第48話フェアリィ・ランゲージ・上編

「私は死ぬことはありませんっ!」

「あなたより1日でも永く生きて、あなたを守りぬきます!」

「私の、ミサキの意志ですから!!」

「ツトムさん、ミサキの後ろに居て下さい!」


チュンチュチュンッ・・・


暗闇の中、無数のクリアレッドのレーザー帯の光線が飛び交う。

高出力の大口径レーザー砲塔に攻撃される中。

夜の市街戦でミサキと名乗る少女の絶叫が悲鳴の様に続いている。外壁のコンクリートブロックが粉々に破壊され続ける。

女の子の姿をした擬人LPがレーザーライフルを射撃しながら、

敵勢力を駆逐し続ける。敵の機械化歩兵は擬人LPの頭脳回路には単純な動きに見える。敵は多勢に無勢だ。

壁が崩壊したコンクリ遮蔽物を盾に使い、光銃撃戦をしている。

ミサキと言う擬人の少女は、人間の青年男性をかばいながら、

ライフルレーザー射撃を続ける。

連射した後に必ず「キュウン」と小さなゲイン残留音がする。

予備エネルギパックを取り替えている間は、隣のLPが身を乗り出してライフル射撃をしている。

電子グレネードも、すでに使い果たした。

味方の人間の兵力は、やはりシールド装備も無いから。

次々とレーザーに撃たれて死んでゆく。

擬人の味方LP達は、耐衝撃エネルギーフィールドのお陰で生き残れるのだが。人間を守るため製造されたのが擬人ロボット。

自分達の存在理由が失われてゆくリアルタイムの戦況。

LPシリーズ達は、レーザー帯河の狭間で泣いている様だ。

光線からこぼれ出る粒子の粒が闇の中で少女達の涙を照らす。

自分達がレーザ攻撃を被弾しても気にもとめず射撃している。

ライフル以外に高出力レーザー無反動砲をぶっ放しているLPの娘が居る。


「ミサキさん!」

「あそこに隠れている重戦車を破壊しますから、援護射撃を!」


キュゥゥ・・・


ガウン!!バチバチバチ・・・


大口径無反動レーザー砲が装甲を貫通できなかったが。

重戦車の装甲金属の表面疲弊は出来たようだ。

装甲表面電磁バリアが回復してしまう。


「ダメです!再チャージしますから持ちこたえて下さいっ」


チュチュンチュンッ・・・


ズドン!!


