第49話ブルーの猫

惑星チーズの青い空。濃いブルー色はどこまでも透き通る。

工場出荷カラー、白い塗装の五式戦が2機交錯して飛翔する。

搭乗者は2番機のケイトと4番機のヤン。生命体の宇宙人。

微弱なノイズ音を奏で飛んでいた角ばった機体が消える。

2機とも同時に消えた。

初期装備の透明迷彩とレーダーステルス展開。

低空にラージシップ・ラインハルトが居る。

今のラインハルトの船体色は白色。

トリン艦長のその日の気分でカラーを変えている。

派手なプリントやデザイン画も瞬時に出来る。


高高度に展開するドローン機群をマニュアルレーザ射撃する。

プログラム自立飛行の無人訓練用飛行機が次々撃墜される。

一瞬、機動を急変更した五式戦が見えたがすぐに消えた。

クリアブルーのレーザー光線だけが空間を走る。

多弾道ミサイルポッドは使用されていない。


宇宙戦闘機コンバットフライは五型から設計思想が変更された。

重力下飛行を可能とし、管理エーアイのスキルアップに伴い。

操縦経験のない搭乗者でもいきなり実戦が可能となった。

最新装備のGキャンセラーは、これまで不可能だった航空機動を実現した。人間がG、重力の苦痛から開放されたのだ。

あり得なかった信じられない飛行ができる。

いきなり空中停止や真上や真下、好きな所へ移動できる。

これは宇宙人の娘、ケイトにはありがたい機能。

得意げに新人の男、ヤンに自慢する。


「いい?ヤン。ケイトちゃんがこの機体の特性を教えちゃう」

「この子供ノートに手書きで書き込んあるから読んでね」


「うわ・・・ケー、これ字が下手くそで読めないよ」

「しかもこれ何語?」


船内レストランで2人で昼御飯を食べながら会話。

ケイトは好物のオムライス、ヤンは味噌田楽(みそでんがく)


「ちょっとヤン、あなた男なんだからもっと食べなきゃ」


「良いんだよケー」

「僕は殆ど生身の体じゃないから、栄養は要らないの」

「義体パーツのメンテナンスはするけどね」


口の周りをケチャップで真っ赤にしながら食べるケイト。


くちゃくちゃくちゃ・・・

もぐもぐもぐ


「あー!あたしのイチゴ牛乳飲んだわねえ!?」


「いちいちウルサイなあ、僕もイチゴ牛乳飲みたかったの!」


2人が座る白い窓際テーブル席の遥か後方のカウンター席。

トリン艦長がケイトの顔を見ている。


うひひひ・・・

ケイトちゃんもまだまだお子ちゃまなのね。

まあ、あの娘らしいけどね。


ちゅうちゅう・・・


透明ボトルのトマトジュースを飲みながらニヤつくトリン。


「はっ!そうだPちゃん」


Pちゃんに戦闘要員に成って貰うようにお願いしなきゃ。

あの子、戦争は嫌いって言うけど。

自分が擬人だって判ってるのかしら?


Pちゃんの自室前に来た。

オートトラックドアでは風圧で飛んじゃうから、名札の上に。

でっかい紙の張り紙が「Pちゃんの!」と殴り書きしてある。


「Pちゃん、トリンです」


「なに、いま忙しいのよトリンちゃん」

「トリンちゃんのブロマイド買ったからね?」


「はあ?」


バシュ


「Pちゃん何してるの?」


トリンは最近は市販品の軍服を着ているけど。

長袖長ズボンの男が着るようなの。モスグリーン色。

Pちゃんは女の子ルック、て言うか清純派のロリータコスね。

この方は私よりも旧型なんだから更にすごいわ。


「知らないの?」

「星間ネットよ!電子ゲームしてんのだあ」

「お友達がいっぱい出来たわよ、全部オトコだけど」


「はあ」


「今のPCって何コレって感じ、Pちゃんメロメロ~!」


「は、はあ」


「今のマイ・キワブームはね?」

「会ったことも無いお友達とナマ会話よ、ナマよナマ!」

「でも画像と音声が全部加工されてて」

「ダレこいつ?・・・ッて感じなのよ~!!」

「うへへへ!」


「は、はあ」


「ちょっと待っててね、電力ダウンするから」


ブン


「スゴ速!Pちゃん生きててよかったあ!」


「ぴ、Pちゃん。そんなことよりも」


「ちょっと待っててね、いまワン公を叩き起こすから]


ベシッべし!!


