第3話 連続殺人事件
グレート・シティー警察―央都中央シティーの中にある警察庁―捜査一課。殺人、凶悪犯罪などを主として取り締まる部署の、警部席に、ホッパー警部は座って、憮然とした顔でタバコをくゆらせていた。
この前の晩、ようやく貴族の夜会の情報を得て、翌朝早々に出向いたのに、そこで行われていた形跡が全くない廃墟だった。その晩、木の上で特ダネを狙っていたライト記者に聞いたが、たしかに屋敷があって、貴族が百人近く出入りしたという。だが、濃霧が出てきて、やっと晴れたら、屋敷はおろか貴族たちすらいた形跡が無くなっているのだ。
一晩で廃墟となるような細工は見られない―張りぼての館かと最初は思ったが、そうでもなさそうだし、火事が起こったわけでもない。そもそも、地面はほれないほど固く、散らばっている建物の残骸は風化していてもろい。
ライトに話を聞くが、顔見知りだったり、知り合いの貴族が居ないので、話を聞きに行けない。取材が出来ないと嘆いている。
麻薬取り締まり強化となって日が浅く、今までは病院で手に入っていた薬なだけに、いまだなお麻薬パーティーを行う貴族が居てもおかしくない。だからこそ、今の内から取り締まらなければならない。という話だが、一晩のうちに何もなくなってしまっては、その痕跡を探すこともできないのだ。
そのうえで、貴族たちは、密かな楽しみを庶民の警察が奪おうとしていると、かたくなに招待状の存在を隠す。厄介な事件だ。
そこへ、引いたばかりの電話がけたたましくなった。真夜中に鳴るこの音に、何度心臓が握りつぶされそうになることか。
「はい、こちら捜査一課」
交換手の冷静な声の後、興奮して、何を言っているのか解らない部下を叱りつけ、落ち着かせ、「何があった?」と聞くと、
「出ました。連続娼婦殺人です」
ヒヤリとしたものが背中を走った。
去年の夏ごろから、娼婦が何者かに殺された。その残忍な手口に、女子供の夜間外出が減ったのだが、初冬に起きた、タイラー氏の事件―エレノアの姉の殺人事件―の一件以来ぱたりと止んでいたのだ。
宋国の冬は霧が深く、人々はあまりで歩かなくなる。だから事件が起こらなかったのか、他の理由があるのか解らないが、とにかく、奴が動き出したということらしい。
現場は
「近所の犬が、大勢、寄ってたかって吠えるんで見てみたら発見したそうです」
引き上げられていた女の死体は腹を切り開かれていた。魚や、何かに散々ついばまれたらしく、いろんなところが欠陥していた。
「死後、どのくらいだ?」
「……、状態が悪いので、何とも……ですが、屍蝋が出てきているので、長い間水の中に居たのだろうと考えられます」
「では、死亡推定もできなければ、身元も無理か?」
その場にいた全員が、頭がついてあったであろう場所を見る。
「切断面は強力な力が加わってもがれたような跡が見られますので、川の中で取れたのでしょう」
全員が、広い川を見た。この川底をさらって、頭一個見つかるとは到底思えなかった。
「できる限りでいい、情報を得るように解剖を頼む」解剖医は頷いて死体とともに帰っていった。
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