第42話ラヴァータイム・ステンレス

母星チーズに帰りましたわ。


シップはマザーべースへ行かず。

あたくしの初恋の男に逢いに行きなさいですって。


「恥ずかしいからいいですわ」


「まあまあ、ステンレスちゃんの気持ちは知ってるから」

「艦長命令だから、行かないと殺すわよ?」


「ノーマット副長にも男が居たんですね?」

「自分にも下さい」


「ケイトちゃん、男は食べ物じゃないのよ?自分で買いなさい」


「おねーさまも言ってることがオカシイわよ?」


「・・・じゃ、あたくし1日休みます」


「ステンレスちゃん?半年でもいいですよ?」


「はあ?」



カタパルトレーン1番、5式戦で行くの。


「事務屋のあんたにも乗れるから1機ブッ壊してもいいわよ」


ですって。


ピロリン


「おはようピョン!マスターステンレス」


「お、お早うございます」


「戦闘エーアイの、ピョン子88だっピョン!」


「よろしく、ピョン子さん」


「どこへ行きたいピョン?」


「初めに、ここの座標へ行ってください」


「ハイだっピョン」


「あ、あら?」

「いつの間にこんな上空に居るのかしら」


「Gキャンセラーのせいだっピョン」


「やっぱりそうか」

「ところであなたの方言は、どこの国ですか?」


「クックックッ」

「面白いコムスメだっピョン」

「あたしはウサギだピョン」

「ナマってはいないのピョン」


「へえ・・・」

「ウサギって何語?」



「目的地の海岸は何年か前の戦争の被害で」

「放射能汚染があると思いますわ」


「待ってピョン、人工衛星を借りるピョン」

「・・・ほら映像出たのピョン」

「ズームするピョ」


「うーん・・・」

「別荘には誰も住んでないし、周りも荒れ果ててるわ」


「立ち入り禁止区域だから、捕まるピョン」


「・・・・・」


「いいわ、次へ行って下さい」


「わかったぴょ」


「あら、真下にラインハルトが居るわ」

「何やってるのかしら?」


「あと10分でつくぴょん」


「は、速いのねえ」

「ちょっと荷物を確認するわ」


ゴソゴソゴソ・・・


「うーん、毒マムシ大蛇エキス?」

「艦長がくれたこのジュースは・・・何かしら?」


「それは栄養ドリンクだピョン」

「男性は喜ぶのだピョン」


「まあ!素晴らしいわ」

「あと、ブルーベリーさんがくれたこの・・・」

「良く分からない女性下着は一体?」


「それも男性が喜ぶのだピョン」


「まあ!素晴らしいわ」





「おねーさま、何であの女を優遇するのよ?」


「まあまあ、あの娘にはこんな時しか楽しみがないのよ」


「艦長殿、テッカ少佐とストラトス中尉が居ませんよ?」


「どこかへ遊びに行ったわ」


「おねーさまも行けばいいのに」


「いいのよ、ここに居れば」

「ベースへ行ってケイトちゃんを置いてきます」


「え、自分だけですか?」


「うん!」


「女子高生、マザーがあんたを本気で治すつもりよ?」


「うひゃあ・・・」


「犬も居ないわよ?」


「うん、消えたのよ」


「まあ、あいつは役に立たないからねえ・・・」


「・・・・・」





「来ましたピョ」

「チョモル都市だぴょ」


「うっわああ」

「未来都市じゃないの」

「あたくしビビりますわ」


「うんじゃ、あのスペースにブチ込むから」

「帰る時に呼ぶのだピョン」


「はい」


海から低空で近づいて、大都市が広がる景色は圧巻だわ。

青い都市。



「これ、ほんとに面白いですわ」


今のスーツケースは、浮遊して追いかけてくるのです。

クルーのみんなは。


「お洒落して行きなさい」


言うのですが。あたくしはいつもの宇宙スーツでいいですわ。

カスタネット艦長が初対面で言った言葉。

「ユキオンナ」て何かしら。

今度、星間ネットで調べよう。


市民の皆さんもハイテケスーツ着てるから平気ですわ。

やっぱお化粧のノリが違います。

擬人にも肌年齢がありますわ。

艦長に言ったら、バカ笑いされてしまった。



「人が多いわねえ」

「平和都市ってこんなに幸せなのですわ」


「あ、あれ?」


だいぶ海岸から歩いて来たのですが。

あの信号の下で働いてる宅配屋のお兄さんが・・・


「!」

「エイジッ!!」


あれ?あの方は違うお兄さんではないかしら?