・・・・・


「あれ?・・・三回だっけか?」


べしべしっべし!


ブウン・・・


「Pさま、乱暴は辞めて欲しいワン!」「わんわん!」


「ワンちゃん、なんか飲み物かっぱらってきてね」


「わんわんわん!」


バシュ


「ぴ、Pちゃん。艦長命令ですが・・・」

「戦闘配置について・・・」


「ああ、判ってるわよトリンちゃん」

「私に合う宇宙戦闘服がないのよ!この宇宙遊覧船には」


「え、そ~なの?」


「あなた見て気がつかない?」

「Pちゃんはケイト殿よりも子供サイズなのよ?」


「は、申し訳ありません!」

「大至急、管理ベースに備品を手配します」


バシュ


カツカツカツ・・・


「・・・・・」

「う~ん・・・Pちゃんて手ごわい方だわ」

「トリンは550年間寝てたけど」

「Pちゃんって1000年くらい生きてんのかしら?」

「いや、800年くらいかな」



ラインハルト戦闘ブリッジ内。

戦闘ブリッジは船外からは見えない。

安全のため頑丈に保護されている。外の景色は全てカメラ画像。

投影モニタの幾つも透明画像パネルが空間に飛び出して来る。

全方位モニターにはしない。ブリッジには必要が無いからだ。

管理エーアイが操舵系や船体制御、通信等を全オート化する。

クリア透明色の浮いた床に穴が開いて、そこに各座席がある。

透明なイルミネーションはクリアブルー。


中央の艦長席でトリンは落ち着かない。

右の副長席のステンレスがひたすらキーを弾いて演算している。


「ステンレスちゃん、自分の脳回路でヤった方が早くない?」


「いいんですよ艦長、コレがあたくしの生きがいですから」


「最近シャムロッドを見ないわね?」


「ブルーさんは遠征していますわ」


「何それ聞いてないわよ?」

「ブルーって、シャムロッド・ブルーベリーの事よね」


「ええ、ケチャップマンさんが」

「ブルー大尉って連呼しているので皆そう呼んでますわ」

「ブルーさんもまんざらじゃないようですよ?」

「遠征の件は、1番機の代わりの機体を改造する為です」


「何よそれ、艦長の許可無しにそんなコトする訳?」

「トリンの立場丸つぶれじゃん」


「艦長、ブルーさんの気持ちはかなりブルーですよ?」


「は、ははは」「ギャグなの?」

「シャムロッドはベテラン・パイロットだからねえ・・・」


『Gキャンセラーは邪魔だからはずして来る』

「そう言って製造工場まで一人で飛んで行きましたわ」

「あの最新装備は、戦闘時に判断を鈍らせるんだそうです」

「やっぱり古参兵には耐えられないみたいですね」

「伝説の撃墜王ですからね」


「まあ、シャム猫らしいわね」

「あの娘って苦労家なのよね、本当は・・・」




ミサキ重工の工場敷地内。周りは大規模工場だらけ。

5式戦の製造会社で、業務中の製造工程ラインを見ながら。

シャムロッドが隣の社員に怒鳴る。


「あんたの会社はまるでわかっちゃいないのヨ!」


「ええ?もっと大きな声じゃなきゃ聞こえませんよ!」


「ちょっとあの工作機械ウルサイから止めなさい!」


「出来ません、ミス・ブルー!」


「製造現場なんか見てもあたしじゃ判んないわよ!」

「静かなとこ連れてってよ!」


どっかの休憩ルームで缶ジュースを出されるあたし。

髪の毛が静電気で放電して逆だってるわ。

あたしの髪は金髪のツインテール。

何十年も前からマンネリのヘアスタイル。百年経ったな。

