼び始めた。


「世界を流動する魔は基本的に留まらないんだけど、魔女は例外でね。魔女は魔力の瓶を持っているって考えられているわ。その瓶の蓋を開ける詠唱が『魔力解放』ってこと。使い方は蓋を開ける感じね」


「蓋を開ける……ですか?」


安喜あき先生は自身の下腹部を指しながら「そうね~。ここの穴にある蓋を開けるイメージでやってみて?」と言った。


「っ」まさか下の方向へ行くとは思っていなくて、恥ずかしくなっていたら。


「ここが駄目なら、口でも良いし、へそでも良いし、耳でも良いし、鼻でも良いわ。でも、ここが一番やりやすい、と思うわ」と言われた。


本当なのか? 疑いたくて「そうなんですか」と言ってしまったが教わっている立場で文句を言えることではないとも思う。


「隼人ちゃん、昨日、大和に導いてもらったでしょ」


「はぃ……」


「その時、濃厚に絡んだ場所が一番、感覚をつかみやすい場所なの」


「……」


「だから、私のおススメは、ね」


「……はい」気乗りはしない……が一番良いんだから、ここにすべきなんだろう。


そう覚悟を決めた俺に「詠唱の際に唱える言葉なんだけど、それは必ず唱えなくても良いの」


「そうなんですか?」


「ええ、声に出す目的は意識と身体を一致させやすくなるからってだけなの。だから発声しなくても出来るんなら、要らないわ。初めてなら声に出す事をおススメするけど」


「分かりました。やってみます」


すぅーはぁー……と深呼吸した俺は意識と身体を一致させる為に考え始めた。


下腹部、大和のあれがこすれた部分。


大和と繋がった場所。


気持ちよかったそこを意識して……って考えていたら何だが変な気分に成って来た。


今は詠唱の特訓であって、あんな事をする時じゃないのに……。


なんだか一人で恥ずかしくなってきた。


集中、集中――……。


えーと、蓋を開ける感じ。


蓋って何だろう?


大きさは? 形は?


