第39話シャムロッド・ザ・バン

「タイミング・ゼロ!」


「オペレーション・カスタネット」


「ミッションスタートしました」


「戦闘指揮管制は、当旗艦ジャム・ジャプリンが行います」


「全軍に通達」

「この作戦には膨大な準備期間と予算が投入されました」

「ミッションの為に失われた人員と時間を活用します」

「ひとつの成功の為に、皆さんの力を結束して下さい」

「遠方に展開する敵艦隊を一波から順に叩き潰します」



「コンバット・フライ2式、第一陣発艦!!」

「援護の艦艇は加速を初めて下さい」

「艦隊戦フォーメーションの順プログラムを当艦にリンク」


「仮定ロックオン射撃開始!」




「シャムロッド少佐!」


「いいわよ!」


「発艦して下さい、あなたのB中隊は戦略に入っています」


「ええ、徹夜で暗記しました!」

「部下にも叩き込んであります」


「ゴーッ!!」



・・・カタパルト射出、レーンが短いわ。

これじゃ搭乗員に負担がかかる。


横一列に並んだ自軍艦隊の前方には。

既に発艦を終えた、第一陣戦闘機編隊が無数の光源を放つ。

小さな幾つものキラメキは生きているような動きをする。


「生きてるんだ、あいつら・・・」


後方の艦隊から援護の主砲ビーム射撃が始まる。

幾つものクリアブルーの光線が、あたしたちの近くを前方へ突き抜ける。


敵は目視できない。


右前方の近くに惑星と衛星がある。


「文明圏・・・・」


今あたし達がアホみたいな殺し合いを始めたのに。

ここに住む人達には関係がないこと。



「少佐殿!」


「ネロ!」

「あんたは前に出過ぎるぞ!」

「あたしにくっついてろ!」


「自分だって搭乗員です、ヤレますって!」


「フザケンナお前!飛行時間は何だ!」


「ま、まだ・・・」


「飛行野郎は経験が全てだ!」

「生きて帰ってから威張れっ!」


「はっ!」



あたしは職業軍人だ。

何度もの戦場を志願して、人を殺し続ける。


でも生還する。


擬人は人を守る為に製造される。

人を守ることが擬人の生きる意味であり、それだけが価値だ。

あたしは反対のことをしている、カネを貰って。

部下や味方を護ると言うキレイ事も、言い訳をしたい理由が他に見つからないから。




作戦宙域に入ったわ。敵艦隊が出迎えて下さる。

思考を停止する。戦闘の脳パターンに移行。


「B中隊、このマーキングを潰せ!」

「あたしに続けえっ!!」

「戦力から外れるんじゃねーぞ!」


「了解!」



ビビ・・・


様々な光が炸裂する。

あたしはこのスリルが欲しいんだろうきっと。


部下は皆あたしに忠実だ。

擬人のロリータ・アバズレでも尊敬して慕ってくる。

配属されてくる新兵は皆、ガキみたいな顔をしてる青二才だ。

あたしより後に来て先に死んで逝く。どいつもこいつも。

軍人なんかに成らなくとも、もっとマシな仕事は幾らでもある。

カッコつけて自分から死にたがる奴なんて。


ただのバカヤロウだ。


この次元世界に戦争があることは、バカな商売屋が造ったのだ。

破滅の商売だ。

あたしは擬人だから、人以上の知性を欲しがる。

人を救いたいという本能が、あたしの中にもある。


おかしな現象だ、ありえないわ。


救いたいのに殺している。

あたしが死ねばいいんだ。

死ねことも出来ない擬人が、破壊される時を待ち続ける。





ミッションスタート時間から一時間経過してる。


主目標は達成されたが、当方の被害も甚大だ。

あたしの機体は被害軽微。

B中隊は、ネロとジーンだけ生き残った。

コイツラはひどい有様だ。

生還させないと、あたしだけ還る訳にはいかない。


「お前ら残りエネルギブロック無いだろ」


「大丈夫です、節約すればなんとか」


「慣性飛行で持ちますって」


「酸素はあるか?」


「はい」


まだ自軍艦隊まで遠い。

どっかに拾ってくれる艦艇が居れば良いんだが・・・

まだ無線が使えない。

敵が来たらアウトだな。


ビー!


「やっぱ来たか」


「少佐殿!6時に敵の送りオオカミです!」


「わかっている!」

「戦力はあたしだけだ、ノズルに点火しろ!」

「エネルギなんか気にすんな、死ぬ気で逃げろ!!」


「でも」


「はやくしろこのバカ!」

「今を生きる事だけを考えるのが人間だ!」


「今だけを生きろっ人間!」



ビビ・・・


主兵装レーザー兵器で部下を後方から威嚇射撃する。



ブワッ


2機とも出力全開で行っちまったな。

レーダー反応、機数は3。機体データでは戦力は対等だが、こっちは単機だからな。


ピィィー・・・


後方から小型ミサイル群が飛んで来る。


ブワッ!!


機動を急変換、ミサイルの軌道では追いつけない近くへ逃げる。

全て交わした、早く撃てと戦闘AIがうるさいわ。


シュシュシュ・・・


残りのマルチミサイルを全部使う。

さすがにうろたえてるわ。1機死んだ。

1機が被弾して、1機が視界外へ逃げた。


手負いから喰う。レーザー射撃でヘッドオン対決。


よし!もらったわ。


機体が交錯するが、あたしのコンバットフライⅡだけ生き残った。


ビィィィーー!!


ロックオン警告!


しまったわ!後ろを完全に取られてるじゃん!!


でも届くわ!


「これで最後なの頼んだわよ!」


バンッ!


計器パネルをぶっ叩く。

後部迎撃用・マイクロミサイルを全弾発射した。


敵の発射したミサイルもろとも自爆してくれたわ。



「ふう・・・とんでもないわ」



あたしも生還できた。武装は使いきった。

レーザーゲインがちょこっとだけあるな。



無線を開いてあたしの母艦「ミゲル」が言ってくる。


「シャムロッド少佐、誘導しますからコースに入って下さい」


いつものオペレーターのお嬢ちゃんだわ。


「はい、お任せします」



カタパルトハンガーで見慣れた2名の小僧が出迎える。


ニヤニヤしてる。


「少佐殿!どうやって生還できたんですか」


「神の声でも聴いたのですか?」



「アホかお前はあっ!!」


ブンッ!!


「おっと、甘いですよ。上官殿」


「可愛い髪の毛がめちゃくちゃですよ?」


「ばばば、バカ言ってんじゃないわよ」




あたしはシャムロッド。


擬人コード・LP30000BB。



この宇宙には愛と死が住んでいる。

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