何であたくしは叫ぶのかしら?


バビュンッ!


高速で突撃、タックルアンドトライ!!


「うわあ」


どす!


よし!押し倒しに成功。

さあ、どう料理してやろうか・・・よ、ヨダレが。


「ステン!」


やっぱりこの男だ。


「エイジ、逢いたかったですわ!」


「ステン、ここじゃないよ?待ち合わせ場所は」


「はっ!?」


周りの大勢の市民さんが全員あたくしを凝視している!


「ま、マズイですわ」


ここで楽しんだら警察が飛んできます。



「コンタクト魚眼を落としましたのあたくし」

「見えないから転んでしまいましたわ、あいたたた!」


やりぃ!皆さん気にされなくなった。

何とかピンチをすり抜けたわ!


「ステンレスちょっと待ってて。すぐ仕事終わるからね」


「はい」




待ち合わせの展望台カフェに来た。

恋人指定席でエイジと語らう。


「エイジ、あなた逞しくなったわ」

「別人みたい」


「今は義足義腕がもの凄いんだよ」

「スポーツ選手にも成れるくらいなんだ」


「まあ!素晴らしいわ」

「あ、近くで見るとエイジの顔だわ」


「宅配の仕事で日に焼けてるからね」


「す、ステキ」

「あなたも、成人男性なのですね」

「恋人はできましたか?」


「うん、3人くらい付き合ったよ」


「げげげ!」


「全部フラレたけどね」


「ま、まあ・・・」


「ステンはどうなの?」


「あ、あたくしも殿方とお付き合いしましたわ」

「3万人くらいかしら」


ぽかーん


「?」


あれ?おかしな事言ったのかしら、あたくし。



「僕のアパートに来る?」


「ええ、そのために来たのですわ、エイジ」


「7日泊まります」

「迷惑ですか?」


「全然迷惑じゃないよステン」

「僕の奥さんに成る気はないのかい?」


「あたくしは男よりも夢を選んだオンナですわ」

「その気にさせないで下さい」


「あははは、ごめん」



高い所にあるカフェは、

透明な強化ガラスが周りの都市の景色を一望している。

日が傾いてきて、ほんのりオレンジ色に染まる都市の景観は。

まるで平和の住民気分。


「幸せ・・・」


注文した、ゴンゴンいちごソーダの泡がはじけている。


「しあわせさん、消えていかないで・・・」





マザーベース施設内。


「おねーさまはど~するの?」


「うん、これから考えるわ」


「ふ~ん」


「とにかく、ケイトちゃんを励ましてあげないといけないの」


「さすがおねーさま」

「最初は宇宙に捨てる気だったくせに」


「あっはははは!」


「あの娘、密航者だったのよね?」


「そうね、面白い冗談ね」


「サクラとテッカは居ないわよ?」


「うん、連絡はしてるから大丈夫よ」


「あの犬は?」


「うん・・・」


「・・・おねーさま」

「あの犬のこと」


「うん、やっぱりあの犬はこの星と関係がありそうなのよ」


「なんか、爆弾じゃないの?」


「あいつの脳回路を調べようとしたんだけどね?」

「どっかから遮断されるのよ」


「な、何それ?」


「忠犬3型は秘密があるのよ確実に」


「サクラもあるわよ?」


「うん、わかってる」



私はシャムロッドと2人で。

ベース施設の擬似リラクゼーション・ルームに居る。

仮想映像で私達を錯覚させてくれる。

今は、

ベンチ椅子に座って、高層ビル群の上空に浮かんでいる。

別に高所は平気だから楽しいのね。

風が気持ち良いんだな。

鳥みたいな気持ちね。

朝日が向こうから差していてまぶしい。

なんか心が洗われるわ。

ベースで休んでいきなさいってマザー・ランが言ってる。

あ、今はマザーが現役交代して。

マザー・ランなのね。

とにかく私達は、ケイトちゃんを一人前にする義務があるのよ。


「なんか楽しいな」

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