否、そもそも、人間の身体に瓶は無いんだから、物理的な蓋じゃなくて、もっと――こう、霊的な感じの。


安喜先生は言っていた。


口やへそでも良いんだから、ここにあるとは限らない。


でもここの蓋を開けるんだから、ここにあるんだよな。


えーと、つまり『ここにある』と思えば良いんだろうか。


取りあえずやってみよう。


初めてだし、失敗しても、大丈夫なんだよな。


何だが不安に成って安喜先生を見たら「がんばれ」と言われてしまった。


忠告していないんだから、大丈夫な筈。


大丈夫。


息を吸った俺は「魔力解放」と唱えながら、ここにある蓋を開けた。


無事に蓋が開いたのか、大事なところから黒い煙が漏れ出てきた。


「上手じゃない」そう言われて、出来たんだ、と安堵していたら。


「次は変身ね」と言われた俺は「えっ!?」と驚いてしまった。


それ程に俺の精神は疲弊していた。


「まあ、今日はこのへんにしておきましょうか」情けをかけられて、俺は色々な感情が入り混じる訓練を終えた。


が「それ、戻さないとね」と言われて、あそこから煙が出ている状況の異質さに気付いた俺は恥ずかしかった。


【区切り】


魔導印の使い方を教わった初日。


その夕食後、彼女から呼び出された俺は何を言われるのか不安を抱いていた。


もしかして、大和の事だったり……なんて考えもしていたが――。


「ねえ、私に遠慮してない?」そう言われた。


「遠慮ですか?」


「ええ、その敬語とか」


「一応、弟子入りしたので、相応しいと思うんですけど……」


「確かに私は隼人はやとちゃんに魔導印の使い方を教えているけど、先生ってキャラじゃないのよね~」


「キャラ……」


「だから、タメ口って事で……、分かった?」


「はぃ……」


「遠慮、まだしてるでしょ」


「え……」


「当ててあげよっか。私が――大和に恋しているかも~、とか思ってなぁい?」


「……」


「思ってるんだ」


「……はぃ」


「それ勘違いだから。確かに大和の事は好きだけど、恋とかじゃないのよね~」


「そうなのか?」


「ええ、そうよ」


「私と大和は魔女と魔導士の関係。それ以上でもそれ以下でもない。だから――隼人ちゃんが大和と沢山エッチしても大・丈・夫」


「たっ、沢山って、そんな――」


「魔女の私たちが恥ずかしがる事じゃないと思うけど。まあ、魔導社会に馴染みが無い隼人ちゃんには難しいのかしら」


「うぅ~~」俺は今、赤面しているんだろう。


そんな俺を見ながらニヤニヤと微笑む彼女は何だか楽しそうで、安喜が大和に恋しているかも? という悩みは解消されていた。


【区切り】


魔導印を用いた変身の特訓を始めた翌日、泉に水を汲みに行った時。


巨大な狼と遭遇した。


人の身長を超えるそれは動物ではない。


恐らく――魔獣だ。


逃げないと――そう思って走り出したが背中から押し倒された俺は地面に激突した。


地面と足に挟まれる強い痛みを感じながら消えかける意識の中、必死に助けを求め、四人の名前を叫んだ。


…………。


目覚めた俺は石に囲まれた薄暗い部屋の中で手や足を鎖に繋がれていた。


何とか外せないか、身体を動かしたが容易には外せなかった。


魔導印を上手く使えれば、外せるかもしれない――そう考えて「魔力解放」を行った。


それは成功してが、問題は次だ。


すぅーはぁーと深呼吸した後、息を止め集中し、「変身」を試みたが望む形に形成しない。


俺の身体へ不格好に絡まる魔は身体を締め付ける。


誘拐犯に知られない様に耐えきれず漏れた「いっ」を我慢する為に口を必死に閉じた。


締め上げる痛みから解放される為に「へんしん――かい――じょ」と声に出し、変身を注視させた。


乱れた心が魔を刺激しない様に「魔力収束」と言い魔を瓶に戻した。


具現化した魔が暴れまわった時に発せられた音を聞きつけたのか、足音が聞こえた。


徐々に音は大きくなり、扉の前で止まった。


鍵を入れ、回す音が聞こえ、開かれた扉の先に立っていた者は見覚えのある男だった。


それは俺の――隼人の弟、宗太そうただった。


なんで宗太がここに居るんだ?


「久しぶり――兄さん」


宗太の口から、宗太の声で告げられた、その言葉は間違っている。


「お前は誰だ」


そう言った俺は宗太? から「なんで分かったの?」質問された。


「宗太は俺をお兄ちゃんと呼んでいた」そう答えた。


「そっかー。それは知らなかった」


宗太の声で、宗太の身体で、誰かはそう言った。


「お前は何者だ、何で宗太の姿をしている」耐え難い感情は膨れ上がる。


「君が愛する弟と再会させてあげたかったんだ。僕は優しいからね」


優しい?


俺の前に、宗太の姿で現れたお前が?


確かに、俺は宗太に会いたい。


魔法学園へ通う為に実家を離れていた宗太と魔法秩序が崩壊して以降、会っていない。


無事か知りたい、声を聴きたい、元気な姿を見たい。


そう思っていた。


だが「俺が会いたいのは宗太だ、お前じゃない」


「君は勘違いをしている様だね」


「勘違い――だと」俺はそんな事していない。


それとも、俺と咲夜の魂が入れ替わった様に、宗太も誰かと入れ替わったのか?


その考察を指したのか「君の様に、魂が入れ替わった訳じゃないよ」と言われた。


こいつは俺が隼人だと知っている。


そんな事に今更、気付いた俺は相当、余裕が無いらしい。


それでも、負けられない。


俺の気持ちを知りながら、宗太の姿で俺の前に現れたこいつに。


負けたくない。


「ならお前は何なんだ?」


宗太の身体を指しながら「これはね、本物の宗太君だよ」そう答えた。


本物――どういう事だ?


宗太にそっくりだが、内面は別人だ。


俺を兄さんと呼んだ事から、宗太の口癖も詳しくは無いんだろう。


それなのにこいつが本物の宗太――だと?


