無花果の中庭

ふわりと消えた人

小さく細い体で笑ってた

いつのまにか いつのまにか

目の前からいなくなっていた


しょうがないと周りが言う

いなくなりたかったのだからと

だけれど、諦められない

僕を忘れたのかと言いたくて


出会えた あの日のこと

少し暑い日のことで

咲き誇る紫陽花を見ながら笑っていた

その横顔を今も思い出せるのに

無邪気に愛を振りまいていた きみは

僕だけは特別だと言っていたのに


さよならを告げなかった

それが悔しくて悲しくて

今度は手を離さない

いや抱きしめようとした


きみは笑って「久しぶり」と言うんだね

何十年も経っているから

過去のことにしたいって


泣き叫ぶのは影法師

きみと僕を知る紫陽花

泣きながら「どうして二人は幸せにならないの」

もう時間は取り戻せないけど

これからつくってゆけると言う


きみは実らない初恋だったのだと泣き

僕は「もうどこにもいかないでくれ」しか言えない


離れようとする君の指先を そっと抱きしめ

いかないで、と 子供のように

小さな声が聞こえたかな

弱くて、ごめん、君の知る

僕は寂しがり屋になったんだ

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