第24話無重力戦闘の美学

「おねーさま!」

「今すぐカタパルトデッキに来て!」


・・・・・・


「どーしたの?シャムロッド」


「あれ見て、あれ」


ミドルシップの外部の船体後部に、巨大な何かが・・・

ワイヤーで固定れている。


「何あれ?」


「兵器よ!」

「あんなものが宇宙で使えると思う?」

「ケイトよ!」

「あのオタク女子高生がヤリやがったのよ!」


「ねえ、なんか人のカタチしてるわね?」


「アレの正体は建機ロボットよ!」

「宇宙空間での建設作業にはアレが必要なの!」

「衛星ダイタンの修理工場で36回ローンで買いやがったのよ!」

「サクラに泣きついてロボット兵器に改造したの!」

「でかすぎてデッキに入らないから」

「船体外部にワイヤーで固定してるの」

「あのオタク少女」

「リアル次元アニメのロボット戦争モノのファンなのよ」

「星間ネットワーク無料放送であたしも観たことあるわ」

「化石時代の幻想を本気で信じてるのよ?あのガキ」

「あんなデカくて鈍い兵器なんて、良い的なのに!」

「遠距離ロックオン射撃で宇宙のクズよ!」

「何考えてるのあのバカは」

「おねーさま、信じられる?」

「武装をいちいち手で持ち換えるのよ?」

「操縦桿でトリガー引いても」

「ロボットの指でまたトリガー引くのよ?」

「時間と手間が無駄になるのよ?」「バカみたい!」

「化石時代に・・・『宇宙戦闘に足なんて要らない!』」

「てスローガンがあったけど」

「足どころか、腕も頭も要らないのに・・・」

「レーダーが使えない状況なら分かるわよ?」

「無重力空間での戦闘に、オタクの美学は迷惑なのよ!!」


「しゃ、シャムロッドが熱弁するなんて」

「確かに、でかいロボットなんて無駄飯食らいよねえ・・・」


「分かりました」

「ケイトちゃんには、私がきつーく言っておきます」


「頼んだわよ、おねーさま」



戦闘機パイロット控えルームで、ケイト・ケチャップマンが椅子に座って考え事中。倉庫で見つけた子供用宇宙戦闘服が似合っている。

だいぶ赤毛の髪が伸びてきた。



「うーん、ディメンジョン・バトラーの名前は」

「何がいいかしら?」

「カトリーヌ・3型・・・」

「うーん」

「アリス・ド・カステラ・・・」

「うーん、悩むわねえ」


バシュッ!


「ケイトちゃん!」

「お話があります」


「艦長殿!何でありましょうか?」


「あなた、軍隊言葉が板についてるわねえ・・・」


「そんな事はどーでもいいから!」

「自分勝手なことはしないで下さい!」


「あ、あのディメンジョン・バトラーちゃんのことですか?」


「でぃ、ディメ?」


「ディメンジョン・バトラーですよ、艦長!」


「問題はそこじゃないわよ?ケイト!」

「36回ローンなんて誰が払うんですか!」


「心配は要りません、あたしのお小遣いで払えますから」


「問題はそこじゃありません!」

「あんなノロマな巨大兵器は、ウチでは飼えません!!」

「どっかへ捨ててきなさい!」


「か、艦長ヒドイですう」

「あんなノロマな猫なんて・・・」


「・・・ケイトちゃん」

「もしも次の戦闘でアレを使ったら」

「あなたの身柄を、星間警察に引き渡します」

「家出少女ですからね?あなたの正体は」


「艦長殿!せっしょうでござるぅ!」


ケイトが泣きながら抱きついてきたわ。


「・・・・・」




ビィィィィィ!