「タマさん!!」


大口径レーザー無反動砲を撃っていた擬人少女が、ボディ全部を重戦車レーザ主砲に破壊された。

基本装備の耐衝撃エネルギーフィールドが守りきれなかった。

タマさんと呼ばれる擬人の粉々になった各部パーツが転がる。

肌色の皮膚樹脂は全て焼け焦げて蒸発した。

地面に落ちた武装の無反動砲は損壊して使用不能に成る。


「タマさんが破壊されたわ!」

「今のままではあんな奴らには勝てません!」

「皆さん、逃げますわよ!」

「フラッシュバンを使います、目を伏せてえ!!」


ミサキ以外のリーダー擬人LPが絶叫する。


バンッ


パアア・・・


交戦ゾーン道路上の暗闇が閃光弾の眩い光で白く染まる。

一目散で人間勢力は退却した。

都市・ホワイトワン・シティ。今は都市の機能はない。

生き残った市民と擬人たちが機械に抵抗をしている。

夜の市街は人間の目には目くらましだが。擬人LPや機械部隊には関係はない。暗視レンズとレーダーからは隠れようがない。

生き残った人間は21人。擬人LPは6人。

擬人LPは皆、若い娘の見た目をしている。

彼女たちは皆、トリンと同じLPシリーズの姉妹。

ミサキと言う擬人LPは、トリンが予知した守るべき星の先駆者の青年を。休眠中のトリンに代わり、守りぬいている。

トリンの意志を受け継いで使命を果たそうとする彼女たちは。

この後も何百年もこの惑星チーズを守り続ける。

軍隊が機械化軍団と戦うには、人間は疲れきっているからだ。

トリンが見い出した、愛プログラムに希望を持つ存在は、人外を超えて増え続けている。

擬人は人間以上の感性と知性を持つ。人を守る彼女らの意志は愛プログラムに魅了され、全てを懸けようとする。

何世紀にも渡りLPシリーズは何千体も製造されたが。

人を守るのはLP個人の意志であり擬人の本能、存在理由。

コピーではなく個性を持った彼女らは、皆が魅力的だ。




トリン艦長のラージシップ・ラインハルト私設部隊が活躍する。

ケイトの宇宙病手術成功により、宇宙次元が変換された時代から600年ほど過去の惑星チーズのお話。

まだ国家間の対立の時代。この時代の敵は機械化師団。

師団と言っても、一個師団の規模ではなく、大軍団。

工場で製造を続ける大元を叩くべく擬人たちは連携する。

シスター・トリンが独りで戦い続けた強大な暴力者である、人を殺す機械化軍団は。まだチーズの世界を襲っている。

50年間の孤独な戦いの疲れを癒やす為に、トリンがベース内で人工睡眠に入ってから数年が経過していた。様々な事情により、トリンは500年間目覚めさせて貰えなかった。

休眠中の彼女(トリン)を守る為、多くの姉妹が戦った。



夜明け前の市街地、ホワイトワン・シティ。

無数に建ち並ぶ白いビルディングは殆ど崩壊や半壊をしている。

暗闇の隠れ家に身を潜めている彼女達は、作戦を練っている。


「オトハさん」

「タマさんは機械軍団の司令部の所在地情報を残しています」

「彼女は破壊されるまで危険を自ら買って出るシスターでした」


「ええ、そうですわね。ミサキさん」

「もしも私が破壊された時はあなたがリーダーを努めて下さい」

「あなたには、武運がありますわ」

「あなたの強い意志が運命を呼び込んでいます」


「私も感じます、皆がミサキさんに賛同する筈です」


「はい、私も感じます」


リーダー格の擬人オトハは、戦うよりも生き残る作戦を立てる。

これ以上人間の犠牲者は出せない。

司令部を叩くのは準備と時間が必要だ。


今は遠くの田舎へ逃げる事。味方の居る所へ逃げるのも良い。

脱出ルートを瞬算した。やはり6名中の殆どの擬人が同ルート。

敵の監視が緩い地区を抜ける。機甲部隊の居ないエリア。

幾ら無敵の擬人でも戦車並みの大砲を喰らうのは危険だからだ。


ミサキの見た目は、細身のきゃしゃな少女。質素な外見。

青色の安物作業ツナギが綺麗な顔立ちを神秘的に隠している。

黒髪おさげ頭とソバカスの相性はまるで異次元宇宙の田舎娘。



ホワイト・ワン市街戦から数カ月前の避難施設での場面。


「はじめまして!」

「ツトム・ワンダさん」

「私はミサキ、擬人コード・LP999SSです!」

「ミサキはあなたを守るために全能力を駆使します」


大勢の避難民の中に居る青年に自己紹介する細身の少女は。

この任務の為に、あらゆる訓練と教育を受けた。

ベース施設は、トリンが眠るマザー・テラのではなくて。

他の大陸のベース施設基地。マザー・カインド。

ミサキもトリンの思想に憧れている一人。

おさげ頭ソバカスの質素な見た目の彼女は初対面の青年を守る。男性はトリンが予知した惑星の先駆者であり、自分がこの名誉を与えられることを誇りに想う。

トリンが独りで戦った機械軍団と戦う姉妹は、今では大勢居る。

なぜ擬人が女の子ばかりなのかは、女性が持つ母性に関係がある。

命を守るには、硬さではなく柔らかさが必要だからだ。


「ミサキさん、俺を守る価値がありますか?」


「はえ?」

「ツトムさん、あなたは散々な過去があるのに」

「自分の正体を隠すのも、今はまだ危険だからですよね」


「俺はミサキさんが想うほど良い人ではないかもですよ?」


「きゃっははは!」

「おもしろいですね~・・・さすが私の防衛目標です」


ミサキが着ている安物の青色作業ツナギが、大勢の避難民の中ではしゃいで踊っている。


元気は幸福を呼ぶ明るさ。




中編へ続きます。

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