第34話ケチャップマン伝説

「次の方どうぞ」


がやがやがや


ピンポンパン


「ムラサメドクター」

「至急カウンセリングルームへお越しください」


ピンポンパン



あたし、ケイト。

ここは惑星カニメシの、とある総合病院。

さっきから待合室で初診診察を呼ばれるの待ってる。

お客さんが大勢居て酸素が足りない。

保険カードが無いから高額医療費を持ってきた。


「アホンダラー・・・」


一昨日のフェスティバルで優勝して。

3兆アホンダラー貰ったから電子キャッシュで幾らだって払える。



あたしは6歳の時に難病の宇宙病を発病したの。

かろうじて一命は取り留めたけど。

その病気が原因で女子高生の時に家出したの。

あたしの故郷は、このファーム星系を離れた遥かなヤシャ星系。

50年経っちゃったけど、私はまだティーン。

冷凍冬眠してたから歳をとらなかった。


もう両親には逢えないない・・・

みっちゃん生きてるかなあ・・カズコは大学に行けたのかしら?

トリン艦長たちには黙って出てきた。

ラージシップ・ラインハルトしかあたしの居場所はないんだ。


お洋服が新品って良いわね。パリパリしててお菓子みたい。

あたしの髪と目が赤いから、全身・赤で統一してみた。

少し長めのウェット・スカートに、ステンのボタンシャツ。

赤いローファー、赤いサイドカバン。

赤毛が伸びたから、ポニーに縛ってきた。

鏡で見たら女の子に見えた。

あたしってホントは少女だったんだ。

家出した時に着てたお洋服はもう捨てちゃった。ボロボロ。

親に買って貰ったのにね。



もうじき呼ばれそう。


あのナース、化粧がケバいわ。

こっちのナースは、おっぱいがデカ過ぎて重力に負けてる。



半世紀も経てば医療だって進歩してる筈。治療方法がある筈よ。

あたしはこんな変な病気なんか嫌なのよ。


「ケチャップマンさん、中へどうぞ」


「はい」




医者の話は訳がわからなかった。

とにかく、まだ解明は出来ていない病気だから。

あたしの身体でサンプル採取させて欲しいと頼まれた。

今更逃げて帰る訳にもいかないから受諾した。

読めない言語の書類に手書きでサインしまくった。

手首がけんしょう炎になりそう・・・



「ケチャップマンさん?すぐに終わりますから」


「はい」



病衣を着せられて変なオペルームに連れて来られた。

真っ白なルーム、ゴチャゴチャ白い変な機械が並んでる。

カプセルに入れられた、透明ハッチを閉められる。

あれ、麻酔だこれ・・・何の変化もなく・・・


「こんな大発見を被験者自ら飛び込んで来るとは!」


「まさしく宇宙の医学会を揺るがす出世コースですな?」


「笑いが止まりません!」


え、何こいつら?

あたしで実験して医学の栄光をつかむつもりなの?

あたしをさらし者にする気なんだ。

生きた標本にする気だわコイツラ・・・


でも。


眠くなってきちゃった。



別にもういいけどね。

あたしは6歳の時に死んだほうが良かったんだから。



お父さんとお母さんに逢いたかったな。

あたしが居なくなった時に泣いてくれたかな・・・

最初から最後まで親不孝だったな。


・・・意識が消えてゆく。



ん?


幻覚かしら。


目の前で、クリアブルーの光線が横切った。

空間に微粒の粒子が残ってこぼれてる。


でも眠い・・・



「ケイトっ!」

「ケイト・ケチャップマンッ!!」



艦長殿!



「生きなさい!」

「生きたいと願いなさいっ!!」



ぶわっ


あたしの灼眼から涙が溢れだした。


レーザービームが乱射されている。

あちこちに命中してオペルーム内がぶっ壊れてゆく。


ブシュゥ・・・


ハッチが開いて、隣にいる人に首に注射を打たれる。


あ、


ノーマット副長だ。


トリン艦長がレーザーガンを狂った様に乱射しまくってる。

顔が鬼になってる。

副長に抱きかかえられちゃった。

術衣を着た医者ども4人がビビって腰を抜かしてる。

ブルーベリー大尉とストラトス中尉も居る。


「いいか貴様ら?」

「私たちの大事なムスメを」

「キサマらのおもちゃにはさせねーぞ!!」

「もしもなんかしたら・・・」


「ぶっ殺すぞ!!」


ビッ・・・


右手に持ったレーザーガンを真横に向けて撃った。

トリン艦長の顔は前を向いてるのに・・・

隣部屋の観覧席の強化装甲ガラスに丸い穴を開け、溶解が拡がる。

立って見てた白衣の奴らが、やっぱり腰抜かした。

艦長殿は本気なんだ・・・


「ケチャップマンさん」

「あたくし達にコクってくれたらよかったのに」


「ノーマット副長殿」


「まったく、退役女子高生はトラブルが好きよねえ?」


「ブルーベリー大尉殿」


「サクラが手引きしたの、この病院の監視体制を」


「ストラトス中尉殿」



まっ白だったオペルームの中が真っ黒い穴だらけ。

白い変な機械が殆ど破壊されてる。

壁の白いパネルが全部外れて吹き飛んでる。


「ケイトちゃん・・・帰るわよ」

「私たちの家へ」


「・・・・」


あたしは、また涙が出てきてしまった。

トリン艦長殿におんぶされて家に帰るんだあたしは。

ラージシップ・ラインハルトへ。


みんなで歩いて帰る。



ケチャップマン伝説は、まだ始まったばかりなの・・・

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