第23話ダイタンのレディ

「・・・・」


「お客さま、チーフから店内サービスです」


「あ、ありがとうございます」


カクテルがひとつ追加された・・・

ピンク色で炭酸の泡がはじけている。

でもまだ注文したカクテル「ドキュン」を飲んでるから。


「順番よね・・」

「・・・・・・」


衛星ダイタンにあるベース居住区の中の繁華街。

カクテル・バー「サー・グテン」に居る私。

カウンター席に一人で座り飲酒中。

他のお客さんは少なくて、若いカップルはヒソヒソ話に夢中。

強化ガラス越しにライトアップされた夜の街が見える。

店内に流れる音楽のピアノソナタが、切なくて悲しい・・・


「私のソナタ・・・トリンタ」


ふっと涙がこぼれた。

テーブルにほおずえをつき、物想いにふける私・・・

着用してきたお洋服を見つめる。

前に星間ネットワークで購入した。

『レディの身だしなみコス・完璧セット、アフター5編』

を初めて着た。


「・・・・」


また虚しい気持ちがクリティカルする。


「マルさんが偽物だったなんて・・・」

「・・・・」

「じゃあ本物のマル・マールさんは、私のせいで殺されたの?」


・・・・・・


また涙が止まらなくなった。


ちゅうううう・・・


「ドキュン」を一気に飲んじゃった。


次!


ピンク色のカクテルに手を出す。


「ねえ?バーテンダーさん」


「はい」


「このカクテルの公式名称は何?」


「『ハートブレイク・ウエポン』で御座います」


「・・・・」

「今の私のマインドにピッタリなカクテルです」

「ありがとうございます」


「どうもご丁寧に、恐縮です」


ちゅうううう!


2秒で飲んじゃったわ。



ふらふらふら


「あららら」


「お客さま、大丈夫ですか?」


「へいき、へいき」


ふらふらふら


「あららら」


これが泥酔?


初体験だわ・・・600年も生きてるのに。

世界が大回転している・・・

千鳥足でエアタクシーに乗り込み、ドックへ向かう。


・・・・・・


ビュウゥゥン!


「アリガト!運転手さん・・・チュ♡」


私は夜の公道の真ん中で投げキッスを試した。



「ハートブレイク・トリン・・・」



宇宙港修理ドックのミドルシップ内で、いつもの奴らが待っている。

男だけを除いて・・・



「遅いわよ!おねーさま」


「艦長殿の女らしい姿を初めて目撃しました」

「自分は感激しております」


「トリンさま、女らしい・・・」


「ごめんなさい、さあ出港しましょう!」

「でもあなた達さっきから何食べてるの?」


「知らないんですか?艦長。ブヒブヒまんじゅうを」


「さっきサクラが売店で買ってきたのよ」

「宇宙一有名なブヒブヒまんじゅうを知らないなんて」

「やっぱ、おねーさまはただ者じゃないわね!」


「・・・・・」


私にはコイツラが居るのね・・・


やっぱスカートってお洋服は、股間がス~ス~するわね。

慣れないことは危険な香りがするわ・・・

早く着替えルームで、いつものお洋服に着替えないと。


「おねーさま、シャワールームで酔いを覚ましなさいよ?」


「はいはい・・・」

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