第29話ケイト・ケチャップマン

「あははは」


「ケイトッ」

「ちょっとケイト!先生が睨んでるわよ?」


「ゲゲ!」

「100万ジゴワットのレーザービームだわっ!」


「あっはははっは!!」


クラス中にウケたわ、あたしったらクールね。


「ケチャップマンさん?」

「後で職員室に来なさい・・・」


「ゲゲ!」


「ケイト。あの先生、頭皮の事で悩んでるから」

「ネチネチ言われるわよ?」

「別名、納豆和尚よ!」


「あはははは」「ミッちゃん、おっかしい!」


「あ・・・」

「クラスで目立たない男子のAくんに見られてる・・・」

「ドキのムネムネが止まらないわ」


「ケイト!口頭で言うのはやめてえっ」


「ぎゃっはははは」



職員室でお説教されるあたし。


「ケチャップマンさん」

「あなたの成績がすぐれないのも」

「学業態度が悪いのも」

「あなたの家庭に問題があるのではないですか?」


「はい、すみません」



あたしは6歳の時から数年間。

原因不明の難病で学校へ行かなかった。

両親は、あたしを抱えて病院を駆けずり回った。

やっと見つけた、病気と診断してくれる病院で大手術を受けた。

何時間にも渡る手術は成功して、あたしは命をつないだ。


その高額医療費を払う為に両親は財産を使い果たし実家まで売った。

共働きの両親は、更に働きづめ働いた。

いつもあたしは、アパートで一人だった。

兄弟は居ない、居ないと親が言うから。

今日も部活をサボって帰宅部。

アパートで無料放送のリアル次元アニメ。

「タキオン・チルドレン」を夢中になって観る。


セーラー服を脱ぎ散らかして。

冷蔵庫に入ってる、苺ミルクとしみチョコを食べながら。

携帯ゲームで遊ぶ。

全部一人で出来る。


ある夜中、両親の話し声が聴こえる。


「あなた!ケイトが何の病気なのか知ってるわよね?」


「知ってるさそりゃあ」

「猛烈な感染力を持つ宇宙病だ」

「まだ医学解明も公表もされていないから無事だが」

「もしも公(おおやけ)に成ってみろ」

「俺達は生きて行けなくなるぞ!」


「!」


幼い頃からうすうす知ってはいたけど。

自分が不幸な運命の女子なんて、やっぱり信じられなかった。

病院に通うのは辞めた。学校もズル休みを連発。

親は何も言わなかった。


あたしは、一人で毎日ベッドで泣いて暮らした。



ある夜、あたしは決心した。


「家出するんだ、あたしは・・・」


夜遅くでも親は仕事から帰ってこない。

電気を消して鍵をかけて、鍵はいつもの隠し場所に。

置き手紙は書かない、辛すぎるから。

セーラー服を綺麗に整えてハンガーに掛けた。

何も待たずに、ピンクのお財布だけ。

貯金したお小遣いが結構ある。

定期シャトル便に乗って、この惑星から逃げたい。


あたしが誰か判らない世界まで。


友達のミッちゃんとカズコにサヨナラを言いたかった。

でも辞めた。

今すぐ逃げたくなったから。


とっくに覚悟は出来ていた。


あたしは産まれ変わりたい。


宇宙は広い、だだっ広い。


だから、こんなあたしだって受け入れてくれる。


宇宙は海、海に飛び込む。


人魚姫は、陸では生きられないの。



あたしのぬぐえない涙。


記憶。






「5式戦2番機」

「どうしました?あなたの番ですよ」


「はっ!」

「申し訳ありません副長殿!」

「2番機、射的レーンに侵入します」

「レーザーポインタでマーキングされたターゲットを破壊します」



まさか。


あたしが宇宙を大冒険する次元アニメヒーローに成れるなんて。

まだ、あたしは十代なんて。


宇宙は無限な夢であふれているわ・・・



「ケチャップマン機、ターゲットの撃破を確認しました」

「サーペント飛行隊、フライング・スパルタンとの」

「模擬無重力戦闘に移行して下さい」


「了解!」



今あたしの目の前、リアル投影モニターに宇宙が迫る。

目まぐるしく移動する幾億の星の光達は、


あたしを目印にする。


今この宇宙で生きているのは、あたしだから・・・

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