何も言わず悩む俺に耐え兼ねたのか「ヒント、これは宗太君だよ」と言いながら、あいつは自身を指した手を動かした。


まるで、が宗太だと言わんばかりに……。


「まさか――その身体は宗太なのか……?」


それは間違いだ――そう否定して欲しかったのに「だいせいかーい」と明るい声質で言われた。


「本当――なのか……」


「そうだよ」


それは絶望的な肯定だ。


「なんで、そんな事に……」


「それはこういう事だよ」と言った後、宗太の身体はドロッとした緑色の液体に変わった。


その液体から現れたのは人骨だ。


まさか、こいつは、粘液魔すらいむか。


そうだとしたら、宗太はもう、死んだのか。


宗太と思われる人骨にまとわりついた粘液魔は宗太の形を成した。


それは生きている姿と似通っている。


見間違える程に。


否、再現しているんだから、表面的には同じ、何だろう。


浮かんだ疑問がある。


それは「なんで宗太の姿で俺の前に現れた」か、だ。


「それはこうする為だ」そう言って俺に覆いかぶさった粘液魔は俺の服を脱がせ始めた。


「辞めろ」そう叫んだが「そう言われて、誰が、辞めるか、っよ」と言い返された。


手足をバタつかせて抵抗しながら「なんでこんな事を」そう言ったら。


「弟に犯されるなんて、最高のシチュエーションだろぉ」と告げられた。


俺を弄んでいるんだ。


弟の身体を使って。


「ただ、魔獣を産ませるだけじゃ、つまらない。お前たち、人間にとって、愛し合う高尚な行為を、穢し、犯し、低俗のものに変える。それは俺の娯楽だ」


人間を侮辱する娯楽。


その告白。


こいつは悪だ。


生きる為に、守る為に、魔獣を産ませるんじゃない。


兵士を作る為に俺と交尾した三眼狼さぶろうとは違う。


こいつは人間で遊んでいる。


そんな奴に俺は屈するのか……。


力で負けたからと、身体を、心を、弄ばれるのか……。


【区切り】


粘液魔に犯されたから二日後、俺の前に俺の前身が現れた。


「なんでお前がここに?」


その答えを告げず、咲夜は俺と壁を繋ぐ鎖を魔道具――炎魔剣えんまのつるぎで断ち切った。


「何のつもりだ」


そう問いかけたら「献上品は欲しいだけだ」咲夜はそう告げた。


献上品……。


魔女を贈る相手は魔人か、魔導士か……。


魔法秩序を崩壊させた咲夜が魔法士の仲間に成りたいと思ってはいないだろう。


もし、そう思っていても『隼人が魔法を無力化した』という情報が広まっている今、魔導士が隼人の身体で生きる咲夜を受け入れるとは思えない。


だから、咲夜が俺を贈る相手は魔人なんだろう。


でも俺は咲夜の言葉を素直に信じられない。


だから言った「本当に?」と。


俺の手を掴み回廊を走る咲夜に問いかけた。


「なんの話?」


そう聞かれた俺は正面から「俺を献上する気は無いんじゃないかって事」と答えた。


「……なんで、そう思うの?」


「咲夜は魔法を無力化した後、俺たちの下に現れた」


「そうね」


「あの時は三眼狼さぶろうが忠義から俺を助けた訳じゃないって言っていたが、それは間違いだと思う」


「なんで、そう思うの?」


「俺と……あれした三眼狼さぶろうは悲しそうだった。魔獣を産む魔女が欲しいだけなら、そんな表情する理由がない。だから、違う」


「……」


「あの時、咲夜は俺の様子を確認しに来たんじゃないか?」


「なんで?」


「これは俺の願望なのかもしれないが、咲夜は俺を裏切ったけど、裏切り切れていないんだと思う」


「意味わかんないんだけど」


「そうかも。でも、俺はそう思う」


「……」


「俺に害意を抱いていない三眼狼さぶろうが俺を守っている事を確認する為に俺を見に来た咲夜は、三眼狼さぶろうに嫉妬したんじゃないか?」


「なんで私があのおおかみなんかに……」


「俺の一番が三眼狼さぶろうに取られると思ったから」


「違う!」


「……」


「っ、そんな訳ないでしょ。だって私は貴方を裏切ったのよ」


「そうだ。でも裏切り切れなかった。こうして助けに来てくれたのが、その証拠だ」


「それはっ、違うって言ったでしょ」


「違わない」


「ここから逃げた後、三眼狼たちと偶然を装って鉢合わせする気なんじゃないのか?」


「っ」


「俺は咲夜を恨んでいた。それは咲夜を愛していたからだ」


「……」


「でも咲夜が俺を何とも思っていなかった訳じゃなく、俺を愛しているかもしれない。その可能性に気付いた時、俺は――嬉しかったんだ」


「……」


「俺を拒絶した言葉は愛情の裏返しなんじゃないかって、そう思い始めたら、俺は確認したくなった。確かめたくなった。それが真実だって」


