第6話
そろそろ帰ったらどう?奥さんが待ってるわよ。
何よその顔。帰りたくないってさぁ、お子さんのこと気にならないの?お子さんはもう寝てるかもしれないけど、奥さんはあんたに話したいこといろいろあるはずよ。だから早く帰ってあげなさいな。
早く帰っても仕方ない、話を聞いても分からないだって?まだ話を聞いてもいないのに何言ってんだか。
・・・そうなの?あら、なんで今まで黙ってたのよ。別に笑ったりなんてしないのに。でもあなたが元いじめられっ子だろうが何だろうが、親として子を守る義務はあるわけじゃない。いきなり学校やいじめっ子の家に乗り込んで話をつけに行けなんて言ってないのよ。まずは学校でのアレコレをお子さんから聞いて、奥さんと一緒にこれからのことを話し合った方がいいって言ってるの。
昔を振り返ることが怖いってさぁ・・・あんたはもう大人じゃない。そりゃ自分の過去を思い出して辛くなることもあるかもしれないけど、我が子が苦しんでいるのをただ見ているだけで済ますつもりなの?それはどうよ?
子どもにどう話していいかわからないなら、奥さんの意見も聞いて二人で考えればいいじゃない。あんた一人だけが背負うことじゃないんだからさ。
そんな顔しないでよ。子どもには親しかいないんだから。親から匙投げられるなんて、子どもからしたら死刑宣告を受けるのと同じくらいの絶望と苦しみよ。それでもいいの?我が子が地獄の苦しみを背負うことになっても・・・。
今のあんたはもう、いじめられっ子の子どもではないでしょ。子を持つ親なんだから、一人の大人としてこの悩みに向き合いなさいな。きっとはっきりとした解決策なんて見つからないと思うわ。でもそれでもいいのよ。今はお子さんの気持ちや状況を知って、親は子どもの味方であるということを伝えて、いざという時のための逃げ道を用意してあげることが大事なの。
きっといじめを受けたことのない大人より、受けたことのある大人の方が人の気持ちには敏感になれるはず。辛い過去を持っているあんただからこそ、子どもに伝えられるものがあると思うのよ。
いじめを受けている時にどうしてほしかったか、どんな言葉をかけてほしかったか、過去の自分を思い出しながらお子さんに向き合いなさいよ。きっと子ども時代のあんたがあんたのことを助けてくれるわ。いじめられていた可哀想な自分が我が子を助けるヒントをくれるのよ。すごいことじゃない。これでもう昔のあんたは可哀想な子なんかじゃなくなるわ。我が子と同じ、愛しい存在になるかもね。
ほら、さっさと会計して帰りなさいよ。奥さんと一緒に悩むことに疲れたらまたいらっしゃい。今のあんたも昔のあんたも、まとめて受け止めて話聞いてあげるからさ。
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