第45話宇宙公衆電話サービス

ここは宇宙次元。

ファーム星系、第3惑星チーズの衛星バター。

バターには大気がない。住人は地上のベース基地ドーム内で生活している。絶えず星空が見える。

巨大なハッチゲートが並ぶ何箇所か手前。広大なドーム内の外周・大気境界エリア。

公共無重力駐車場に駐機しているスモールシップから宇宙人が出てきた。赤と白色の原始時代からある女学生用セーラー服。

この赤毛の女性は歩いて電話ボックスに入る。


宇宙公衆電話。


この宇宙次元すべてと会話ができる。

もちろん文明生活圏内。



受話器が自動的に耳に張り付いてきた。

右手の手のひらを、専用パネルに当てる。

体内に埋められているマイクロチップが女性の個人情報を伝える。

認識されて、宇宙公衆電話サービスが始まる。


バク


電話マシンの側面に透明モニタと透明キーパット、電子検索帳が飛び出して来る。

女性はキーワード検索を実行。

隣のヤシャ星系の惑星シュールを指定する。


「・・・・・」


赤毛がキューティクルいっぱいでピカピカ光っている。

赤いセーラー服はまだ新品でパリパリ。

満天の星空の下、公衆電話ボックスは輝く。


ぷるぷるぷる


がちゃ


「あ」

「みっちゃん?」

「あなたみっちゃんだよねえ」

「うん」


「ひっさしぶり!」

「あたしだよケイトちゃんよっ!」


「え?」

「何言ってんのあんた?」

「たった50年で親友のこと忘れたの?」

「あたしは本物のケイトちゃんよ!」

「みっちゃんがカンニングして100点取ったのも知ってるよ」

「あたし?」

「20歳よ、文句ある?」


「へ?」


「うん、冷凍冬眠したからよ」

「今は必要なくなったんだけどね、宇宙テクノってそうなのよ」

「いい加減よねえ」

「みっちゃんは何歳になったの?」


「え?」


「マジ?」


「きゃははっはは!」


「うそ!孫が6人もいるの?」

「ひ孫もいるの?」

「みっちゃん、同じ部活のC君にフラれたじゃん」

「ああ、違う男ね」

「カズコは生きてる?」


「へ?」


「あの娘が大学女教授になったの!?」

「マジ?」

「だってあの娘は」

「あたしにノート貸してって泣きついてくるようなアホよ?」


「ひゃははははっ」


「うんうん、面白いねえ?」


「今度3人で同窓会しよ~よ」

「やっと20歳に成ったからお酒飲めるのよあたし!」

「いい男紹介してよ!」


「仕事?」

「うーん・・・」

「宇宙英雄業ね」

「うんうん、あたしが宇宙を変えたのよ」

「マジモードよ?」

「うひゃひゃひゃひゃ!」

「また今度、ヤシャ星系へ行く時に会えるね」

「今は昔と違うのよ?みっちゃん」

「夢が可能な世界なのよ?」

「うんうん、面白いよねえ?」

「もう電子キャッシュ・マネー高いから切るね」

「バイバイ」


がちゃん


「・・・・・」



宇宙公衆電話サービス。


今は常識で、至る所に電話ボックスや電話センターがある。

昔は違った。

宇宙進出時代では、個人が携帯電話端末を持つ時代。

でもそれは本来のコミュニではなかった。

電波だけで会話しても人の心は繋がりはしないし。

宇宙携帯電話会社が、暴利のために宇宙人を縛り付ける。

どの宇宙に居ても特定されて、利便の名のもとに自由を奪う。

過激なテクノ進化は心がついていけなくなる。

何世紀も議論されて、やっと答えが出た。

忘れられた宇宙公衆電話サービスが必要だと。

星間ネットも携帯端末でも出来る。


宇宙人は、便利と楽しさを間違えてはいけないと。

面倒臭いことの大切さを教えるようになった。

今では生命体はすべて宇宙人と定義されてる。

それは、すべての宇宙生命に差別があってはならない。

だからあたしたち人間も、宇宙人と呼ばれている。

動物や虫、植物も宇宙人。

今では全部が当たり前の話だけど。

昔では非常識な人間だと思われた話。



「・・・・・」


あたしは歩いてスモールシップへ帰る。


「おかえり、ケイトちゃん」

「今すぐ出ますか?」


「うん、そうして」

「あたし着替えるから」


「はい」


ボボボボ・・・ブーン


管理エーアイのマチコさんは優しくて助かる。

このスモールシップ・リグレットはトリン艦長から貰ったの。

ラインハルトの中に収納されている機体。


「ケイトちゃんも銀河ジャーナリストに成りたいなら」

「自分のシップくらい必要ですよ?」

「成人祝いにトリンからの親心です」



本当にあたしは宇宙一のラッキーガールね。


「んしょんしょ」


スルスル・・・


ケイト専用ド派手な子ども用宇宙戦闘服に着替える。

まあ、あたしも小さな女だからこれでいいのよね。


「あ~、あたしも男が欲しいなあ・・・」

「どっかで買おうかしら」


コックピットルームに入る。


「ケイトちゃん、トリン艦長が待ってるわよ?」


「どこにいるの?」


「ほら、あそこの宙域で待機してるわ」


「ラインハルトが居るわね」

「うん、トリン艦長殿に伝えて下さい」

「ケチャップマン曹長は帰還しますって」


「はい」



あたしはケイト・ケチャップマン、20歳。

宇宙人よ。

宇宙次元ってなんかステキよね。

ケイトちゃんを受け入れてくれるんだもの。

だって、あたし達は生きてるんだよ?


イカスよねえ・・・




第一部終了しました。

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