「間違いとは思わなかったの」


「その時は、その時だ」


「……」


「……」


「……ほんと、馬鹿で、お人よしなんだから」


「それが取り柄だったからな」


「今は違うの?」


「どうだろう」


その時「ワン」という声が聞こえた。


俺を助けに来たのは咲夜だけでは無かった様だ。


【区切り】


咲夜へ向かって吠える史郎に「あの人は敵じゃない」と言いながら頭を撫でて宥めた俺は「史郎が居るって事は他のみんなもここに居るのか?」と史郎に聞いた。


「ワン」と答えた様子から、来ているんだろう、とは思ったが、別行動していると判断した俺は「案内してくれるか?」と聞いたら「ワン」という返事を貰えた。


走り出した史郎を追いかけて辿り着いた場所は粘液魔が統治する領域、山川やまかわにある城塞の広場だった。


「なんで皆が竜と戦ってるんだ」口にした俺の疑問に咲夜は「たぶん、隼人を餌に呼び出したんじゃないかな?」と予想してくれた。


「加勢しないと……」そう思ったが魔導印を使いこなせない俺は戦力に成らない。


むしろ足を引っ張るだけだ。


「隼人はここに居て、私が行く」


そう言った咲夜を「危険だ」と止めたが「大丈夫、私にはこれがあるから」


そう言って見せられた物は魔道具――炎魔剣えんまのつるぎだった。


確かに炎魔剣なら、戦力に成り得るが、生身の人間が火を噴く竜と戦って無事でいられるのか? 不安だった。


でも、咲夜は「私は隼人を守りたい。だから戦わせて」


そうお願いされてしまった。


今の俺に出来る事は、咲夜の願いを叶える事ぐらいだ。


だから「分かった」と答えたら「ありがとう」と笑いかけてくれた。


嬉しい気持ちを抱きながらも、行って欲しくない気持ちが俺の心境を複雑にする。


「隼人を任せるわ」と史郎に言って、咲夜は走り出した。


竜へ向かって。


…………。


遠目から見る限り、三眼狼さぶろう大和やまと安喜あきは善戦しているが、一歩届かない様子だった。


それに炎魔剣を持った咲夜が加われば、勝てるかもしれない。


そんな期待を抱きながらも不安材料がある。


それは、三眼狼さぶろうが咲夜に噛みつかないか、だ。


三眼狼さぶろうが俺に忠義を抱いているとしたら、俺を裏切った咲夜と共闘する事を拒むかもしれない。


だから俺は――「史郎!」と叫び、「ワン」と答えた声を聞いた後、走り出した。


思い違いで勝機を逃したくはない。


案の定、竜と戦いながら口論している二人へ聞こえる様に「喧嘩するなー!」と叫んだ。


その叫びが聞こえたのか三眼狼さぶろうに「なぜここに!?」と驚かれた。


咲夜からは「待ってって言ったのに!」と怒られたが。


「竜を倒すのが先! 喧嘩は後でして!」と二人の目的を再認識させた。


乱入した咲夜と三眼狼さぶろうの口喧嘩が始まって状況が理解できず困っていた大和と安喜は喧嘩が中止された後「注意を引く」と告げて竜へ向かった。


「私が決めるから、隼人を守ってなさい」という咲夜に「お前こそ」と言い返した三眼狼さぶろうは競い合う様に竜へ向かい走り出した。


竜の攻撃に当たらない様に瓦礫などの物陰に隠れながら様子を見守っていたら、三眼狼さぶろうと咲夜の攻撃が同時に当たって竜の身体は粘液魔すらいむに成った。


粘液魔はサラサラと流れ落ちて動かなくなった。


竜の正体は粘液魔だった。


広場には希少な竜の骨(全身)と粘液魔の死体? な液体が残った。


咲夜、三眼狼さぶろう、大和、安喜、史郎、みんな生き残れた――。


んだけど……、三眼狼さぶろうが「見たか隼人、俺が止めを刺したぞ!」と言ったせいで「止めを刺したのは私でしょ」と咲夜が訂正を求めだした。


「俺だ!」


「私!」


と平行線な二人に「そんなの、どっちでも――」と言ったら声を揃えて「良くない!」と言われた。


「真似しないで!」


「お前こそ、俺の真似をするな!」と口喧嘩が再開され、間に挟まれた俺は個人的にはどうでも良い勝負の審判を任されてしまった。


「二人で倒した――って事で」と言ったら――。


「それは駄目」「それは駄目だ」


と二人から即答されてしまった。


助けを求めて大和や安喜を見たが『微笑ましい光景』と言わんばかりに少し離れた位置から見守られ続けた。


何とか「決着は次にお預け」で引き分けを受け入れさせられたが、これからどうなるんだろう。


少なくとも、今までより楽しくなる。


今ぐらいは、そんな、楽観的な期待を抱いても良いだろう――と思いたい。


【つづく?】

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