第1話 機械天使降臨
「現在地の座標データを確認……データ取得不能。緊急事態発生」
冷静に状況を整理していく。
「緊急マニュアル参照。第一目的を情報の収集に変更。近隣に人間の生命反応探知」
そう言うと、彼女は後背部にスラスターを出し翼のように広げた。
「
そしてスラスターからエネルギーを放射して空へと飛び上がった。
レヴェナンスXIIIが生命反応をキャッチした頃、その生命反応は風前の灯であった。
「うそでしょ……グリズリーが3体もいるなんて……」
金髪をツインテールにした少女は、親から貰った杖を両手で握りしめながら震えていた。彼女の前には熊の姿をした魔物が3体、よだれを垂らしながら低く唸り声を上げている。
「初心者でも大丈夫ってギルド長言ったのに……」
少女の頭の中には、無精ひげを生やした男の顔が憎たらしく浮かんだ。
『はは、ごめ~ん。どーんまい!』
たぶん問い詰めても親指を立てて、そう言うであろう。どの道、今となってはどうしようもない。少女は己の運命を呪った。
「お願い神様! 私を助けて……」
本来なら踏ん張るか、逃げるか、しなければならない状況で彼女は天を仰いだ。神など居るはずもない、と心の中では思いながらも。
しかし、彼女の祈りは奇跡的に天に届いた。
(なにあれ? 天使?)
少女は空に天使を見た。レヴェナンスXIIIの姿を。
「該当する生命反応を発見。保護実施」
レヴェナンスXIIIは少女を発見すると速やかに地上に降り立ち、少女と魔物の間に割って入った。少女が目をパチクリさせる一方、魔物は突然の乱入者にいら立ちが隠せない。レヴェナンスXIIIに対し敵意をむき出しにする。
「対象から規定以上のアドレナリン及び敵意を確認。迎撃モードに移行します」
レヴェナンスXIIIは両手前腕部から銃口を出し、魔物に向かって腕を向ける。そして、2,3発、魔物の足元に向けて警告射撃を行った。
「ひゃあ! 腕から何か出た! 魔法? あれも魔法?」
少女はレヴェナンスXIIIの後方で一人騒いでいる。もちろん科学など知るはずもないので、魔法で理解しようとする。無理もない。
「それ以上近づけば排除します」
レヴェナンスXIIIは警告を試みるが、魔物に通じるはずもない。魔物は雄たけびを上げながら、一気に間合いを詰めてくる。
「言語データ参照。『ハチの巣にしてやるぜ!』……
レヴェナンスXIIIの腕から青白いエネルギー弾が発射される。その弾は次々と魔物の体に命中し、文字通りハチの巣に変えていく。
およそ30秒で3体の魔物は細切れになり、辺りは血の海と化した。
「対象の生命反応消失。
レヴェナンスXIIIは前腕部の銃口を収納すると、少女に向き直った。
「ケガはありませんか?」
「え、ええ……」
まだ状況が飲み込めていないのか、どこかぎこちない。
少女は一度深呼吸をしてからお礼を述べた。
「私の名前はソフィア。あなたのお陰で助かったわ」
「私はレヴェナンスXIII。Ms.ソフィア、お礼は早計と判断」
「えっ?」
ソフィアがレヴェナンスXIIIの後方を見ると、恐ろしい光景が目に飛び込んできた。大量のグリズリーの群れである。それも10や20ではない。
「きゃあああああああ!! 何あれーーー!!」
「我々に敵意があると推測。殲滅を提案します」
「ムリムリムリ、絶対ムリ! 逃げましょうよ!」
「完璧な私なら可能と判断」
「いや、あなたでもアレは無理だって! 逃げた方がいいって!」
「言語データ参照。『余計なお世話だ、この野郎!』」
「口悪っ!? この子、口悪いわ!?」
「……女性に野郎は不適切と判断。訂正します」
「いや、そこだけ訂正されても……って、それどころじゃないでしょ!?」
二人が問答しているうちに魔物の大群は結構な距離まで近づいていた。後30秒もすれば目の前に来てしまうだろう。
「緊急マニュアル32項に抵触。ナノクラッシャーの使用制限解除」
「ちょっと!?」
「アルテマイトエネルギー充填。ナノクラッシャー発射10秒前」
レヴェナンスXIIIは魔物の大群に向き直るとエネルギーを充填させ始めた。額に青白い光が集まっていく。
「対閃光、対ショック防御完了。ナノクラッシャー発射5秒前……Ms.ソフィア、目をつぶることを推奨します」
「ひっ!?」
それを聞いたソフィアは目をつぶるどころか、体ごと地面に伏せた。
「発射3秒前……2……1……ナノクラッシャー発射」
レヴェナンスXIIIの額に集まったエネルギーが収束した後、極太のエネルギー砲となって一気に放出される。エネルギー砲は地面を
一瞬である。
一瞬で魔物の群れは蒸発し、エネルギー砲の通った空間には何も残っていなかった。
「対象の消滅を確認。冷却システム作動」
レヴェナンスXIIIはそう言いながら、体から水蒸気を放つ。
顔を上げたソフィアは言葉が出ない。
「言語データ参照。『おとといきやがれ!』……理解不能。時空転移は不可能と判断」
「いや……理解不能なのは……あなたよ……」
ようやく出たソフィアの声がそれだった。
機械天使の異世界旅行 熱物鍋敷 @yanbow
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