第14話 供述

 ホッパーから聞いた話―。


 ジミー・マイルズの娘ハンナ・マイルズは彼曰く血が少ない病に侵されているという。ただこれには異論があり、娘の年齢が13歳だということ、そろそろ初潮を迎えるべき年頃なのを考えれば、それは月経による貧血傾向だろうと察する。だが、残念なことに、それを知るマイルズ夫人が一昨年亡くなったため、男親での対応が難しかったようだ。

 だが、眼科医と言えども医者である以上、婦人のこういった月決めを知らないはずはないのだが、彼の中で娘はまだまだ幼く、そういう兆候をまだ示すべきではない。といった思いが、その判断を誤らせたと思われる。

 ジミー・マイルズは娘の治療のために、まずは、鳥などの血を購入し与えたが、一向に良好の気配が見られず、それどころが、不味いと言い口にしなくなったという。

 そこで考えたのが、獣だから不味いのだと。同じ人間であればいいのではないかと考えた。しかし、彼は自分の血を分けることはしなかった。なぜ自らの血を分けようと思わなかった理由として、自分が死ぬことになっては娘の将来に不安が残る。と言ったが、自己犠牲をしてまで分け与える気などないように感じられた。

 娼婦を町で買い、全ての血を余すことなく搾り取ることにした。最初は切断を用いたが、肉片や、切断に時間がかかり、血がだんだんと臭くなっていったため、管を使い抜き取ることにした。だが、管は時間がかかりすぎる。

 どうしたものかと思案していたころに、スタン伯爵と出会った。

 と同時期に、医学新書ホスピタルノートに、血液は臓器をめぐる。そして貯蔵して必要な分だけを使う。と書かれていた。これは管を用いるよりも素早く血液を手に居られれると考えた。

 娼婦を買い、腹をさばいた。心臓に血が多いだろうと思った。殺してすぐの心臓は新鮮だったが、娘はそれを食べることを拒否した。どうしても臭いというのだ。 娼婦がだめなのだろうか? と思っていた時、新しい医学新書ホスピタルノートに、血液型が発見されたことを知った。輸血に使う血液は同じ血液型でなければだめなのだということも書いてあった。

 つまり娘が臭くて食べれないのは、血液型が違うからだと気づいた。

 そのころ、スタン伯爵から指輪をもらった。奇妙な指輪だった。台座には、赤い石だが、緑やら、青やら、黄色やらの混ざりものがある石が乗っていた。スタン伯爵は、

「これは血を判別できる石なんですよ。この台座には針が仕込んでありますね? これでちょいと刺し、この石に血が付いた時、石が反応を示せばいいんです。

 あぁ、これはまだまっさらな石ですからね。まずは調べたい血をここにたっぷりと染み込ませなければいけません。石が浸かるほどです。それから、石を乾かし、そして、被験者を探すんです。

 血液型が合えば石は反応します。だが、違えば、石は全く反応しません」

 ジミーは娘の血を取ろうとするが、ただでさえ血の少ない娘から血を取るのは不憫だと、親子なのだから同じ血液型であろうと、自分の血を含ませた。

 そしてスタン伯爵が開く夜会で、手あたり次第血を失敬し、石が反応したの女を殺害した。だが、娘はやはり食べない。調理方法なのだろうかとあれこれ苦心した。バターでいためたりした。だが、どうしても食べない。だから、ジミーは味見をした。うまくできたものを娘に食べさせるために。

 そのうち、新しい医学新書ホスピタルノートに、肝臓に血液貯蔵が多くみられると発表され、肝臓を選んでとった。そしていろんな調理法を試しては味見をし続けた。

 だが一向にうまいものが出来ず、そしてあの日―逮捕された日―いよいよ娘が初潮を迎えた。だが、ジミーの思考回路はそれではないと解釈し、娘はとうとう

出血を伴い始め死を迎えるのだ。と思ったジミーは、肝臓を取り除くために監禁していたフロラの血液をとにかく注射器で採った。採った量は少量であったが、フロラにしては初めてのことに気を失ってしまったようだ。

 娘のために殺した娼婦の数はすべて合っていた。

 夜会の運営はスタン伯爵が全て行っていたので全く解らないが、とにかく人が多く集まってきた。セブンズ村に、以前氷で大もうけした商人が居て、そこの氷室がそのままあることに気づいたので、ぜひそこに保管したいと言ったのはジミーの方だった。だが、同じ村で続けて行うと警察が来て面倒だからと移動させられたが、なるほどと従った。

 以前管で体液を抜いた遺体もそこに隠していたが、邪魔になったので近くの川に捨てた。まさか流れて央都に流れ着くとは思わなかった。

 街で女―キディー―を殺したのは、あの女はジミーを覚えていて、あとをつけてきて「人に怪我させといて、一緒に警察に行こう」と言われたからだ。キディーは勇敢にも愚かに殺人鬼と接触してしまったのだ。

 女の首を切った後、スタン伯爵と別れた。スタン伯爵は生きていて、屋敷のほうに上がって行ったのを見たという。だが、証人はいない。

 娘の方だが、やはり、年頃による貧血で、適当な食事で治るだろうということだ。ただ、今は食事を摂らせてもらっていなかったせいで痩せているが、すぐに標準的になるだろうという話だ。父親が怪しいものに憑りつかれて、変なものを運んでくるが、どうしても食べる気がせず拒否すると、父親は食事を与えてくれなくなった。だから夜や、父親が居ないときに少量の食べ物で食いつないでいたという。

 ジミーが証言した、娘が食べない。ということは一度きりで、あとはすべてジミー自身が食していたようだ。

 ジミーは刑に服するまで、中央管理刑務所に収監される。ことの重大さを鑑みても、死刑に相当するだろうと思われる。

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