第33話戦闘指揮官候補生ステンレス

バクンっ!


ブシュゥ・・・


オペレーション訓練ルーム内で。

全部の候補生が1人1基に入る何十機もの仮想訓練マシーン。

「バリバリくん」の強化透明ハッチが一斉にオープンする。

白い蒸気で部屋が真っ白になった。


「ふう・・・」


あたくし、ステンレス・ノーマットは。

訓練過程を順当に消化している。

今回の仮想シュミレーションは手ごわかった。

一瞬の判断ミスで、自軍宇宙艦隊が、致命的な損害を受けるところだった。圧倒的不利な戦況下でどれだけ勝機を切り開けるかが課題。


「ノーマットさん」


「はい、教官殿!」


「この訓練はあなたの度胸を試す遊園地ではありません」


「はい」


「くすくす・・・」


最後に退室するいつものメンバー、あいつら弱虫3姉妹。

カトレア・ブーケ・ヒヤシンス・・・

あたくしが勝手に命名した。

一人じゃ何にも出来ない弱虫。


「いやですわ」

「ノーマットさんが、また教官に怒られてますわよ?」

「くすくす・・・」


けっ!他人を見下す脳内流しそーめんが!

素粒子魚雷でも食ってろ!このメスロボッ!


「ノーマットさん!聞いていますか?」


「はい!聞いています教官殿!」


「何ですか、あなたのオペレーションは」


「いけませんか?」


「大規模宇宙艦隊戦において、敵の旗艦を沈めることは」

「敵軍の指揮系統に、一瞬の隙間が発生し」

「敵戦力を削るチャンスを得ます」


「ですが教官殿」

「旗艦を沈めて、猛攻をかけるのにも時間が必要です」

「あたくしの脳内電子演算では」

「最右翼の」

「空母ドロシーを沈める事が最短時間で敵戦力を疲弊させる」

「判りますか?我軍には戦闘機の数が足りません」

「ですが、戦艦規模のレーザーの帯数は対等です」

「対戦闘機戦の艦隊損失は、じわじわと被害が拡大します」

「敵艦隊の士気を下げるよりも」

「宇宙空母の価値を失くす事が有効だと判断しました」



「ノーマットさん」


「はい」


「あなたの脳演算は、シュミレーションでは想定できない」

「実戦を考えています」


「はい、有難うございます」


「実戦は訓練とは違い、一瞬の判断ミスで」

「全てが変わってしまいます」

「戦略、戦術において、決まり事など適用されません」

「あなたは他の訓練生とは違う匂いがしますね」


「はあ・・・?」


「あなたの配属希望は?」


「は!」

「シスター・トリン艦長の直属であります!」


「まあ!」

「あなたも、あの伝説のLPに就きたいのですか」


「はい!」

「あたくしは、彼女の経歴、擬人としての信頼性」

「全てにおいて」

「あの方ほどの武運の持ち主は居ないと判定します!」


「ノーマットさんが宇宙英雄に憧れているなんて」


「あたくしも宇宙を駆け抜けたいんです!」

「加速を懸けて!!」


「・・・確かに」

「宇宙にはあなたのような破天荒なシスターが必要です」

「宇宙次元にワンパターンの生命は必要ありません」

「あなたの訓練過程の残りは?」


「カリキュラム半分消化したところです」


「資料ではあなたはマザー・レインの管轄ですね」


「はい!」

「母星チーズで衛星バターのスクール生活を夢見ていました」




あたくしは猛勉強した。

仮想訓練マシーンと電脳記憶マシーン。

プログラム思考化訓練。

でも、実戦では何もかもが変わってしまう・・・


訓練生お嬢様寮、夜の消灯時間。

あたくしは一人でベランダ内で外の星空を見る。

ベース基地内でも透過装甲ガラスが星空を見せる。


「宇宙は海」


昔読んだ文献に記述されていた。

人の涙が塩辛いのは、海の記憶なのだと云う。

チーズクラッシュ伝承も読んだことがある。

誰も知らないことが書かれていた。

あたくしは、愛・プログラムに惹かれてしまった。

シスター・トリンのことも。

まだ会った事も無い存在に憧れるのはイケナイ事かしら?


「くすくす・・・」


また弱虫3姉妹だ。冷やかしに来たのね。


「ノーマットさん、最近あなた教官に気に入られているわね」

「ワイロ?ご贈答?宇宙アンモナイトの缶詰?」


「うっせーんだよ!!」

「カトレア・ブーケ・ヒヤシンス!」

「貴様らメスロボはレーザー砲塔でも磨いてろやあっ!」


「・・・まあ怖い!」

「さすが育ちが悪いと音声機関にも出ますわねえ?」

「ささ皆さん。こんなアバズレには関わらない!」


「!」

「宇宙海賊に食われてろやっ!家畜ロボ子っ!」


「くすくすくす・・・」




あたくしは訓練過程をこなさねばならない。

経験が欲しい、高度で終焉なオペレーションを体験したい。

だからミリタリー・スクールに入校した。

仮想訓練はどこまでも偽物。

現実のほうがイレギュラーで有り得ない。



早くこのボディで宇宙を駆けたい・・・

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