「キャプテン・トリン」

「12時に所属不明の、ラージ・シップが2隻」

「戦闘レンジ内にいますが・・・」

「まだロックオンはされていませんが、ご指示を」


「うわああ、もう変な事が起きそうな予知が出来るわ」



「おねーさま!」

「女子高生が出撃するわよ!」

「あのバカを止めてえ!」


「私が何とかします。シャムロッドは発艦して下さい」


「どーなっても知らないわよ?あたしは」


「ケイトちゃん、艦長命令です」

「その巨大なハリボテを捨てなさい!」


「いえ、艦長殿・・・自分には判ります」

「このバトラーが、たった1機で戦局を変える事を・・・」

「システム、オール正常」

「ケイト・ケチャップマン少尉」

「カトリーヌ・3型」

「行って来ます!!」


ドドドドド・・・


「うわああ・・・私、艦長なのよ?」



「キャプテン!敵艦2隻にロクックオンされました」

「敵艦の素粒子魚雷発射管が開いています」


「コッチもロックオンしてっ!!」

「前部素粒子魚雷発射管オープン!」

「チャージ初め!」

「光子ビーム砲で牽制して下さい」


「了解」


「シャムロッド!」


「わかってるわよ、おねーさま!」

「あのハリボテを追い越したわ」

「右のラージ・シップからいただくわよ!」


「ポセイドン!コンバット・フライ1番機の援護射撃!」


コンバットフライ1番機が敵ラージシップに攻撃を加えている。

ケイト・ケチャップマンの搭乗するディメンジョン・バトラーは。

まだたどり着けない。


「遅いわよ!カトリーヌ」

「もっと速く飛べないの?」


ドッドーーン!!


「ケチャップマンのロボット兵器が」

「敵の素粒子魚雷に食われました」

「まだ敵艦に向かっています」

「危険だと判断しますが・・・」


「ケイトぉ!」

「あなたのご両親に戦死報告させないでえ!!」


「いえ、まだイケます艦長」

「まだ自分は戦果をあげていません・・・」

「この武装を全部使いきるまで、自分は撃墜されません」

「シャムロッド大尉は退がっていて下さい」


敵艦のビーム砲の歓迎をカワシながら、やっと敵艦に辿り着いたカトリーヌ・3型は。

レーザーライフルで連射しまくる。

高出力なので敵ラージシップはすぐに火ダルマになった。


「ちょっと女子高生!」

「あんたの機体、出火してるわよ!」


「感謝します大尉殿」


「えーと・・・自動消火装置は」

「あれ?作動してないや・・・なんで?」


「ケイトちゃん!あなた燃えてるわよ?」

「すぐにコックピット射出しなさい!」


「艦長殿、この機体にそんなものはありません」

「問題はありません・・・爆発する前に片付けますから」


「あわわわわ」


レーザーライフルからガチンコ・バズーカに持ち換える。

持ち換える時に手から離れて何処かへ飛んでしまった。


「あ、あれ?」


「うわああ・・・まるで人間みたい」


カトリーヌ・3型は丸腰になった。


「まだイケる!」

「最後の武器、ビーム日本刀があるわ!」


ビィィィンッ!


カトリーヌ・3型が、残りの1隻に斬りかかる。


ピピピピピ!


対空レーザー群に蜂の巣にされた。


ドッドーーンッ!!


「ケイトちゃーーん!」


カトリーヌ・3型が撃墜された。


「シャムロッド!」


「あたしが撃破するから、ミドルシップは援護して!」


ボンボンボンボンッ!


対空レーザの雨を全てカワしながら、コンバット・フライ1番機が敵艦に攻撃を加え続ける。


ズズズーーン・・・



宙域にヤミが戻った。

宇宙空間に無数の宇宙ゴミ(デブリ)が散乱する。


「シャムロッド、ケイトちゃんの生体反応が出てるから」

「あの方角へ飛んで」


「わかったわよ、おねーさま」



かすかな点が見える・・・

宇宙空間を子供用宇宙戦闘服が漂流している。




ミドルシップの戦闘ブリッジに全クルーが集まっている。


「あんた何でまた生き残ってるのよ?」

「信じられない!あり得ないわ!」


ケイト・ケチャップマンは、また生還した。

カトリーヌ・3型は、宇宙のクズになった。

ケチャップマンは、赤毛の長い髪が爆発している。

キレイな顔の肌が焼け焦げている。

疲れきった顔で笑顔をつくろうとしている。


「艦長殿・・・申し訳ありません」

「命より大切な機体を・・・」


「・・・もういいわ、ケイトちゃん」

「あなたが生きていてくれたら、何も問題ありません」


「か、艦長殿おー!」


がばっ!


ケチャップマンがトリンに泣きながら抱きついた。


「・・・ふう、ヤレヤレだわ」

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