第20話ケチャップカーニバル

次の目的地、砂の惑星ネコジャラシまで。

まだ航路があるけど、なんか殺気を感じる。

遥か彼方から悪意が伝達される。

私のクリスタル・ソウルが感じている・・・

クリスタル・ソウルは人間で言う、タマシイのようなもの。

擬人に心が備わっている理由も、何となく分かる。

頭脳サーキットは頭部に収納しているけど。

クリスタルは、胸の真ん中にある気がする。


ビィィィッ!


「キャプテン!」

「大艦隊のお出迎えです・・・」


「はい?」


「トモダチ宇宙連合の正規軍です。何も無電して来ませんが」

「500隻くらい整列して臨戦態勢のようです」

「明らかに我がシップを攻撃目標にしてますね」

「フリゲート艦200隻、ミドルシップ100隻」

「高速バトルシップが100隻、旧型戦艦が100隻」

「理解出来ません、たった1隻のミドルシップに・・・」

「500隻で敵対行為をするなんて異常です」

「トモダチ宇宙連合は・・・」

『宇宙人はみんなトモダチだ』

「このスローガンのもとに設立された条約機構のハズですが」


「今、ロックオンされました」


「あわわわわ」


「キャプテン・トリン」

「いま、後部カタパルトからコンバット・フライ2番機が」

「射出されました」


「なんですって!?」


「ケイト・ケチャップマンが単機(たんき)で出撃しましたが」

「2番機の生還確率が・・・」

「右肩下がりで減少中です」

「現在26パーセント」

「無線が切られています」


「あわわわわ」


「おねーさま!あのオタク女子高生が」

「全部の手順をカットしてスクランブル発進しやがったわ!」

「信じられない!」「あり得ない!」

「化石人よあいつきっと!」「野蛮人だわあのコムスメは!」


「シャムロッド!」

「あなた、まだ発進できないの?」


「だからあ!あたしのデッキが止められちゃったのよ!」

「今、サクラに直してもらってるから」

「まだ時間がかかるわよ!」


「!」


「いくわよポセイドンッ!」

「プラズマエンジン出力130パーセント!!」

「2番機をロックする敵を脅威順にロックオン!」

「前部側部・素粒子魚雷発射管オープン!」

「チャージ開始!」

「光子ビーム砲、速射あ!!」

「コンバットフライ2番機の援護だけを戦術目標に設定!」

「絶対にあの娘を死なせては成りませんっ!」



500隻の敵艦隊に向かって突進するコンバット・フライの後を。

多大な閃光を放ちながら、ミドルシップ「∨・A・A」は猛追従する。

ミドルシップから放たれる数本のレーザー砲や素粒子魚雷は、コンバット・フライの後方からギリギリでよけながら追い越して、前方の敵艦隊にめがけ突き刺さってゆく。


その前からトモダチ艦隊の総攻撃は始まっている。

無数のオレンジや黄色や水色ピンク色のレーザー帯が。

帯をなしてトリンたちを殺しに来る。

素粒子魚雷、電子魚雷。遠慮はしてくれない抹殺。

ミドルシップ「∨・A・A」はエネルギーシールドが破壊され。

損傷率が拡大してゆく。サクラは大忙し。

サクラ・ストラトスが改造した。

「シールド再復活回路ちゃん」だけが頼り。

敵攻撃を回避する度に、ミッドシップの機動が急変更される。

船体側部・上下部バーニアが酷使される。

激しい横Gの連発にマル・マールがシートの上で気絶している。

固定エアベルトの限界を超えている。


宇宙空間が光で満たされる・・・




ここで信じられないのが・・・

ケイト・ケチャップマンの機体が被弾していないという事実。

神業的な操縦技術で攻撃をカワシ続けるケチャップマン。

彼女の瞳は、灼眼の瞳が更に赤く燃え上がっている。

ヘルメット内部で赤毛の髪は放電し、宇宙戦闘服からオーラが出ている。コックピットからキャノピー越しに、紅蓮のオーラを放出。



「ふっふっふっ」

「ケイト・ケチャップマン様の英雄伝説のスタートよ!」

「私は自叙伝を執筆するわ」

「そして印税でボロ儲け!」

『ケイトちゃん宇宙英雄伝説!』

「わ、笑いが止まらん!」

「ぎゃーっはっはっはっは!!」


その間にも彼女は、新装備の小型マルチ多弾道ミサイル数百発を連射し続ける。サクラ・ストラトスに泣きついて弾数を大増量してもらった。

ゲームセンターの様に、操縦桿のサブ兵装ボタンを連打するケイト。レーザー攻撃の主兵装ボタンは連打が高速過ぎて射撃が追いつかない。

旧型戦艦が爆発炎上する閃光の中からコンバット・フライ2番機が飛び出してくる。

迎撃に飛来する敵宇宙戦闘機の編隊を瞬殺する。

彼女の機動戦術が敵艦隊のコンピュータを凌駕している。

コンバットフライ2番機は光の残像と化した。


「・・・あの娘は一体何者?」

「確か、コレが初陣(ういじん)よね?」

「コレって現実なの?」


「おねーさま!出れるわ!」


「しゃ、シャムロッドの出番は無いかもよ?」


「はあ?」


「近くに惑星エビテンプラがありますね?」


「はい、ですがキャプテン」

「この惑星は大気の風速がマッハ3000くらいあるので」

「どんな存在でも原子分解されます」

「擬人であってもそれは同じです」


「だからよ!」

「あいつらトモダチを、エビテンプラの重力に叩き落とします!」


「!」

「キャプテン・トリン。さすがあなたの脳回路は冴えています」


「トモダチ艦隊を引きつけて、あの星へ落としてえ!!」


「了解!」


「武装パック・パターンCに換装!」

「無反応多弾道弾サイト、50基オープン!」


「発射できます」


「発射」


ボムボムボムボム


「・・・?」

「あれ?なんか攻撃できないわよ?」

「!」

「ああ、そうか!」

「無反応弾だから効果が無いのね?」


「いえキャプテン。それは違うような・・・」


「あららら・・・でも確かに撃沈できてる」



うまくおびき寄せて、大艦隊の大半をエビテンプラに叩き落とした。惑星シュレッダーさんね?

生き残ったトモダチ残存艦隊は、ビビって逃げちゃったわ。


ケイトといえば・・・


光になっちゃって、どっかへ行っちゃった。


「ポセイドン」

「コンバット・フライ2番機からの救難信号を拾いに行きます」


「了解しましたキャプテン・トリン!」



なんか、あり得ないわ・・・何もかも全部が。



「おねーさま、あたしを忘れてるわよ?」


「僕も忘れられています、トリン」


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