ボディがロリータの幼児体型だから。

一度ボディの設計会社に文句を言いに行ったわ。


「あたしは豊満な肉体が欲しいのよ!」

「なんで永遠に幼児体型なわけ?」


「落ち着いて下さい、ミス・シャム猫」

「擬人のボディは人間みたいに成長は出来ません」

「おそらく何百年かは無理でしょう」


「・・・ぶう」

「ならあたしのボディの図面を全部頂戴、コピーでいいから」


帰りの民間大型航空便機内で、あたしはメソメソ泣いて居た。

擬人の自分の運命が嫌いだった。

人間に産まれたかった。

だから軍隊に入って人殺しでカネを稼いだんだわ。

窓際席の機窓から見える大空は、


「青い・・・空は青いのね」

「海と空は青いんだ・・・」


「・・・あたしの心は青いんだろうか?」




キィィィィ・・・・


「あんた達、こんな最新のものをあたしにくれるの!?」


「はい、ミス・ブルーがうちの機体の宣伝に成ってますから!」


「じゃあ広告料払いなさいよ!」


「この装備いくらすると思ってるんですか!?」


「あっははは!」


あたしは宇宙戦闘服を着てコックピットに入る。

ヘルメットをかぶる前に担当の社員に挨拶をする。


「良いですか?」

「戦闘データを報告して下さい」

「Gキャンセラーを使わないあなたの旧式の航空機動で」

「現代航空機動に勝てる戦術のデータを取ります」

「それを次の新型機体に活かす為にフィードバックします」


「6式戦は?」「あたし見たわよ試作機を」


「ああ、あれはもう実戦に配備されます」

「乗りたいですか?」


「ぶっ!」

「何考えてんの?あんた達は」


キィィィィ・・・


「マスター・ブルー」

「垂直離陸しますから、周囲の方の避難勧告を」


「ええ、ごめんなさいオリヒメさん」

「離陸するから下がって!」


あたしはヘルメットをかぶりながら装甲ハッチを閉める。

この機体、5番機の戦闘エーアイはオリヒメさん。

真面目な女の子ね。


微弱なノイズ音を出しながら上空へ飛翔してゆく5番機。


前にあたしの1番機が撃墜されたから。

今はこの機体が1番機なんだけど。

あたしはこの機は5番機にしてよとおねーさまにお願いしたの。


「1番機はタケル君だけよ」

「そうよね、オリヒメさん」


「マスター・ブルー」

「何の事でしょうか?」


「うん、何でも無いのよ」




5式戦コックピット内の視界は全て画像による全方位投影画像。

透明キャノピーの被弾率を避ける為、キャノピーを廃止して厚い装甲で搭乗者を守る。

真下や真後ろの外の映像が見える為、あらゆる画像加工処理が瞬時に切り替わる。

映像にノイズが絶えず発生しているのは安心感を与える為。

色を白黒にする時もある。光に長時間さらされるのは目視能力を鈍らせる原因に成る。



「Gを味わうわよ?オリヒメちゃん」


「はい、操縦系その他をマニュアルに移行します」


ビィビィ・・・


キュゥゥゥ


ブワッ!ドッスーーン!!


ビリビリビリ・・・


「くうぅ・・・」

「これよこれ、飛行機ってこうでなくっちゃ!」

「さすがに操舵に抵抗がかかりすぎてて、イケてるわ」

「重力バンザイよね、オリヒメちゃん!」


「マスター、それはギャグですか?」


「きゃっははは」



あたしはブルー。


あたしが居る空は青いわ、いつまでも。

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